9月18日 カメ来夏
9月18日、天候晴れ。残暑厳しい。
パシャリ、パシャリ。
1枚1枚、まだ残る残暑の厳しい中、温泉津=ヒューズベルト=来夏は写真を撮っていた。ふと、彼女がこちらを見上げる。
「シュート。このカメラのNameを知っている?」
「突然、何?」
と、暑い日差しを遮るように木の影に隠れていた僕はそう聞く。
「いや、教えた事が無かったと思って。このカメラはFatherから貰った大切な、想いのこもったカメラ。このカメラの存在があったから、私は写真と言う趣味に目覚めたと言えます」
彼女はぎゅーっとカメラを強く抱く。
古ぼけたカメラ。僕としてはデジカメとかで撮った方が、その場で確認出来て良いと思うのだが、今の彼女にそれを言ったら僕は怒られてしまうだろう。
「このカメラは、私の大切なCamera。だって、このカメラは……」
「すまん、どいてくれ―――――――――――!」
来夏がカメラを天高く掲げて、そのカメラの思い出話に華を咲かそうかと言う時。大きな声が響いて来た。
振り向くと、来夏めがけて天狗の仮面を付けた謎の存在が猛スピードでこちらに向かって来るのだ。
「来夏、危ない!」
「What's happen!?」
僕は慌てて、彼女を抱きかかえて地面の脇へと逸れる。その際、来夏の手からあの古ぼけたカメラが落ち、
「Oh……!?」
天狗仮面がそれを踏みつけていた。乗っていたスケートボードで。
カメラをもう二度と復元できないような状況にして、天狗仮面は止まった。天狗仮面、最近噂の天狗の仮面を付けて街をパトロールしている謎の青年だ。彼はスケートボードから降り、こっちに来る。
「すまん、やはり文明の利器は扱いが難しいな」
「文明の利器って……」
スケートボードにあまりにも似つかない称号だ。少なくとも初めて聞いた。
「どうしていきなりこっちに、猛スピードで向かって来たの?」
「うむ、実はな―――――」
天狗仮面の話をまとめると、彼は飛ぼうとしていたのだ。勿論、大空へ。滑稽無形な話と僕は笑うが、本人からしたらそれは大まじめな挑戦だったらしい。
うろな町の一番高い場所からスケートボードで助走をつけて、大空に羽ばたこうと計画していたのだが、それが思いのほか速くて、結果飛べず、ここまで滑り落ち、そのまま僕達の方に激突。カメラをぶち壊したと言う事らしい。
「すまん! この君が大事にしていたこのカメラは、必ず弁償すると約束しよう! だから―――――」
「It is already splendid.」
『もう結構です』と来夏はそう天狗仮面に言う。
「The lost thing never returns any longer. Yes, the camera of those recollections is already ---- again.」
「えっと……すまん。外国語はさっぱりなのだが」
天狗仮面が戸惑いの眼で、来夏を見ている。
「『失った物はもう二度と戻らない。そう、あの思い出のカメラはもう二度と……』と言っている」
「な、なるほど! ありがとう、御仁! そ、それでも我は確かに弁償を――――!」
「Already .... It is useless. Everything. Because this camera has broken.Anything does not already have recollections to me.」
そう言って、とぼとぼと歩き出す来夏。
「ちょ、ちょっと待ってそこのご令嬢――――――! え、えっとは、ハロー! す、ストップ!」
天狗仮面は来夏を止めるように、必死に英単語を並べつつ、来夏を追いかけて行った。
『もう……無駄なんですよ。何もかも。このカメラが壊れてしまったのだから。もう、私には何も思い出が無い』
今、彼女は英語でそう言った。一体、どう言う意味なんだろう?
三衣千月様の、『うろな天狗の仮面の秘密』より天狗仮面をお借りしました。




