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うろな高校駄弁り部  作者: アッキ@瓶の蓋。
温泉津=ヒューズベルト=来夏の章
42/93

9月20日 そのカメラの名は……

 9月20日、天候曇り。

 謎の天狗の仮面を付けた青年、天狗仮面によって来夏が大切そうに持っていたカメラが壊されてから、2日間。



 ―――――――来夏(らいか)は中学校を休んでいた。



「多分、あいつもあいつなりにショックだったんだろうな。あれから、一度も部屋から出て来ない」



 と、うろな中学に僕を連れ込んだ張本人である春日(かすが)先生がそう言う。春日先生はうろな中学の来夏の担任にしばらくの休学届けを出しに来ていて、僕はどうして休んだかの事情説明である。



「話は分かりました。担任の先生にはこちらから話を付けて置きましょう」



 と、その場に居合わせた木下真弓きのしたまゆみ先生が話を受け持って休学届けを受理してくれた。



「助かるよ、木下先生」



「いいや、こう言うのは本人の事情がありますからね。一旦、時間を置くのが大切ですよ、温泉津ゆのつ先生」



 『温泉津先生』と聞いた途端、春日先生は顔を強張らせる。それを見て不味いと思ったのか、



「か、春日先生」



 と言いなおす木下先生。春日先生は「よろしい」と言いつつ、僕の方を向いて「さぁ、帰るぞ。天塚あまつか」と言って、僕も頷いて職員室を出た。



「しかしあのカメラが壊されるとは……。壊すよりよっぽど太刀が悪い。『壊す』だったら自分の責任に向き合って、時間が経てば解決出来るだろうが、『壊される』だったらショックで当分部屋から出ないかも知れない。厄介だ」



 と、廊下を歩きながら春日先生はそう大きく独り言を言う。あからさまにこちらに話を振っている。僕はその誘いに乗るようにして、話を続ける。



「でも、どうしてそこまであのカメラに拘るんですか? 前に天狗仮面が『弁償するので代金を言ってくれ! 必ず返す!』と言っていたんですが、それも断って……」



「ただのカメラを弁償させるならば、私が金を貰う前にあいつに新しい、新品のデジタルカメラなんなりをあげている。問題はあれがただのカメラじゃないと言う事だ」



 「厄介な事にな」と春日先生が続ける。



「厄介……? と言うと?」



「例えば、例えばの話なのだが、お前は『温泉津』がどこにあるかを知ってるか?」



 突然、何の話だろう? まぁ、とりあえず知識の中の『温泉津』の知識を探る。



 温泉津。

 島根県の地名で、その名の示す通り温泉街として有名であり、なおかつ港町は世界遺産である『石見銀山遺跡とその文化的景観』の一部として、世界遺産に登録されている。くらい?



「それがどうかしたんですか?」



「私はな、天塚。『温泉津』と言う苗字が嫌いなんだよ」



 それは嫌と言う程伝わっています。最初に会った時、『温泉津先生』と呼んでしまった時のプレッシャーの重さは、今でも身体と脳に刻み込まれていますから。



「皆には『おんせんつ』なんて呼ばれてさ。だから、一時期調べたんだよ。バカにされないように『温泉津』っていう言葉をさ。

 お前もあるだろう? こう言う形では無いにしろ、苗字か名前をインターネットで検索したりした事が」



「まぁ……何度か……」



 確かに昔、『天塚』とか『柊人』と言う名前をインターネットにて検索した結果がある。と言うか、うちの世代はだいたいそうだ。小学生の最初のパソコンの授業、自分の名前を打ち込んで調べてみた生徒は多いだろう。



「自分と同じ名前があると見つけた時、嬉しかっただろう? 例えどちらか一方だとしても」



「まぁ……嬉しいと言えば嬉しかったですが、それが今回の話と関係あります?」



 『天塚』と言う名前の古墳があると知った時は、それなりに嬉しく思った物だ。だが、それが来夏の話とどうつながってんだか……。



「あいつのいとこにな、カメラマンのいとこが居たんだよ。まぁ、それ自体はどうでも良い。問題はそのカメラマンが彼女の名前を聞いて、思い出してしまったんだよ。彼女の名前と”全く同じ名前のカメラ”の存在を」



 それって……。



「ライカ。ドイツの会社が開発したライカカメラ。

 彼女が持っていたのは、そのライカカメラの中でもかなり古いタイプ。彼女と同じ年に生まれたカメラで、彼女にとっては半身と言っても良いほど大切にしていたカメラだ」

 YL様の、『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』より木下真弓先生を。三衣千月様の、『うろな天狗の仮面の秘密』より天狗仮面をお借りしました。

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