9月5日 死者と恥者は突然に
9月5日、天候晴れ。
9月5日、秋になって夕暮れが段々と時間が早くなっていくこの頃。
「と言う訳で、これが話していた温泉津=ヒューズベルト=来夏さんです」
学園生活環境部の部室で椅子に座りながら、僕はそう言う。今日、持って来た本は『Blond Country』と言う金髪少女と黒髪少女、その周りを取り巻く少女達の話である。金髪少女、エイミーは外国からの転入生で、ホームステイ先の黒髪少女、縁や周りを取り巻く少女から日本の事を学びながら、日々を過ごすと言うハートフルコメディの小説である。最終的にエイミーは日本の事を教えてくれた縁達にお別れを言う所がかなり気に入っているのだが、
(来夏と日向さん、それから水鏡の3人も、お別れの部分以外は真似して仲良くして欲しいな)
と思って僕は来夏を紹介する。
「水鏡栗花落です。今日もあなたの望む水鏡栗花落ですか?」
「……え、えっと日向蓮華、です。よろしく、です」
水鏡はビシッと敬礼をして来夏の方を向き、日向さんは柱に隠れつつこっちの状況を窺っている。日向さんは行動で示すから分かりやすいけれども、水鏡も同じように目が明らかに無表情のままだ。どちらもそれなりに来夏に警戒していると言う事だろう。霧島だったらもっと簡単に打ち解けられるとは思うんだけれども、やはりこの2人だとそう簡単にはいかないか。
「Yay. 今、ご紹介に預かりました温泉津=ヒューズベルト=来夏。このような見た目ですが、アメリカ人とのハーフで、それなりに日本語が出来ますので、気軽に話しかけてくれるとHappyです」
「Right. 分かりました。今求められているのはこのような水鏡栗花落ですね」
「話がややこしくなってしまうから、お前は普通に喋ってくれると助かるぞ。水鏡栗花落」
と、何故か来夏の口調を真似しだした水鏡にそう注意して置く。お前も一緒の口調で話されると、聞いているこっちが混乱しそうだからだ。
「……あぅ、が、外人さんだよ。え、英語しか通じないのかなー」
こっちはこっちで妙な勘違いして、とっても警戒しているようだし。普通に日本語を話しているのを聞いていただろうに。
「大丈夫です。私はAmericanとのハーフなだけで、普通のTalkには困りませんよ」
「……こ、怖いよー。は、ハーフさんだよー」
ハーフでも警戒は解けないか。とりあえず警戒しているだけだと思うが、これは直すのは時間がかかりそうだ。
「水鏡さん。あなたは確か特異な能力を、持っていると聞いているんですが……」
「そうですね。来夏さん。では、お見せしましょう」
そう言って、プツンと糸が切れたマリオネットのように身体から力を抜く水鏡。そして一瞬にして纏う雰囲気を変えた水鏡は、別人のようである。まぁ、本当に別人なんだろうけれども。
「よぉ、珍しい奴だな。俺達に自ら会いたいとか、まともな神経の持ち主とは思わねぇぜ」
「―――――――――これが幽霊を纏うHumanと言う奴ですか。良い写真が撮れそうです」
「心霊写真でも撮る気かよ、お前は。まぁ、面白い奴だとでも言っておくか。カカカ、嫌いじゃねぇぜ」
縁と早速仲良くなってる……。と言うか、撮ったとしてもただただ『水鏡栗花落~縁バージョン~』が撮れるだけだと思うんだけれども……。
「……栗花落ちゃんが可笑しくなって、それに来夏ちゃんはハーフだし」
あぁ、そうか。まだ日向さんには縁が乗り移った状態を言葉と言う情報だけで、実際には見てなかったと言うべきであろうか。と言うか、来夏がハーフだから警戒しているネタはまだ引っ張っているの? いつまで引っ張る気なんだろうか?
結局、日向蓮華と水鏡栗花落の2人は温泉津=ヒューズベルト=来夏とは仲良くなったとは言えず、縁と来夏の2人が仲良くなったと言えるだろう。時間はまだまだかかりそうである。