8月13日 本の解釈
8月13日、天候晴れ。
「『女男家族列伝』、大変楽しく読ませていただきました」
1週間後、僕は春日先生の所に来て貰っておいた『女男家族列伝』を返しておく。
「おぉ、そうか。そうか。で、『女男家族列伝』はどう言う本だった?」
「『女』が『男』の役割を果たして、『男』が『女』の役割を果たす……。そう言ったある意味、逆転的発想で見れば面白い話でしたよ」
「ほほう。つまりは、昨今の男女平等化に異議を唱えるような作品と言う事じゃな。『女』がやるのが一般的なナースや娼婦を『男』、『男』がやるような一般的な教師や政治家を『女』がやると言う事なのか?」
春日先生、それは自分である女教師を暗に悪口を言っていませんか?
ちなみにナースは男女差別を無くすために今では『看護師』と言ったりするんですけれども。
「……と言うか、先生。例を挙げるのに娼婦はないですよ、仮にも聖職者足る先生なのに」
「一番分かりやすい説明ではあるのだけれども。それで、その小説から瀬島家の問題とやらは見えて来た?」
「えぇ……。と言うか、それを感じながら見るとこの小説は違った見え方をするので」
小説の解釈。
小説には幾重にも解釈の仕方がある。これは最初は『男』が『女』の役割を果たし、『女』が『男』の役割を果たすような男女逆転のSF小説に見えていた。けれども、これを『文学小説』として見た場合はその限りでは無い。
「この小説には、作者である瀬島文豪さんから見た世界が描かれております。ですので、そう見た場合はちゃんと見えてきました」
作者。
今、この小説から見た、作者の世界観が僕には見えていた。
この小説から見えて来た物。
これはSF小説では無く、文学小説。
女装をしている瀬島蒼龍と、男装をしている大神義愛。
あの2人の住んでいた魔女の一室。
その全てを統合して、僕は1つの見解を発揮する。
「……今からあの2人の家に行きます。
もしかすると、案外この問題は根が深いので、早めに解いて置きませんと」
「そうか。じゃあ、頼んだぞ」
と、春日先生はお気楽そうに言い、僕は学校を後にした。
あの問題の根底、そこにあるのは――――――現代社会、いや大神文豪とその妻が産みだしてしまった、歪んだ、歪な価値観だ。