10月10日 《弓》追い人
うろな高校の一室、学園生活環境部の部室。そう、駄弁り部の部室。
私は横島楓さんの相談を受けていた。と言うよりかは話をするために、仕方なく部室を借りているだけですけれども。
「で、私は木下先生を落としたいのですが、どうしても難しいですね? やっぱり先生と生徒では恋は難しいみたいですし」
横島楓。
木下先生を落とそうと頑張る中学1年生。大人びた容姿の彼女の横島楓は、私に静かに自身の想いを吐露していた。
「……やっぱり私好みに調教する事が大事ですかね」
犯行を暴露していますね、本当に。
「え、えっと……あ、あんまり調教とかはダメ……かな?」
小動物のような黒髪の少女がそう言う。彼女はたまたま居たので来て貰った西村文さん。うろな高校の1年4組、図書部の人。あんまり会話した事が無いのでどんな人かは分からないけど、多分、良い人。本が好きな人に悪い人は居ないだろうし。
「そうです、他人さんの言う通りだと思いますよ?」
「た、他人さん……!? 私、そこまで警戒されてるの!?」
あぁ……そう言う意味ではないんですが……。私はだいたいこんな感じですし。
「でもね、西村先輩。私、うろな中学の木下真弓先生を落としたいんですが、と言うか私に惚れさせたいんですが、どうすればよろしいでしょうか?」
「え、えっと……分からないけど……難しい……かな?」
「ほら、やっぱりそうなんですよ」
そう言いつつ、木下先生を諦めるように誘導する私だけど、どうもまだまだ納得してくれてはいないようである。
「彼は私にとって、運命の恋人ですから。ですから、私はどんな事をしてでも彼と結ばれたいのです」
そう言う彼女は、とても恋する乙女だった。どんな事をしてでも、彼と結ばれるために全力を尽くす、そう言った恋する乙女。
私はそんな彼女を羨ましく思った。何せ、私はまだ誰も好きになった事が無いから。言うなれば、目標を付けていない《弓》。どこに飛ばすかも分からずにただ箱の奥に入れているだけの使われていない《弓》。それが私と言う存在だった。
けど、それではダメなんだと思う。人間の、普通の女子であるためには恋する事も必要不可欠なのだろう。だから、私は恋する乙女になる。でも、すぐには出来そうにない。だから、今の私は
―――――――恋する乙女を応援する立場で居ようと思う。
「横島楓さん。それに西村文さん。
―――――あなた達に、この《弓》を差し上げましょう」
そう言って、私は金色の《矢》を横島楓と西村文の2人に差し上げたのであった。そう、『恋を叶える弓矢』。
神代から貰ったこの《矢》を2人に渡す。
これは『恋を叶える弓矢』。そう、例えどんな状態になろうとも、どんな結果になろうとも。
―――――さて、どうなる事か。まぁ、どうでも良いですけれどもね。
神楽さんの、『仕立屋怪事件簿』から、西村文さんをお借りしておきました。