11月14日 お店の味、懐かしの味
11月14日、天候曇り。
天気のいい日は続きますが、冬に近づくにつれて寒くなってきております。
うろな町の中華料理店、『クトゥルフ』。
僕、天塚柊人と北風香苗の2人は『クトゥルフ』にて中華料理を食べていた。どこかでうろな町の味を感じたいと言うから探している最中に、寒くなって来たと言うからこのお店を選んだ。温かい料理なら、ここが一番だとそう思ったからである。僕は餃子、そして香苗は何故かうどんを食べている。中華料理店だと言うのに、どうしてこのお店は中華料理以外だろうと作ってくれるのだろうか。とても美味しいのは良いんだけれども、そんなに作って大丈夫なのか時々心配になる。
「いやー、前から思っていたけれども、このお店のうどんは最高だね。むしろ、うどん店として売り出せるくらいの美味しさだと思うね」
「……いや、ここは中華料理店なんだから、中華について褒めて置こうよ。そうじゃないと、色々と面倒だからさ」
奥に居る店主が何だか微妙そうな顔でこっちを見ている。褒められる事は嬉しいんだけれども、それを素直に喜んで良い物かとの狭間に揺れているのだろう。
「アハハ! しゅー君らしい意見だね! 私もそう思うよ!」
「だったら……」
「けどね、しゅー君」
そう言って、彼女は僕の口の中にうどんを突っ込む。いきなりの早業に驚きを隠せない僕に対して、彼女は笑いながらこっちを見ていた。
「――――――好きな物を好きと素直に表現出来ないのならば、それはダメだと思うんです」
「……あっ、うん」
それは全然、可笑しくは無いと思う。けれども、それを素直に表現できるかと言えば、僕には出来ないだろう。良いと言う事を素直に良いと表現出来る。それは子供なほど簡単で、大人になるほど難しい。良い事だと皆が知っているが、それを常に実践出来るかはまた別の問題だった。それを軽い気持ちで、話す事が出来る。それがどれだけ素晴らしい事だと、僕自身はそう思っていた。
「そうよ! 何事も素直が一番なのよ! それなのに、あいつらと来たら……」
と、向こうの方で一人お酒を飲んできた吉祥寺ユリさんが、こっちにやって来た。どうも、ユリさんも香苗と同じように話をしているはずなのに、どうしてここまで印象が違うのだろう。
今の彼女からは、香苗に感じたような素晴らしさの欠片も感じなかった。ただただ、自暴自棄になっている大人の戯言にしか聞こえなかった。
そう言う事から見ても、僕は香苗を素直に素晴らしいと思えるんだ。
「けど、どうもえーちゃんはそう言う事が出来ないのよねー。あの子は素直に表現すると言う事が出来ないタイプなのかも」
「まぁ、彼女にも色々とあるんだろうさ」
そう、どんな事情かは知らないが、また色々と。
「ねぇ、しゅー君。えーちゃんの事、ちょっとは気にかけてあげてね」
「そりゃあ、気にかけてますよ。幼馴染だし」
「もー。そう言う事じゃないんだけどな」
そう言う事じゃないのって、いったいどう言う事なんだろう? とりあえず、香苗の言う通り、僕は近日中に霧島恵美と話し合いたいと思ったのであった。
寺町朱穂さんの『クトゥルフ』、吉祥寺 ユリさんをお借りしました。