8月25日 駄弁り部バザー
8月25日、天気晴れ。暑い。
【バザー概要
日にち;8月25日
場所;うろな北小学校体育館】
===売り手;天塚柊人&弓枝===
===買い手;十六夜零音&狐ノ派静月===
今日、僕達はあくまでも学園生活環境部として(まぁ、弓枝も霧島も居るが名目上として)、人々の為になるようなボランティア活動の一環としてこのバザーに来ている。しかし、それでも僕は目の前でイチャついている2人を見て、なんとなく居心地が悪いと思っていた。
「……ねぇ、零音君。どの本が興味深いと思う?」
「そうだなー、静月さんの好きなので良いと思うよ?」
目の前でイチャついているカップルを見れば、誰だってイラつくと言う物だろう。僕は別に誰と誰が付き合うとかで、格別に興味がある訳じゃないが、かといって無関心すぎると言う意味でもない。そして、目の前で嬉しそうにイチャイチャを通り越して、イチャつきすぎるカップルを見れば、誰だって良い気分はしないだろう。どうやら彼らはカップル……いや、水着大会で見れば修羅場っていると言う意味か。なにせ、あの男性にはまだ恋人が2人もいるのだから。
まぁ、少しイラつく限りで特に本当にイラつく訳ではない。せいぜい、「「あぁ、イチャついているなー」と思うくらいだ。
「店員さん、おすすめの本、ありますか? 出来れば、狐と人間との恋物語とか……♡」
と静月さんが僕と共に店番をしている弓枝に聞く。
弓枝が出品しているのは僕と同じく本であるが、彼女の持って来たのは彼女の本で、彼女の本は恋物語が多い。『狐と人間の物語』に限定している事は何か引っかかったが、まぁ狐は意外と人気だから彼女のお目当ての本も見つかるだろう。
「これなんて、どうです? 他人さん、『妖狐の愛される呪い』、狐が自分の好きな人間に愛されるために、自らに人間と結ばれるための呪いをかけたと言う恋物語ですが……」
「……一応、確認しておきますが、ウサギや虎は出てきませんよね?」
「出て来ませんよ、他人さん。100円です」
「良かったー、良い感情移入が出来そう……。けど、他人さんって?」
どうやら弓枝の方は無事に、お客様に気に入って貰う商品をみつけられたらしく、静月さんも満足そうな顔で代金を払っている。
「ねぇ、店員さん。これって幾らかな? 気に入ったから出来れば欲しいんだけれども」
と彼、十六夜零音君が言うので、僕はその本を見る。えっと、確かこれは
「その本は200円です」
「なるほど、この本好みだから楽しみだよー」
彼はそう言って、満足げな表情でその本を懐に入れようとして、ガシッと静月さんに手を掴まれている。
「えっと……静月さん? どうしたのかなーって……アハハハハ」
「零音君、その懐に入れた本、見せてくれる?」
ゴゴゴ……と言う背景の音が聞こえるくらいの圧倒的な雰囲気を漂わせながら、零音君を睨み付けている。
「……はい」
と零音君は今買った本を静月さんに見せる。
その本のタイトル、『アンヒューマン・ハーレム』(所謂、人では無い妖とのハーレム物語)を見て、静月さんは彼を怒鳴りつけるのであった。
===売り手;日向蓮華===
===買い手;清水渉&清水司===
「け、けけ、結婚、おめでとうございます! 清水先生!」
「いやー、ありがとうね。日向ちゃん」
「ふむ……知り合いに言われるのは悪くない、か」
と、日向はこの間結婚した清水渉先生と清水司先生、旧姓、梅原司先生を祝福していた。
「す、すいません。お祝いしたかったんですが……この町に居なくて……」
「仕方ない。私はこいつと一緒にこいつの実家で色々とやっていたんだからな。挨拶回りとか、赤ちゃんを預かったりとか、ご両親達に説明とか」
「司さん、そろそろ止めてください……。日向さんが顔を赤くしています」
日向は「ご両親に挨拶、そして赤ちゃん!?」と言いながら顔を赤らめている。
「お、お、おお2人は既に赤ちゃんが……」
「い、居るが恥ずかしいだろう、こんな所で!? なぁ、渉!」
そう言って司先生は、日向の出品物である大きな熊のぬいぐるみをぐるりと振り回す。その振り回された熊のぬいぐるみは、渉先生にもろにヒットする。
「ごふっ……!?」
あまりの衝撃に倒れる渉先生。
「い、いやー! だ、大丈夫ですか、渉先生!?」
「……ふむ。少し手荒に扱ってしまったな。赤ちゃん用にはちと大きいが、致し方あるまい。日向、300円だな」
「は、はい! そ、そちらは300円になります。あ、あと渉先生を起こすためにこのドリンクもどうぞ!」
そう言って、お金を受け取った日向はそのままドリンクを差し出す。
「おおっ、気が利くな。このままでも起きるだろうが、邪魔になるだろうし早く起こそう。このドリンクでも飲めば目が覚めるだろう」
司先生はそう言って、その日向特製ドリンク(青汁入り、その他ハバネロ、スポーツドリンクなど味には期待出来ない健康ドリンク)を飲ませ、
「ごふっ……!? い、息が……!?」
渉先生は再び衝撃を受け、なんとか起き上がって司先生と共に帰って行った。
===売り手;霧島恵美===
===買い手;日生涼維===
「あら、久しぶりね。涼維君」
「お、お久しぶりです。霧島先輩……」
と言いながら、日生涼維は焦っていた。霧島恵美、彼女は剣道大会で戦い、その作戦(?)にて見事に嵌められて負けてしまった相手。その件で家族からは色々と言われてしまい、散々な目にあった。そして今日、会うつもりもなかったはずが、こうして会ってしまった。捕まってしまったら、もう逃げられる事は出来ない。故に涼維はこの前のような失敗が無いように、気合を入れていた。
(売っているのは木製のアクセサリー! 写真とか写真集とかそう言った物だったら、また色々とからかわれるかと思っていたが、これならば大丈夫そうだ!)
涼維はそう強く思っていたが、彼は知らなかった。既に写真や写真集は柊人によって却下され、その却下されたからこの木製アクセサリーになった事を。そして、彼女がどれだけエロインであるかを。
霧島は優しく涼維の耳元に近付く。それだけで彼女から香る香りが、どれだけ良い香りなのか。
「ねぇ、涼維君。このアクセサリーは木で出来ているのは分かるよね?」
「は、はひ。わ、分かりまちゅ」
既に涼維の身体はかちこちで、口もきちんと喋れていない。霧島はそれを見て、クスクスと笑いながら可愛らしいと思っていた。そして、さらに続ける。
「涼維君、木は加工した後でも水分を吸いやすいって知ってるかしら?」
「そ、そうなんですか?」
「そう。空気中の水分程度ならばそこまで吸わないんだけれども、人の水分、つまり汗って意外と染みる物よ」
「へ、へぇー」
そう言う知識を得ながら、涼維は「これなら大丈夫かな」と思い始めていた。
(身構えすぎたんだ。いくら彼女でも、これをエロい方向に持って行けるはずがない。そもそも、女性成分高めの家に俺は居るから、さほど興味を持ちさえしなければ……!)
涼維はそう思って、警戒を緩めたまさにその時。霧島は絶好のタイミングで、彼に爆弾を投下した。
「―――――ちなみに、女性の汗が一番かきやすい部分は胸の下。特に巨乳の女性の胸の下は、この時期、蒸れるのよね。私、それが我慢出来なくて、この中の商品のいくつかを汗を取るのに使ってしまったかもー」
それを聞いて、涼維は考える。
水分を吸う。
木製のアクセサリー。
汗をかいたから、吸わせた。
”巨乳の人は特に”。
”汗をかきやすいのは胸の下”。
涼維は顔を赤らめつつ、木製のアクセサリーを購入するのであった。
===売り手;水鏡栗花落===
===買い手;芦屋梨桜&稲荷山孝人&狐坂奏===
「だ、か、ら! この値段でこの性能のお札は本家でもあり得ないの! だから、10万! 今出せるお金でこれ頂戴!」
「……バザーだから3000円以内でないと怒られる」
「なんだ、これ」と稲荷山孝人は小学校の体育館で思っていた。
芦屋梨桜に「もしかしたらバザーの品の中に九十九神があるかもしれない!」と言われて、連れて来られたのはいかにも古臭そうな物ばかりを売っている水鏡栗花落先輩のお店。
日本刀、壷、日本人形などなど、いかにも値打ち物ばかりが10円と言う格安価格で売られているその場で、芦屋は一枚のお札を見つけ、「これを100万で売って!」と言い放つ。水鏡は「……10円」と言い、お互いに意見が割れず、こうやって勝負が続いているのだ。
「どうしたんだ、芦屋。ここは一律10円なんだぞ。全部、10円だ。そのお札も10円なんだから、10円出して買えば良いじゃないか」
「止めないで、稲荷山君。これは……私が本家で見た物よりも強力なお札。これを使えばきっとどんな妖怪だって、封じる事も滅ぼす事も出来る。そんなお札を10円で売っているのを見て、芦屋家の人間としておいそれと10円で買える訳ないじゃない!」
つまり、あれか。
芦屋はこのお札が超絶凄い物と思っているのだが、それが10円と言うぼろ糞な値段で売られているのに腹を立てて、なんとか高い値段で買いたいのだろう。
(10円で良いと言っているのに……)
その間にも2人は言い争いを続ける。
「このお札は歴史的にも、効力的にも大層な代物! それをたった10円なんかで売り買いするだなんて、私のプライドが許さないんです、水鏡先輩!
今は10万円しかありませんが、後で本家の人達から追加料金で100万円お送りしますので……」
「……バザーは安く。だからそんなに要らない」
「た、高く買い取ろうと言っているんです! 私は! これは凄い代物なんですから、お金を受け取ってください!」
「……柊人君から言われた。高すぎるのダメ。貰いすぎるのもダメ。だから、10円で」
「極端ですよ、水鏡先輩! そもそもこれ、誰の物なんですか!? 水鏡先輩の物なんですか!?」
「……神代の物。でも、私に譲り受けられた」
「誰ですか、神代って――――!? でも、私は負けません! あなたには意地でも高額の値段で売って貰います」
「……絶対、安く買ってもらう」
こうして世にも珍しい、高く売って貰おうとする買い手と安く買って貰おうとする売り手との勝負が、始まった訳だが、稲荷山はどうでも良いと思いつつ、それを見ていた。
「おおっ、孝人! この煙管、もしや九尾一族から失われし伝説の管狐を入れるための伝説の『狐煙管』ではないか!?
店主、これを100万で買いたい! ほら、孝人ももっと値打ち物がないかを探すのだ!」
「……お前もか、奏」
そう言いつつ、さらにめんどくさい事になりそうだと思う孝人だった。
梔子さんより、十六夜零音と狐ノ派静月さん。
YLさんより、清水渉先生と清水司(旧:梅原司)先生。
とにあさんより、日生涼維君。
寺町朱穂さんより、芦屋梨桜さんと稲荷山孝人君、狐坂奏さんを。
以上、合計、8名をお借りしました。