8月3日 瀬島と大神の『家』
霧島の家はどこにも悩みが無さそうな普通な家だった。
水鏡の家も彼女の環境からしたら、平凡そうな家だった。
と言うか、普通ではない、平凡では無い家とはどう言う家なんだろうか?
そもそも僕は家とは『大きさ』ではなく、『環境』だと思っている。つまりどんなにみすぼらしくて狭い家でも、家庭環境が良ければ良い家と言える。逆にどんなに豊かそうで広い家でも、家庭環境が良くなければ悪い家だと思っている。
そう言う意味で言えば、僕が思う普通で、平凡な家とは、多分、家庭環境として何も問題無さそうな家の事なのだと思う。
そう言う意味で言えば、この瀬島君と大神さんの2人が同棲しているマンションの一室は立派に家だと言えた。
「良く我が家に来てくれたね、天塚君。今、お茶を用意するからそれまで待って。ほら、ぎっちゃんはお客様の相手をしといて」
「……」
「すぐに用意するから~」と瀬島蒼龍君は、いつもと同じようにバリバリの女装をした状態、しかもエプロンを付けた状態でお茶の用意を始めていた。そして僕の前にはいつものように完璧な男装をした大神義愛さんが座布団に座っている。
僕は座布団に座った状態で、周りを見る。
壁紙は白い壁紙で汚れ一つなく、床にも埃1つ見られない。棚には音楽用のCDがきちんと整理整頓されている。
「はい、お茶だよ。ごめんね、コップが足りなくてさ」
「いや、気にしないでくれ。急に来たのはこちらだし」
と、2人のコップは青いガラス製のコップだが、僕のコップは緑色の和風なコップだ。コップが違うが、2人暮らしなのだから敢えて色が違っていても可笑しくないだろうなと思っていた。
「そう言えば、君はここに春日先生に頼まれて来たんだよね? どうだい、ボク達の家は」
「あぁ、うん。良い家だと思うよ」
「そうだろ、そうだろ。良いものだろう、まぁ、ぎっちゃんと一緒に暮らすのには最初はどうなるかと思ったけれども、慣れて来る物さ。ぎっちゃんもそうだろ?」
「……うん」
そう言う義愛。しかし良い家だ。何だか心地いい統一感のある良い家である。だが、どうしてだろう? なんだか、可笑しいような?
「まぁ、良い家だし、これだけ見れば先生に良い報告も出来るだろう。今日は土産の1つも持ってこれなかったから、また今度来させて貰うよ」
「そうかい? じゃあ、今度はこのボク達のマイホームに妹さんと一緒に来てくれよ。ぎっちゃんは年下の妹大好きなんだ」
「コクコク……」
「考えて置くよ」と言って、僕は早々に部屋から立ち去る。
さてと……。
「まさか、あそこまで露骨に”問題”がある家だとは……な」
あの家は確かに良い家だ。
整理整頓された、素晴らしく、良い家だとは思う。だが、それだけだ。
あの家には家庭環境と言う物が無かった。
普通、家と言うのは住む人間が多いほど、雑味が多くなってくる。家族だと言っても1人1人好みは違うし、その1人1人の好みによって家はその人らしさを出し、また折り合いを付ける事によって2人の好みが見えて来る。
しかし、あの『家』では『瀬島蒼龍』の好みは見えていたが、『大神義愛』と言う人間の好みを一切感じられなかった。