10月19日 私の《愛》の形
10月19日、天候くもり。
『兄妹愛』と言う言葉を検索すると、ネットや本で出て来るのは歪んだ愛情である。恋愛したいと言ったり、子供が欲しいと言ったり。おかげで私までそう言った目で見られてしまう。私は兄である天塚柊人兄様に対して、そのような事を考えた事はない。何故ならば、本来の『兄妹愛』とはそう言った物ではないからだ。
『兄妹愛』とは言うなれば、『家族愛』の上位版とでも言おうか。兄が妹に対して家族的な愛情を持ったり、妹が兄に対して家族的な愛情を持っていたりする。それが普通の『兄妹愛』である。
☆
「兄様? 兄様にとって《愛》はなんだと思います?」
ある雨の日の夜。私は家でのんびりしながら、優雅に本を読んでいる兄様にそう話を切り出していた。
「いきなりどんな質問だよ。……そうだな、相手を思いやり慈しむ心、とでも言っておきましょうか?」
「……我が兄様ながら、普通な答えですね。いつもの少し揺れ曲がった論理はないんですか?」
「どうしていきなり本を読んでいたら、そんな事を言われないといけないんだが」
「はぁ……」と溜め息を吐きながら、柊人兄様は本を閉じて私の方を見る。そして「うーん……」と考え込む。
「《愛》とは……いったい、何なんだろうね?
喜怒哀楽、人間の四感情のどれにも分類されない不思議な感情。それが《愛》。喜ぶ事も《愛》、怒る事も《愛》、哀しむ事も楽しむ事もそれもまた、《愛》なんだろうし。《愛》とは一言で説明出来ない、不思議な感情だよ」
一概には言えない……って事か。まぁ、私もその結論に達しますし、兄様が悪い訳、ではないんですよ、ね?
「言葉では言えない感情。それが《愛》と言う物なんだろう、ね」
と、兄様はそう言葉に出していました。
「……まぁ、《愛》ってなかなか難しい感情、ですしね」
と、私は一応そうとだけ言っておいた。これはそもそも難しい問題なのである。
《愛》と言う物は、そう本当に言葉に出来ないんだから。きっとありきたりな、差し支えの無い物で終わってしまうのだ。私はそう思っていた。しかし、兄様はこう答えていた。
「でも、そうだな。少なくとも僕がお前、弓枝に抱いている感情は《愛》だと思うよ。《兄妹愛》だけど」
そう言って、ニコリと笑う兄様に対しまして、私もそう思っていました。
うん、兄様の言う通り。その通りである。凄く良い答えだと思う。
「まぁ、あくまでもこれは僕の答えだし。弓枝がどう思うのかは別だと思うけれどもね」
「ううん、兄様。私はそれは凄く良い答えだと思うの」
―――――そう、とっても心に響く
良い答えだと思うの。