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うろな高校駄弁り部  作者: アッキ@瓶の蓋。
日向蓮華の章
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5月30日 日向蓮華

 5月30日16時、天候雨

 あそこまで晴れていた空はどんよりとした雲によって、雨模様と化しており、外でやる運動部は全て屋内へと避難していた。雨とはあまり良い思い出がない。雨の日はたいてい嫌な事ばかり思い出として残っており、学校内を暑苦しい野球部やサッカー部が階段や廊下を列になって駆け回る姿も、俺にとってはあまり良い思い出ではない原因だった。だが、しかし今日に限っては雨という事も悪くないと思える。俺が一番、危惧していた物、それは日向蓮華がこの部室に来ない事だった。

 晴れだと学校も終わってそろそろ帰ろうかと思うのが定石だが、雨だとそう言う事も少ない。たいていは雨がもう少し止むまで少し待とうと思うような人が居るし、その間に時間潰しとして図書室や教室で勉強やら遊びやらをやるのが普通だ。日向もそう言った雨の日は止むまで少し待つというタイプである事は1か月くらい過ごしてみてなんとなくそうかなと感じていた。



 今日は雨だし、そう言えば部室に来てくれと頼まれていたような……と言う気持ちでこの部室に来てくれる事を願っていたのだが



「……こ、こんにちは」



 どうやらそれは当たりだったらしい。彼女はおどおどしながら扉を開けて中へ入ってきた。別に取って食おうという気はさらさらないし、俺はそんな事はしない主義だが、彼女の性格上おどおどと入ってくるのが普通みたいだ。



「来てくれてありがとうございます、日向さん。ささっ、どうぞ席に座ってください」



 俺はと言うと、時間潰しのための本を閉じ、彼女に椅子を進めていた。この本、時間を潰すためだけに持ってきたのだから今日は役に立ったと言えよう。いつもはただの重しの役割しかしないのだが。彼女は怯えながらも席に座る。



「え、えっと……ここって、あの”駄弁り部”だったりします?」



 と、彼女は言ってきたので、否定するわけにもいかずいかにもと答える。



 駄弁り部。それはこの学園生活環境部の裏の名前、いや生徒や教職員全員が知る名前だ。活動内容は俺、天塚柊人が相談者の話を聞いて、その相談を見事に”駄弁りまくる”。

 解決なんかはしない。解決なんてそれは相談部がやる事だ。俺の役割は駄弁って、依頼者達の心のつかえを出来る限り減らすのが目的だ。

 簡単に例を挙げて説明すると、恋愛相談では愛しの彼に好かれるためにはまず自分を磨いたり、相手に自分を知ってもらえば良いよとアドバイスする。これが恋愛相談。一方、駄弁りではその話を聞いてどうして彼が好きになったのか、どうして彼に想いを伝えたいのかと言った事を聞いて依頼者を喜ばせるのが仕事。つまりは具体的な解決策は提示しないけれども、依頼者や相談者の心を軽くする部活動、それが駄弁り部だ。



 これは完全に俺の趣味活動であったのだが、なんとなく悩みを駄弁って解決しているうちにいつしかこの名前が定着してしまった。故に生徒たちの間ではここは『学園生活環境部』ではなく、『駄弁り部』として認識されてしまった。おかげで昼休みや放課後などに時々悩みを和らげるために駄弁りまくる俺がなんともまぁ、疲れた事か。



 まぁ、そんな事はどうだって良い。問題は彼女、日向蓮華の事だ。今から俺は彼女の問題を聞き、彼女の問題を駄弁りによって鎮静化する。全てはこの部室のために。



「さて、日向さん。お悩みは何でしょう?」



「へっ……? えっと……その……あの……会話に悩んでて。……わ、私……対応が遅くて……いっつも……話に付いていけないの……」



 なるほど。所謂、考えを纏めるのが少し遅い思慮深いと言う事か。僕としたら、そんなのどうでも良いと思ってしまうが、ここは我慢。全てはこの部活存続のためだ。

 もしこれが相談だとするならば、彼女がどうすれば話し上手になるかと言った事を考えて教えなければならないんだろう。けれども俺がやろうとしているのは駄弁りであって、相談では無い。故に俺はそんな事はしないのだ。



「そう、ですか。けれどもちゃんと考えてはいるんですよね」



「あっ……はい。考えては……居ます。ちゃんと……私は……いつも考えています」



「はぁ、そうなんですか。で、あなたは喋りたいんですか? それとも友達が欲しいんですか? どっちですか?」



「えっと……その……あの……えっと……友達と……喋りたいです」



「じゃあ、まずはお喋りよりも君の会話を親身に聞いてくれる人を見つけないと、ね。例えば俺とかさ」



「そ、それって……どう言う……」



 はぁ……分かっては貰っていないようですね。まぁ、どうでも良いんだけれども。



「今の俺と君の関係は、どう見ても友達のそれと相違ないですよ。俺はそう思うのだけれども」



「……ッ! そ、そうですね」



 彼女は顔を赤らめながらも、激しく頷いていた。どうやら嬉しくて仕方が無いようだ。



「もし君が許してくれるのならば、俺のためにこの部活に入部してくれると嬉しいのですけれども。君とはここに来るたびに出来うる限り、君と話す事を約束したく存じ上げるのだけれども」



「……う、うん。きょ、今日からよろしくお願いします、天塚君」



 日向はそう言って、頭を下げるのであった。そして彼女は部の登録名簿に名前を書いてくれた。これで春日先生の面目も無事に果たされただろう。俺はそう思いながら彼女にニコリと、「ありがとう」と言うのであった。

 これでこの住処も安泰だ。

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