2月8日 彼女の身の振り方
2月8日、天候晴れ。
「わ、私の名前は孔雀小明。孔雀小明と言う名前でして……あれ? それ以外に覚えている事は……っと?」
とりあえずそのままの状態で放置する訳にも行かなかったんだけれども家に連れて帰ってみての反応がこれである。どうやらこれ以外に彼女が語れる事はない、俗に言う所の記憶喪失と言う奴であろうか。
「まぁ、僕が知る中で最も事情に詳しい奴はなかなか会えないのが問題なんだよな」
僕が知る中で最も事情通なのは神代であるが、その神代は水鏡の力を借りて話すのがほとんどであり、会いたいと願えば会える者ではないからどうするかが困るんですけれども。
(ともかくこの孔雀小明が、夢の中で神代と縁の2人が回収しとけと言われていた奴だろうな)
記憶を失ったから回収しといた方が良いのだろうか? それとも記憶がないからこそ回収した方が良いのだろうか? ともかく重要になってくるのは、彼女の記憶だろうな。
「まぁ、とりあえず君の想いとしてはどうなんだ?」
「どうとは……?」
「記憶を取り戻したいかどうか、だよ」
記憶喪失と聞くと、多くの人物は記憶を取り戻す事に精を出すけれども、記憶を取り戻す事が決して良い事とは限らない。記憶喪失の理由の中には思い出したくない過去を封じ込めている場合がある。周囲の人物が記憶を取り戻そうとして酷い事になる可能性があるかも知れないし。
だから大切になって来るのは、彼女が記憶を取り戻したいと思っているかどうかである。
「わ、私は………………取り戻したいと思っていますよ? 記憶を」
「そう、ですか」
今の不自然すぎる間から察する所、彼女は執拗なまでに記憶を取り戻そうとは思っていない。取り戻せるならば取り戻したい程度、そう考えているようだ。
(まぁ、いきなり言われてもそう答えるしかないなぁー)
正直、『今の状態に不満があるか?』なんて事を聞かれても困惑するしかないに決まっている。少し話を焦り過ぎてしまったかも知れない。反省しなければならない。
「その花……」
と、孔雀さんは僕が持って帰った彼岸花を指差す。具体的に何本持って来いとは言われなかったため、とりあえずあるだけ持って来てみたんだけれども正直多すぎた感じはある。反省すべきだ。
けれども、興味を示すと言う事は彼女の失われた記憶と何か関係があるのかも知れない。
「この花は彼岸花。本来ならば秋に咲く花だけれども、夢の中で群生地を教えて貰って少し多めに貰って来たんですが、それが何か?」
そう聞くと、彼女は一言。
「その……場所に案内させて貰えないでしょうか?」
と、口に出した。
 




