8月21日 海の家の『DQN's』・前半
8月21日、天候晴れ。猛暑。
8月21日のその日の夜。海の家AKIRAの前に特設会場が出来ていた。僅か数日で作っていたとされるこの会場は、『DQN's』がその今までのコネを総動員して作ったとされている。ここで今、『DQN's』のライブが開かれる。
「で、では、これより皆様お待ちかねの『DQN's』のライブを開催したいと思います! あ、あの私は歌わないですから、私コールは止めてください。で、では始めさせていただきます! 『DQN's』で『One Best』!」
司会である海の家AKIRAの青空空の紹介に続いて、2人の少女にしか見えない歌手の2人が海岸のステージの上に現れた。小柄な白衣の天使にしか見えないコスチュームに身を包んだ瀬島蒼龍、そして長身で黒衣の悪魔にしか見えないコスチュームに身を包んだ大神義愛である。そして瀬島蒼龍は皆に手を振った後、お互いに愛用のギターを持った状態で歌を歌い始めた。
彼が歌うのは、『One Best』。
誰もが違い、誰もがOnly.1で良いと、皆違って皆良いんだよと言う歌。
まるでそれは『DQNネーム』と言う普通では読めない、一部では迫害の声も上がるそんな名前を付けられた自分と義愛の2人を認めるような歌。自分達の事を認めるような歌だった。
瀬島蒼龍は歌を歌いきる。力強く、それでいて男らしい歌声だった。僕、天塚柊人は瀬島の歌声を聴いて、普通に金がとれる歌手並みの歌声だと思っていた。
「流石ですね、歌手として活動している事はありますね……」
けれども、僕が期待しているのはこれではない。この後だ。
「いやー、やっぱり慣れない場所での音楽活動は緊張しますね。さて、一曲目、『One Best』を聴いて貰いました。この曲はNo.1ではなく、Only.1こそが良いと言う意味を歌った歌です。
ボクと義愛は2人とも平成の問題、『DQNネーム』と言うかなり可笑しな名前ですが、ボク達はそれでも強く生きています。聴いている皆さんも、強く生きて欲しい物です。……では、続いて義愛から発表をお願いします」
……! 来た! そして大神義愛は自分の白いギターを置いて、ゆっくりとマイクを持つ。
「……皆さん、大神義愛です」
その言葉にファンの間から「マジ天使~!」とか「義愛ちゃんが喋ってる~!」と言う声が上がる。
「……私はいままで兄さんにばかり、歌を任せていました。自分はこのアニメ声で歌って、皆さんに嫌われるのが嫌だった。だから、歌わなかった。けれども私は変わりたいと思った。だからこそ、私はここで歌いたいと思います。では、私の想いを皆さん、聴いてください。大神義愛で『ありし日の夕焼け』」
そして、大神義愛はその自分が苦手としていたその声で、歌を歌い始めた。
彼女が歌っているのは、『ありし日の夕焼け』。
過ぎ行く夏の日と、秋に近付くその心境を歌った曲。
彼女はその曲を、その心情に沿った、懐かしさと心地良さを漂わせつつ歌いきる。
彼女の悩み、それは歌う事。
今まで彼女は歌う事を避けて来た。
『このアニメ声でからかわれたら、永遠に立ち直れないかも知れない。でも、私はそれじゃあ駄目だと思うの。私達は男らしさ、女らしさに囚われすぎている。それをこのまま続けていたらきっとダメになる。だから、変わりたいの! 私は……歌う事で何かを変えたいの』。それが義愛が蒼龍に語った言葉。
彼女は歌う事を避けて、女らしさと言う観点からまるで良妻のように兄である蒼龍の言葉に従っていた。けれども、彼女は歌って変わった。
彼女の歌声は心に残り、人を惹きつける。
義愛の歌声は透き通った綺麗な声で、耳に自然と入って来る。アニメ声なので、何人かは嫌いかと思われたが、それでも全員が聞き惚けているのを見ると、これは彼女の才能なのだろう。
「おぉ、まさにここに天使が光臨す! なんと幻想的な光景、そして素晴らしき歌声か……。これは空姫に匹敵する」
「ちょ、ちょっと……恥ずかしいよ……」
あそこのロリガラスは放って置こう。感動が薄くなる。
僕は綺麗な歌声を聴きながら、彼女の嬉しそうな笑顔を見ていた。
小藍さんから青空空、とにあさんからロリガラスをお借りしました。何か問題があったら伝えてください。続きます。
ちなみに、曲名をそのまま使うと不味いので、名前は変えて置く事にします。