6月26日 探し物はどこですか?
6月26日、天候雨。長らく小雨続き
水鏡栗花落の母、水鏡銀杏さんは何と言うか平凡そうで、穏やかな女性で、栗花落の扱いについて相当参っていた。親として手のかからない娘は果たして扱いやすいのか、そてとも親として何かを言わないといけないのか。そう言った事に真剣に迷いながら、娘の成長を親身になって考える。そんなどこにでも居るような平凡な母親だった。
だからこそ最初は娘が居ない事に気付けなかった。母親にとって彼女は学校に行き、時々友達と一緒で夜遅くに帰って来る。夜遅くに1人で出歩くような娘じゃない、そう思っていたからこそ彼女は気付けなかったのだと言う。いつも栗花落は自主的にお風呂に入らないからと、母親の彼女が呼びに行った時にようやく栗花落が居ない事に気付いたのだと言う。
『ともかく探して』
「あ、あぁ。はい」
と言う銀杏さんの言葉を聞いて、僕は電話を切った。
「……なーんか、話し方は確実に銀杏さんと栗花落は確実に親娘だよね」
「兄様。お出かけですか?」
と、電話を横から聞いていた弓枝がそう言って来る。「あぁ」と言いながら、寒いからコートを取って玄関に行って靴を履く。
「確か栗花落さん、でしたよね。あの、何か人形っぽい人が何かしたんですか?」
人形っぽい……ね。当たらずも遠からずって所だよな。主体性がないと言う意味では、当たっているけれども。
「なんか家出したみたいだから、ちょっと探しに行って来るよ」
「分かりました。帰ってきたら暑いお湯をお待ちしております。雨にお気をつけて」
と、ぺこりと頭を下げて彼女はお風呂場に向かった。僕はと言うと、傘を持って外に出たのであった。
――――――――夜の雨と言うのはなんとなく嫌いだ。黒い闇間にしんしんと降る雨、風景として良いと思う人も居るだろうけれども、僕個人としてはなんか嫌いである。
「6月ももう終わるし、雨ももう見納め、かな」
6月と言えば、『6月の花嫁』が有名だが、あれは結婚業界の作ったただのイベントなのだ。6月は雨が良く降る梅雨もあるし、国民の休日も一日も無い。だからこそ6月に結婚したいと思う人を増やすために、『6月の花嫁』と言う行事を浸透させて結婚業界に6月=花嫁にとって幸せな月、と言う事をやって6月を良い月に見せているのである。
とは言っても、僕はそんな『6月の花嫁』は関係ないので、6月は憂鬱としか僕は思っていなかった。
「夜の雨は個人的に嫌いなんだけどね」
まぁ、そうは言ってもいられない。今は栗花落を探さないといけないんだから。僕は傘を差しながら夜のうろな町を走りながら探すのであった。
「と言うか、どこに居るんだろう。栗花落」
栗花落の好きな場所、そこが思いつかない。主体性のない彼女は、誰かに連れだって場所に行くと言うのがほとんどだからだ。彼女自身が行きたい場所、今家出している栗花落が行きそうな場所と言うのが思いつかないのだ。どこに居ると言うのだろう?
うろなショッピングモール、うろな商店街、うろな高校にうろな中央公園や住宅街……。うろな町は他の街からしたら小さな街だとは思うが、とてもじゃないが1人で探しきれる範囲じゃない。探せる範囲が絞り込めるには絞り込みたいが、それが絞り込めないから問題なんだよな……。
(どうすれば良いんだよ、おい……)
僕が諦めかけていたその時、僕の眼の前に1人の少女が現れた。外見上小学生としか見えない彼女は、透き通った身体で宙に浮かんでいた。幽霊、と言うべき彼女は笑顔で透き通るような声で小さく呟いた。
「うろな商店街」
「えっ……?」
そして彼女は静かに消えて行った。
……彼女はいったい何なんだろう? 良く分からない、けれども彼女の言葉は何故か信じられた。今は何も情報がない状況だ、ここは彼女の言葉を素直に受けてうろな商店街に向かったのだった。
―――――――そしてうろな商店街に向かうと、
「―――――居た」
そこには雨の中、1人たたずむ彼女、水鏡栗花落の姿があった。
「……天塚、柊人?」
と、彼女はそう言って僕の方を見て納得したかのようにいつもの無表情とは違う、
―――――笑顔を見せるのであった。
その後、僕は彼女を水鏡家に送り届ける。なんとこの雨の中、彼女は傘も差さずに商店街に1人で立っていたのだ。ずぶ濡れ、と言うか既に透けて見えるくらいになっている服を見るのを避けるのに僕は必至だ。
「~~♪」
しかも何故か分からないが、今日はいつもとは違って無表情では無く、年頃の女の子がするような笑顔なので対応に困ってしまう。
(こいつ、可愛いんだよな。マジで)
僕は襲わないようにするのに必死だったのだった。
裏山おもてさんの、『うろなの虹草』より楓さんをお借りいたしました。