10月8日 《弓》のように降り続く雨
10月8日、天候雨。
《弓》。
矢をつつがえて射る武器。
木または木と竹とを合わせて弓幹を作って、弦を張ったもの。
一般的なファンタジー小説でいえば、エルフが使っているような物と考えていただければ、分かりやすいのかも知れない。
これは私の名前、天塚弓枝に入っているのだが、この名前は父が付けた。
『弓のようにしなやかな強さを持ちながら、枝のように広く広がる人であれ』
要するに、誰にでも優しくありつつ、1人でも生きていけるしなやかな強さを持つ人であれと父は私に願いを込めたのだ。最も、そうフォローしたのは、母であったのだが。
ちなみに兄である天塚柊人兄様の名前は、これまた父が付けた名前である。
『柊のように悪から人を守る人であれ』
母がまたフォローしたが、柊は節分の夜に活躍して、柊の枝と鰯の頭を門戸に挿すと悪鬼を払うと言われているのだそうだ。兄様にはそう言った悪鬼、おおざっぱにまとめて悪から人々を守るヒーローのような存在であれと父は言いたかったのかも知れない。私に比べて随分と大きな想いを背負ってしまった兄様は多少の挫折と後悔をしつつも、前へ前へと進んで来た。
けど、私はどうだろう?
果たして父の想いの通り、《誰にでも優しくありつつ、1人でも生きていけるしなやかな強さを持つ人》になれたのだろうか? いや、それ以前にこの世に自分の名前の意味を忠実に守っている人間が何人居るだろうか?
ともあれ。
これは私が語る最後の物語。
父の想いとは違ったが、《枝》のような《弓》を射る事となった私のお話。