6月7日 部活は只今修羅場中
6月7日、天候雨
そろそろ梅雨も終わりに差し掛かったようで、梅雨と言う事を最後に見せつけようとするかのごとく、今日も雨が降り続けていた。週間天気予報によると9日の午後からだと言っていたが、今日はあいにくの雨模様。いい加減、雨も見飽きてきた僕は窓の外を見ながらうんざりしていた。
今日、暇つぶしにと持って来ていた本は妹の天塚弓枝が買って来ていた本、『ルーティ・ブラッドーその血の汎用性ー』と言う作品だ。
主人公、相沢緋糸の相沢家は邪神と言うこの世に最悪をもたらす存在を滅ぼすために存在し続ける一族だ。しかし、この前の封印は父親がやってくれたおかげで猶予はあと80年ある。緋糸が両親から求められている事は、相沢家の血筋を絶やさないように子作りする事。出来るだけ早急に子供を産んでいる事だけを求められている。幼馴染の伊佐恵にどやされながら、妹の相沢花蓮と共に邪神の復活を速めようとする蛇の一族を倒していく日々を送っていた。
ある日、そんな主人公のクラスに1人の女子生徒が転入してくる。彼女の名前は江西ルカ。天然でドジっ娘で、見ていて微笑ましいような美少女だった。しかし彼女がストーカーの被害を受けている事を知った主人公は、彼女を自宅で保護する事になる、と言う小説だ。
主人公の能力は親から受け継いだ『一志相伝・未魂』と言う力である。これは主人公が女性とキスする事によって、主人公とその女性の将来産まれてくる子供を魔力によって産みだすのだ。さらに主人公の能力が血を武器に変える能力であるため、『その血の汎用性』と言うタイトルになっている。特にヒロインが邪の一族の血を引く末裔であり、その血を悩んでいると言う設定は個人的に良いなと思った。弓枝が良いなと言っていた意味が分かった。が、そこまで良い作品とは思えないんだけれども。
さて、なんでここまで高らかに本の内容を言っていたかと言うと、それは一重に現実を見たくないからだ。
「むー……」
「ふふふ♪」
いつからこの部屋は、こんな修羅場になってしまったのだろう。今、この部屋は僕、それから部員の日向蓮華、そして部員じゃないはずの霧島恵美の3人が居た。そして何故か日向と恵美の2人が睨み合っているんだが……。
「あぅ……。え、えっと霧島さん……でしたっけ? な、なんでここに?」
「それはメインヒロインとして、ライバルにけん制しときましょうと思ってね」
と、何故か2人でそうやって話し合っているんでしょうか?
「むむむー……」
「フフフ♪」
と言うか、出来る限り。もっと仲良く、2人でやってくださいよね。……うん、お願いするよ。面倒だからさ。
僕は本に視線を落としながらそう言っていたのであった。
「それに私は彼に信頼されてるわ」
と、いきなりフィードアウトしようとしていたのに、恵美によってそれが止められる。
「彼は本が好きなの。そして私は彼と本の貸し借りをした事があるわ。彼は親しい人としか本の貸し借り合いをしない主義みたいなの。あなたにそれが出来て?」
「――――――――――っ! や、やって……み、みます!」
そう言って、日向さんは部屋を出て行ってしまった。恐らく本を借りに行ったのだろう。
僕は溜め息を吐いて、本を閉じて恵美を見る。
「そもそも、本の貸し借りが出来るほどの友達ってよっぽどの信頼関係がないと出来ないし、恵美以外だと妹としかやってないんだけど?」
「あぁん! やっぱり私はメインヒロインって事! なにせ、妹ちゃんは家族だし、家族以外だと私だけって事なんだから!」
フフン、とその大きな胸を張るメインエロイン、恵美。しかし、あれは……ただ彼女が無理矢理本を奪っていたような……。
(まぁ、どうでも良いか)
僕はそう解釈して、本を読み続けたのであった。