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うろな高校駄弁り部  作者: アッキ@瓶の蓋。
水鏡栗花落の章
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6月25日 天塚柊人の天敵

 6月25日、天候曇り

 最近、読んだ本の話を語りたいと思う。



 『-――その兜、ゲーム世界で冒険する』と言う物語だ。とは言っても、これは電子小説だ。電子小説は稚拙な物もあるが、時には当たりを引く事があるので読ませて貰っている。

 あらすじとしては至って分かりやすい物だ。主人公の少年、山田太郎(やまだたろう)(29)は現実世界に逃避してMMORPG、略さずに言えば『マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム』と言う『大規模多人数同時参加型オンラインRPG』でゲームで日夜遊びと言うか生活を行っていた。そして今時珍しくもない設定でいきなりログアウト不可、脱出不可となってしまった世界で主人公はプレイヤー……ではなく、兜になってしまう。転がる事しか出来ないが、被って貰えれば喋る事が出来るようになる。

 その国のお姫様であるNPC、アルベリータ姫になんとか被って貰う事に成功した主人公、山田太郎は神のお告げと称してお姫様に進言しながらこの世界をより良い物にしようとしていく。

 2人の間に生まれる信頼、そして愛情。様々な混乱を乗り越えて、遂に主人公はこの世界から出られる方法を見つけ出す。




 ―――――――それは最高レベル99でカンストした自分のアバター、【キング・太郎】を殺す事だった。



 シリアスな展開が多いこの作品だが、時たま主人公がお告げとして出すエロい命令に恥ずかしながらも答えて行くヒロインのアルベリータ姫が可愛いとネット小説の中でもかなり人気の作品だ。



 何故、こんな話をしたのか。それは目の前に居るのがそれと似たような境遇の人物だからだ。

 最も兜じゃなくて幽霊だし、その幽霊は姫様の身体を憑依して奪っているのだが。



「――――――――やぁ、天塚君じゃないか。君と会うのは本当に久しぶりな気がするよ」




 目の前に居るのは水鏡栗花落だ。

 身長も体格も彼女その物だが、髪が違う。いつもの栗花落は金色の髪を三つ編みにしているが、今の栗花落は髪の色は黒く、そして腰に伸びるくらい長いロングになっている。そして彼女の顔はニコヤカとした、こっちがイラつくくらい笑顔だった。



 いくつもの霊と話して来たが、髪の色が変えられて、しかも親しげに話しかけてくるような奴はあいにくだが1人しか心当たりがない。



神代(かみしろ)……か」



「正解。良い判断だ」




 神代。水鏡栗花落が憑く霊の中で一番霊としての力が高い霊。髪の色も変わるのも霊としての神格が高いからだし、それからポルターガイストも良くやられた物だ。そう言った事を容易く行うのがこの神代と名乗る霊である。栗花落が言うには、『最も偉い人』との事。

 僕はこの霊が苦手だ。いつも勝手に現れて霊力とかの交信で勝手に呼び出して、そして僕に急に話を吹っかける。それがこの神代と言う霊だ。



「今でも相談事の真似事をやっているのかい、天塚君?」



「まぁ……な」



「うむ……せいぜい『駄弁り』くらいで済ませているようだね。それが良い。『相談』なんてものは熱血キャラがする事だ。『相談』てゃ……その人がどうなっているのか、そう言った全ての事情を完全に解消出来る奴らが使う単語だ。最もそんな人間、今の世界で1人たりとも見た事ないんだけど。

 ……相談部や相談委員会なんて本当は誰も使っちゃいけないんだよ」



 何故かは分からないが、神代は異常なまでに相談と言うのが嫌いらしい。僕が『駄弁り部』と言う名前を使っているのも元はと言えばこいつが理由だ。



「『相談』とは、相手の全てを直し、相手の悩みの全てを解消する。それが相談だ。しかし今の世の中は相手の悩みを理解出来ず、相手の悩みを和らげる事も出来ない糞虫ばかりだ。そんな糞虫とは違って、天塚君はそれなりに良い人だと思っているよ。何せ事実、何人もの悩みを解消は出来てないにしても、和らげる事は出来ているんだから」



「そりゃあ、どうも」




「この前も日向蓮華君の悩みを和らげてたじゃないか。あの手腕は流石だと思うよ」



 こいつは何が言いたい? 少なくともただ褒めに来た―――――――と言う事では無いだろうが。



「と言う訳で、君にちょっとしたサプライズプレゼント。この身体、水鏡栗花落の主体性を持たせるにはどうすれば良いかを教えてあげるよ」




「……!」



 どう言う事だ? 神代はあらゆる知識に通じている高位の霊であり、彼女のおかげで何人もの悩みを"解消"した事もある。しかし、彼女はこんなにフレンドリーな奴じゃない。



「この身体、もうすぐ高校生になって義務教育も終わるんでしょ? じゃあ、私からのプレゼントとして主体性を持たせるためのヒントくらいは上げてあげようと思ってさ。

 それに今、この街に陰陽師が来てるでしょ。確か名前は……芦屋梨桜(あしやりお)、だったかな?」



 芦屋梨桜……確かこの前来た稲荷山孝人(いなにやまたかと)君の知り合いで中学生……あぁ、そう言う事か。



「候補として挙げてただけ、だけどな」



「いやいや。私を祓えなくても、彼女の力ならば栗花落の憑依体質を封印する事が出来る。それだと幽霊な私は君らに見て貰えなくなる。ポルターガイストくらいしか、しないとね。

 喋る事に少々の悦を覚えた私だけど、もし君が栗花落にそんな事されると困るのだよ」



 それは最終手段だった。あの芦屋梨桜は陰陽師で、どうやら腕が確かなようだ。あいつなら、この栗花落の憑依体質を封じる事が出来るのじゃないか? いつかもう手段がない時は使うつもりだったが、思わぬ形で運が回って来た。



「まぁ……。ヒロインが1人増えて、そろそろきつくなってきたし。この辺りが良いだろうしね」



「……? 何の話だ?」



「鈍感な天塚君は黙っててよね」



 鈍感って……。いや、僕はかなり敏感だよ? ちゃんと話に耳を傾けて色々とアドバイスしてるし。



「方法は2つ。まず1つ目は私を満足させる事。私が満足だと思えば、私のとびっきりの霊力で彼女の主体性を作り上げてみせるよ」



「却下」



 だいたい、主体性を作り上げると言うのが気に食わない。彼女の霊力ならばすぐにでも出来そうだが(なにせ曇り空のはずなのに、彼女の居る場所だけ晴れて彼女に光が当たっていると言う異常事態が目の前で起きてるから)、それは果たして主体性と言うのか甚だ不安でしかないからだ。



「言うと思った。じゃあ、2つ目」



 そう言って、彼女は窓の外を向くように指示……いや、霊力で僕を無理矢理移動させて窓の上に立たせる。相変わらず変な感覚だ。



 目の前に広がるのは、真っ黒い分厚そうな雲と一箇所だけ開いた穴から見える青空。そして神代は僕の横でこう答えた。



「――――――天塚君、君があのエロインこと霧島恵美(きりしまえみ)に告白すればいいんだよ」



「はぁ?」



 そして真っ黒い分厚そうな雲には、『LOVE! LOVE! EMI+SYUUTO』と言う文字が刻まれていた。あれも神代の仕業、なんだろう。

 と言うか、どれだけ凄いんだよ。この神代の霊力。

 寺町朱穂さんより、名前だけですが稲荷山孝人君と芦屋梨桜ちゃんの名前を借りました。

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