6月1日 雨と妹
6月1日、天気雨
土曜日。晴れだったら俺は本屋で時間を潰すのだが、雨だったので俺は家でゆっくり本を読んでいた。俺が読んでいるのは買って来た本、『嘘でも良いから愛して!』だ。
内容を簡単に説明すると、主人公の女性、都築依子は24歳にしてまだ恋人のいない悲しい大人の女性。ある日、依子は友達である和草弓枝に連れられてとある男性と出会う。それは人を金で愛していると言う愛人契約の男性、栗花落金次であった。依子は4時間と言う契約で愛人契約を結ぶ。何回も金次と会って居る内に依子の心の中には金次に対する本当の愛が芽生える。そして彼女はこう言うのだ。『私の事、嘘でも良いから愛し続けて!』と。そして徐々に金次の心の中にも依子に対する愛が溢れて、2人は結ばれるという話である。
読んでみて一言。
「こんなの、現実であり得る訳無いな」
俺は案外、恋愛が嫌いなのだ。こう言う純愛系は本当に苦手だ。
はぁー……酷い本を読んだ。酷い本を読むとその日一日落ち込んだ気分になるなと思う俺である。こうなると良い本を探して気持ちを落ち着かせるしかない。家にある自分の本は全て読了済みなので、俺は新しい本を買いに、本屋へと向かおうとする。扉を開けて階段を下りていく。
「兄様。少女から電話です」
と、そんな俺を呼び止める、電話の子機を持った1人の少女が居た。顔は日本人らしいが無表情、髪は黒髪のおさげと日本人形を思わせる顔立ち、しかし身体はメリハリの付いたスタイル抜群のアメリカ人形を思わせる身体つき。
彼女は俺の妹、天塚弓枝である。
俺の家は両親、俺、妹、そして今は居ないが居候中の従妹の5人家族。両親と従妹は只今外出していて家には俺と妹の2人きり。これがもし俺と弓枝の恋愛物語だったらやばい雰囲気になりそうだなと思いつつ、俺はありえないと断じて彼女の言葉に頭を巡らせる。
弓枝の呼称は、ある意味独特的だ。
父親は『父上』、俺は『兄様』と家族に対しては時代錯誤な呼び方をして、友達や俺の知り合いに対しては呼び捨て、もしくはさんや君付け。そして『少女』とは彼女が知らない女性に対する呼称だ。ちなみに知らない男性だった時は『少年』と呼ぶ。
彼女が『少女』と呼ぶという事は、知らない女性からの電話という事だ。そしてその知らない女性は俺に用があるのだという。最近、知り合った人物だと1人しか該当する知り合いが居ないため、俺はあいつかと思いつつ、妹から電話の子機をもらった。
「もしもし」
『あ……あの、あの! こ、こちらは天塚柊人さんの……お宅で……よろしいでしょうか!』
やっぱり……。俺は電話の向こうの相手、日向蓮華にうんうんと頷く。
『よ、よかった……。いきなり知らない女性の声で……びっくりしちゃいました』
彼女とは5月30日、31日と続けて部室で喋りあっていた。どうやら部員になる事に同意してくれて、まじめにも彼女は毎日部室に足を運んでいるのだ。幽霊部員になってくれる事が狙いだったが、俺はまぁこれでも良いかと思っていた。
その2日間の駄弁りのおかげで、ようやく彼女は俺に対してまともな感じで喋れる事に成功したのだ。まぁ、ほかの人には相変わらずきょどりまくっているのだけれども。その過程で電話番号を教えていた事を思い出した。そうか、それで電話をかけられたのか。
「で、今日は何? 部活ならば休日はないよ。学園生活環境部はある一定の日以外は休日活動しておりません」
『そ、そう言うのじゃないよー。あ、明日出来るならばいっしょに遊ぼうかなーって』
「明日か……」
日曜日は出来る限り、休みたいんだけど。休日だから。とは言え、それを素直に言う事は出来ない。
「明日が雨じゃなかったら良いよ」
『う、うん! 雨じゃないと良いねー。じゃあ、雨じゃなかったら商店街で!』
と、日向はそう言って電話を切った。
翌日は彼女には残念ながら雨だった。