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俺は、友の為に魔王を倒す ~厨二高校編~  作者: undervermillion
1st シーズン anybody's game
8/20

第7話 始まり

 --12年04月27日(金)19:17 00--




「なぁんて、驚いたでしょう?」

 絵里香は、上機嫌で俺を見下ろしていた。


「……」

 俺は、絵里香が手にしたナイフを見つめる。

「さすがに、自分の部屋にあるものくらい把握しているさ。

 もっとも、絵里香に俺の背後にまわるだけのスピードがあるとは思わなかったが」

 俺は、努めて平気な顔で答えた。


 俺が倒される前に、一瞬だったがナイフの形状を確認することができた。

 あれは、ナイフの刃が引っ込む仕様になっていて、俺の体に突き刺さることはないことも知っている。


 なぜ知っているかと言えば、俺の部屋においてあったからだ。

 「勝手に俺の部屋に侵入したのか?」とか、「押入れの奥にある本を読んだりしていないか」とか、いろいろと気になったが、俺はその気持ちを抑えて絵里香を見上げた。


 だが、俺を見下ろす絵里香から、何かが思い出せそうな気がした。

 おそらく、なんらかの既視感デジャブなのだろう。


 俺は、必死に何かを思い出そうとして頭を働かせていると、

「そうかぁ、残念……」

 絵里香は、残念そうな表情をした。


「俺を、罠にかけるのは、10年はや……」

 俺は、起きあがろうとして、膝をつく。

 そして、頭の血の気が引いて、全身の力が抜けてしまい、再び倒れてしまった。


 先ほど俺が食べた料理に、薬でも入れたのかと思ったが、

「啓司!大丈夫!」

 絵里香の表情や言動から、その可能性を即座に否定した。


「……う、うう……」

 俺は、少しずつ意識が薄れていくことを感じた。



 意識が失う前に考えていたことは、目の前で泣きながら俺に声をかけ続ける絵里香でもなく、これからの学校生活のことでもなく、助けに行く友人のことだった。




 --XX--




 俺と友人との関係をひとことで表すのは、難しい。

 だが、その関係について「腐れ縁」という言葉を使われたら、否定することはできないだろう。


 友人とは、小学校4年から一緒のクラスになったが、そのときはお互い話しかけたりすることもなかった。


 友人と話すことになったきっかけは、小学校6年の時だっただろうか。


 ほとんど喧嘩みたいな内容だったが、それからすぐに、いつの間にか意気投合したような気がする。


 中学校のときは、3年間同じクラスだったので、いろいろと話をしたものだ。

 高校は、違う学校になったが、それでもいろいろと話をする関係になった。


 そして、俺たちが親しくなったのは、ゲームがきっかけだった。

 俺は、1980年代から90年代のレトロゲームを愛好していたのに対して、友人は最先端のゲームにはまっていた。


 当初こそ、お互いの嗜好の違いでよく言い争いもしたものだが、今ではお互いを認め合う関係となっていた。


 そして、あの時も電話でやりとりしていた。

「プレイ中かい」

「そうだよ」

「猫耳で有名なほうか?」

 俺は、猫耳付の青いロボットが大活躍するゲーム、いや大活躍しすぎて主人公がロボットの猫耳が動く様だけを見つめていれば、クリアできてしまうゲームの事を思い浮かべた。

 だが、友人の答えは異なるものだった。


「それじゃないほう」

「C3(シースリー)か……」

 俺は幻のゲームと言われた、ゲームの名前を口にした。


 C3とは、正式名称を「Conquest of the Critical Crisis(コンクエスト・オブ・ザ・クリティカル・クライシス)」と呼ばれる、仮想世界「フロージア」を舞台にした、多人数同時参加型、次世代体感システム用RPGである。


 巨大企業体である雛部ひなべコンツェルンの関連企業「ハトホル社(hathor: Hinabe Automatic Technologic Hospital On-demand for the Robots co.led.)」が、次世代型体感システム「カリロエー」の普及推進の切り札として期待されたゲームタイトルであった。


 このゲームを企画したのは、「21世紀最大の鬼才」と称される、梅木和斗うめきかずとだった。



 梅木は幼くして、コンピュータープログラムの世界に魅せられた。

 梅木の生活時間のほとんどをコンピューターに費やされた結果、世界に才能を知らしめたのだ。

 もし、才能の女神がいるのなら、彼を寵愛したと言われても信じてしまうほど、梅木に与えられた才能は超越していた。


 だが、彼の才能は、技術開発の分野にも及んでいたことが明らかになる。


 梅木が12歳の時に、次世代型体感システム「カリロエー」の元となる基本設計を考案し、自分が所属しているプログラム制作会社「雛部コンピュータシステムズ(HCS)」をはじめとする、雛部コンツェルン内の複数の企業に開発を呼びかけた。


 HCSも含めたほとんどの企業が、梅木の提案を「机上の暴論」として無視をする中で、ハトホル社の若き社長である鳩堀英治はとほりえいじだけが、梅木の提案を受け入れた。


 鳩堀は、梅木の提案した内容が実現すれば、自分が経営している医療自動化技術開発企業の発展のみならず、世界に新しい革命が起こると確信していた。


 鳩堀は、コンツェルン内の了解を取り付けるために奔走し、雛部最高経営会議において、コンツェルン総帥である、雛部源兵衛ひなべげんべいの同意を得た。



 雛部コンツェルンが、梅木の提案を受け入れたことで、「技術革新に半世紀は必要」と嘲笑された技術を、わずか5年で完成させ、次の5年で実用化まで推進した。


 この結果、次世代通信技術及びコンピュータ製造技術は日本国内が世界より2世代先を行くという、あり得ない状況が現出した。


 そして、最初の次世代体感システム「カリロエー」が登場すると、日本国内の熱狂的なゲームプレーヤーたちから、

「夢想した、VRの世界が現実となった」

「もはや現実と区別が付かない世界だ」

「新しい世界が誕生した瞬間だ」

と、絶賛した。



 「カリロエー」発売と同時に売り出されたゲームは、対戦格闘技やスポーツ、レーシングゲーム等であった。

 梅木が望んでいたゲーム、「C3」が公式に発表されたのはこの時期で、2年後に稼働する計画であった。


 「カリロエー」の成功とともに、ハトホル社も成長し、ハトホル社のことを「鳩堀コンツェルン」と揶揄やゆする人も現れた。


 だが、ハトホルの繁栄は長くは続かなかった。

 C3のオープンベータテスト稼働の日に、システムエラーの表示とともにサーバーが突如ダウン。


 そして、混乱に乗じて開発責任者である梅木が、社内データをすべて消し去り、本人も姿を消したからだ。


 一説によると、梅木と鳩堀との関係が悪化したからとも、C3が梅木が当初考えていた内容と大きく異なってしまったためとも伝えられているが、本当のところは梅木が未だに行方不明であることから、明らかにされることはなかった。



 データを失ったことにより、C3の開発は断念され、株価が暴落したハトホル社も雛部コンツェルンから複数の会社に譲渡され、解体されてしまった。


 もっとも、「カリロエー」の技術自体はすでに普及しているため、時代の流れが逆行することはありえない。

 翌年には、別の会社から青い猫型ロボット(猫耳付き)が活躍する多人数参加型のRPG「ブルー・ロボッツ・オンライン」が発売されている。

 もちろん、どこかの小説のように、「ログアウト不能」とか「デスゲーム」とかにはなっていない。

 もっとも、「猫耳を見つめるだけでクリアできる」ようなゲームバランスについて、言いたいことがあるが。



 こうしてC3は、そのまま消え去ったゲームとされたが、ある日、当時のC3のベータテスター宛に「梅木財団」と名乗る団体からメールが送られたことで、状況が変化した。


 ベータテスターに送られたメールには、「本当のC3への参加へのご案内」という内容とともに、サーバーへのアクセス先とユーザーID、パスワードが送付された。


 メールを受け取った、多くのユーザーが何かのいたずらととらえる中で、いくつかのユーザーが面白半分で試したところ、ゲームが起動した。


 プレーヤーの前には、かつてハトホル社が宣伝していた、「新しい世界を提供する」という言葉がすぐさま思い浮かべてしまうほど、現実感あふれる世界が広がっていた。

 すでに発売されていた「ブルー・ロボッツ」以上の実体感を、プレーヤーに提供していた。



 「ログインできるのは先着100人まで、(あとはログイン者のログアウト待ち)」、「ひとりひとりが遊ぶ世界は別であり、複数同時に遊ぶことができない」でありながら、当初「アリオク」社がアナウンスしていたC3の世界を体験することができるとして、ログインしたプレーヤーは楽しんだ。


 その世界は限定されていたが、友人はC3を体験することができた幸運な1人であった。


 しかし、C3の世界はゲームデザインとしては、あまり洗練されていなかった。

 一言で表現すれば、「世界の再現性を忠実にするあまり、快適に遊ぶような考えが切り捨てられている」ことだった。


 「配慮されているのは、言語と痛みの軽減、そしてステータスの表示くらい」と言われ、

アイテムやスキル、魔法等の詳細な情報は、「梅木財団」からの情報提供や、チュートリアルの導入による説明すらなく、ユーザーフレンドリーとは真逆の状態であった。


 やがて、多くのプレーヤーはほかのゲームへと移行した。

 流行が去ったにもかかわらず、友人はそのような流れから離れて、このゲームを楽しんでいた。

「これはゲームというよりは、むしろ、別の人生を味わうものだと思っている」

 友人はそういって、地元の独特な風習について話をするような感じで、C3のことを語っていた。



「いま、どこにいる?」

「魔王の部屋の前」

 友人はそっけない返事をした。

 「カリロエー」の特徴の一つとして、通信機が内蔵されていることがあげられる。

 この機能により、ゲームの世界のなかでも、好きなときに電話やメールができる。


「ラスボス前か?」

「ああ」

「6回目か。君もあきないね」

 俺は、ためいきまじりにぼやいた。

 確か、1回クリアするごとに、財団からデータ引継ぎ用のパスワードがメールに送付され、2回目からは前回クリア時のデータを引き継げるという特典がついていた。

 そのため、次回以降のクリアがはかどることは聞いていた。


「いや、11回目だ。

 それに、今回は特別だ」

「特別?」

「超大型MOD、『ZETSUBOU』を入れている」

 友人は自慢そうに宣言した。

「ZETSUBOU?」

 俺は、その言葉に違和感を覚えた。


 ちなみにMODとは、「Modification(変更・修正の意味)」のことであり、ゲームソフト本体にデータを追加することで、元のゲームとは異なる設定、たとえば「膝に矢が当たっても、冒険者を引退しなくてすむ」、「本来、脱げないはずの下着を脱ぐことができる」等の改変を行うことができる。

 個人やグループ等が、様々なMODをインストールすることで、新たな遊びの幅が広げている。


 もちろん、MODの導入は自己責任が求められる。


 だが、そのMODの名称に俺は、不安を感じた。

「大丈夫なのか、そんな名前で?」

「心配するな。

 MODは、10回クリアの特典として、財団から送られたものだ。

 それに、それほど難易度は上がっていない。

 せいぜい、敵が2倍の強さになった程度だ」

「それは、ひどくないか」

 俺は、一度友人のプレイ画面を見せてもらった時の記憶を思い出して、返事をした。


 C3は、一人でしか遊べないが、プレイ画面を見ることが出来る。

 そのためには、「カリロエー」と、ディスプレイを接続させる必要があるが、そうすることで、プレーヤーの映像をある程度確認することができる。


 俺が見た映像では、友人が人間を超越したスピードで、スタイリッシュにモンスターを狩る様子が延々と映っていた。

 そのときは、モンスターの反撃による一撃で友人が瀕死になったはずだ。

 友人の証言のとおり敵が2倍の強さなら、一撃必殺ではないだろうか。

 友人の方が。


「10回クリアすれば、この程度問題ない」

 友人の声は涼しいものだ。

「そうか。

 友よ、気をつけてな」

「ああ、気をつけるさ」

「じゃあな」

「ああ、ではまた」


 お互いに別れを告げ、通話回線を切断したはずなのだが、通話が切れる様子を見せない。

「……」

「……」

 お互いに、気まずい雰囲気が漂う。


「電話が切れない……。

 バグかな?」

 友人は、ゆっくりと原因を推測した。

「変なMODをあてたからだろ」

「一応、公式なのだがな。

 公式なのにMODと呼ぶのも変なことだが」

 拡張データとか、DLCダウンロードコンテンツとか呼ぶのが普通なのだがと友人が自嘲しながら、

「だが、そうかもしれないな」

 友人の声は、俺の言葉に同意するような声だった。



「……いまさら、帰るのも時間の無駄だ。

 まあ、つまらないだろうが、我慢して聞いていてくれ」

 しばらくの静寂のあと、友人が申し訳なさそうに言った。


 友人の家であれば、外部ディスプレイを接続することで、映像を楽しむことができるのだが、あらかじめ、「カリロエー」と接続したパソコンで設定しない限り、電話で映像を転送することはできない。


 かといって、ラスボス前で帰還するのも時間がかかるだろう。

 その点を考えて、友人は俺に謝っていた。


「そうか。

 じゃあ、邪魔にならないよう、静かに聞いておくよ」

 俺は、友人に気にしないことを伝えた。

 夜中なので、急ぐ用事もなければ、電話代もそれほどかかるものではない。


「ありがとう」

 友人は、そういうと、大きな扉が開くような重たい開閉音が聞こえた。



「よくきたな、人間よ」

 大きくはないけれど、低くて響く声が俺の耳に届く。

「これが、魔王だと……」

 友人は言葉を失っていた。


「ワシを倒すために、どれだけの規模で挑むかと思ったら、たった一人か。

 ワシも、なめられたものだ」

「……、仕様なのに」

 友人のつっこみが聞こえた。

 どうやら、落ち着きを取り戻したようだ。


「さて、貴様に真の絶望を味わせてやる」

「その言葉、そのまま返す」

 剣を鞘から抜く金属音とともに、剣戟と移動の音が、遠くから、間近から、絶え間なく聞こえる。


 俺は、しばらく剣戟と炎が放射された音などを聞きながら、戦闘が終わるのを祈っていた。



 どれだけ、経過しただろうか、剣戟の音が止まるとともに、

「くっ」

 友人のうめく声が聞こえた。



「大丈夫か!」

「ああ、なんとかな……」

 俺の不安そうな声に、友人は小さく応える。

 このゲーム世界での死が、現実世界の死とつながることは無いのだが、それでも俺は、友人の声に安堵した。

「……」


「ふっふっふっ。

 たあいもない奴だ……。

 ワシの全力の10分の1程度の力で倒されるとはな……」


「……まさか、ここまでとは……」

 友人の声がかすれて聞こえた。

「絶望に塗り尽くしてやる……」


 通話先からは、静寂につつまれた。



「おーい」

 俺は、友人に声をかける。

「……」

「おーい」

「……」

 返事がない。

 先ほどの通話異常の影響で、今度はやりとりができなくなったと思った俺は、友人とこれ以上会話することもなかったので、通信を切断した。


 今回は、きちんと切断できた。

 俺は、友人に「気を落とすな」と、メールを送ると、寝ることにした。




 友人は、その日失踪した。




 俺は、黒森くろもりという名が彫られている表札の前で、住人が登場するのを待っていると、

「啓ちゃん、ひさしぶりね」

「ごぶさたしております」

 友人の母親は、俺を玄関で迎えにきてくれた。

 彼女は、かなり疲れた表情をしていた。


 友人は、俺と違って品行方正だったので、手がかからなかったと聞いている。


 そんな、子供が急に失踪したと聞いたら、心配してしまうのは親というものだ。

 最初は、一人暮らしをしている俺のところに遊びに行ったと思ったようだ。

 だが、俺が明確に否定したことと、財布や携帯、家の鍵まで部屋に残っていたため、何らかの事件に巻き込まれたのではないかと、警察に相談した。


 しかし、警察の懸命な捜査にもかかわらず、外部から侵入された形跡が無いこと、内側からはすべて鍵がしまっていたこと、家の周辺に設置されている防犯カメラに、怪しい人物はおろか、友人の姿も映ってないことから、捜査は進展しなかった。


 友人の家族は焦燥していた。

 友人の部屋まで案内してくれた、友人の母親からはそのような気持ちが痛いほど伝わってきた。


「失礼します」

「どうぞ、散らかっていますけど我慢してください。

 啓ちゃんが遊びに来ると、少しは片づけたのだけどね……」

 俺は、友人の母親の言葉を聞きながら、部屋を見渡す。


 友人の部屋は、友人の母親が言うほどは散らかってはいなかった。

 その部屋の中央には、友人が失そう直前まで使用していた「カリロエー」が2台、無造作におかれていた。

 2台のカリロエーはフルフェイスヘルメットに酷似した形状であり、その黒い機体からは、一種の威圧感を与えていた。


 俺は、1台のカリロエーを手にすると、その近くに何冊ものルーズリーフがおかれているいことに気づいた。


 俺は、カリロエーを左手に持ち、右手でルーズリーフの内容を確認した。


「……すごい」

 俺は、友人が遺したノートの内容に驚愕した。

 友人のノートのすごさは、かつて受験のためにノートを借りた時に味わったことがあるが、ゲームでも同じような、いや進化したことに驚愕した。



「これらをお借りできますか?」

と、友人の母親にお願いする。

「原因はわからないかもしれませんが、失踪する直前の行動ならわかるかもしれません」

「お願いします……」

 友人の母親は頭をさげる。




「さて、責任重大だな」

 俺は、自宅に戻ると両手で両頬をたたき、気合いをいれる。

「友人がとらわれているのなら、この先かもしれない」

 俺は、自分の推測を口にした。


 友人が、失踪したのは事実だろう。

 だが、現実の世界で痕跡が見つからないのであれば、ゲームの世界に失踪した可能性がある。

 俺自身、妙な考えとは思っているが、ほかに情報がない以上、調べてみることは無駄ではないだろう。


「接続も問題なしと」

 俺は、自室にあるパソコンと「カリロエー」との接続を確認していた。


 C3で体験した映像を、データとして遺すことで、失踪の謎が理解できるかもしれないと考えたからだ。

 万一、俺も遭難した場合の保険の意味合いもある。


「とはいえ、実際に役に立つとしても、かなり先の話だな」

 俺は、ためいきをついた。

 友人が導入したMOD「ZETHUBOU」のデータは、友人が遺したカリロエー内のデータを探してみても見つからなかった。

 俺の探し方が悪かったのか、アンインストールされたのかはわからないが、まずはC3を

10回クリアしなければならないようだ。

 気の遠くなる作業に、俺は再びため息をつく。


「ため息をついても始まらないな」

 俺は、カリロエーを装着した。


 俺が友人の母親から借りた1台は、友人が俺名義でベータテストに応募したときにメーカーから送られたものであった。

 どうやら、友人は俺と一緒にC3の世界を体感したかったようだ。

 結局、C3のベータテストが開始されなかったことと、財団が用意したC3が、1人プレイ専用であったこと、俺があまり最新のゲームには馴染まなかったせいで、友人の家に置きっぱなしになっていた。


 俺は、不慣れな手つきで、右手でヘルメットの横にある起動ボタンを押した。


 ヘルメットから、映し出される映像は、カリロエーの開発会社であった、ハトホル社の商標から、桜並木へと変化した。

「これが、C3の世界……?」

 俺が、周囲を見渡して、友人の遺したノートと違うことに違和感を覚えた。

 違和感が確信に変わったのは、自分が学制服を身につけているのに気がついたときだった……。





 --1st--




「……」

 どのくらい、時間がすぎたのだろう。

 カリロエーの映像が、黒から青い空へと切り替わった。


 さわやかな風、草の強い香り、澄み切った空気。

 いずれも、先ほどまでの厨西市の自宅でも、現実世界の自宅とも異なる場所であることが理解できた。



「ここは、……」

 見渡すと、俺が草むらで横たわっているのに気づいた。


 起きあがって周囲を確認しようとして、

「!」

 自分が、縄のような物で拘束されていることに気がついた。


「気づいたようだな」

 一人の女性が、俺を見下ろしていた。

「お前は……」

 ようやくここで、絵里香に関する既視感が何かを理解した。


 目の前の女性は、引き締まった肉体の上に、革製の鎧をまとっていた。

 その姿は、友人が遺したノートにはっきりと映し出されていた。

 女性の体格や声などは異なるが、絵里香と雰囲気が近いように思った。


 女性は油断せずに、ゆっくりと手にしたナイフを近づけた。

 そのナイフは、赤い血で染まっていた。

「貴様は、どこの所属だ?

 なぜ、ここにいる?

 何が、目的だ?

 正直に応えれば、縄を解いてやろう」

 女性は、笑みを浮かべていたが、その目は笑ってはいなかった。



 俺は、C3の舞台である、フロージアの世界に降り立ったことをようやく確信した。


 だが今の俺にとって、この場で適切な対応をとらない限り、再び現実世界に戻されそうだ。

 俺は、この問題を解決するため、俺の知る限り、たった一つの手段を行使した。



 俺は、目の前の女性に明言した。


「俺は、友の為に魔王を倒す」

次回で1stシーズン完結です。

次回掲載は13日正午の予定です。

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