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俺は、友の為に魔王を倒す ~厨二高校編~  作者: undervermillion
1st シーズン anybody's game
3/20

第2話 鍛錬

 --12年04月09日(月)12:12 42--




「一人で先に帰るかと思ったら、校門の前で待っていたなんて、素直じゃないわね」

「……」

「素直に、一緒に帰りたいと言えばいいのに」

「……」

絵里香は、俺の隣でやけに嬉しそうな表情で話しかけてくる。

俺は、黙ったまま、絵里香の歩調にあわせて足を動かしていた。


「それにしても、『自分の家までついてきてくれ』って、何?

 歩きながら、話せない事なの?」

「……」

俺は、小さくうなずく。


 本来であれば、かわいい幼馴染と一緒に下校するのならば、いろいろと話をして親密度を深めるべきなのかもしれない。

 そして、親密度を深めたらデートを繰り返して好感度を高め、最終的には一ヶ月以内に恋人になることを目指すべきなのかもしれない。

 この世界が、恋愛シミュレーションゲームの世界であるならば。


 繰り返すが、ここはそのようなゲームの世界ではない。

 それに、俺は今、自分の頭を限界まで活動させていた。

 絵里香と会話する余裕などなかった。


 俺が今、考えていることは、「家の前で絵里香に一体何を話せばいいのか?」という事だった。




 --12年04月09日(月)11:56 48--




 俺は、教室を出た後で、自宅にたどりつく方法を必死に考えた。

 携帯や、生徒手帳、レンタルビデオの会員証等、自分の所持品から、住居を確認することができないかと、くまなく確認したが、欲しい情報を得ることはできなかった。


 そして、俺は自宅の情報を得るために、絵里香の帰りを校門で待っていた。



 1時間ほど待っただろうか、校門前に絵里香の姿が現れた。



「啓司!」

 俺が声をかけるよりも前に、絵里香が大きな声で話しかけてきた。


「待っててくれたの?」

 絵里香は嬉しそうな表情で、俺の姿を確認した。

 俺は、わずかにうなずいた。


「教室に一緒にいてくれたら良かったのに」

 絵里香は悲しそうな表情でうなずいた。

 絵里香の周囲には、4人の女子生徒達が一緒にいて、楽しそうな表情で俺のことを眺めていた。



「邪魔をしたくなかった」

 俺は、必死になって、考えた言葉を口に出す。

「話がある。

 俺の家の前まで、来て欲しい」


「えっ」

 絵里香は、俺に軽い驚きの表情を見せる。



「絵里香、行こう」

 ストレートの長い髪の女子生徒が、絵里香に声をかける。

 おそらく、ファミレスかどこかで話をするためだろうと、俺は考えた。

「ええっと、……」


「頼む、ここでは話せない」

 女子生徒に視線を向けながら考えている絵里香に対して、俺は頭を下げる。

「重要なことなの?」

 俺は、絵里香の質問に頷いた。


「ごめんなさい」

 絵里香は、俺の言葉を受けて謝った。


 一緒にいた、女子生徒たちに対して。


 女子生徒たちは、しばらくの間、僕と杵島さんの表情を眺めていたが、

「仕方ないわね」

「がんばってね」

「また、明日ね!」

「後で、話聞かせてね」

 そう言って彼女たちは、先に歩きだした。




 --12年04月09日(月)12:53 41--




 僕は、このようにして「自宅に帰る」という当初の目的を達成することができたのであるが、次の問題が生じた。

「家にたどりついたら、絵里香に何を話せばいいのだろうか?」

と。



 最終的な手段として、自分の目的である魔王を倒すことを告げることもできるが、魔王の情報が全くない今の状況で、安易に話すべきでもない。

 関係ない人を巻き込むつもりはないからだ。


 そういった理由から、僕は必死になって別の話を考えていたが、良い話が思い浮かばない。

 歩む足は遅くなるが、一向に考えがまとまらない中、その時が来た。



「ついたわね、啓司。

 そろそろ、話を聞かせてもらってもいいかな?」

 俺は覚悟を決めて、

「そうだな。

 実は……」


「けいちゃん、お帰り!」

 女性の声で妨げられた。


 女性は、30歳前に見えて、ピンクのワンピースの上に白いエプロンを身にまとっていた。

 どこにでもいる、新婚の若奥様に見える。

 こんな嫁がいたら、毎日一目散に家に帰るか、一生懸命夜遅くまで働いて生活を楽にさせたいかの二択を迫られてしまいそうだ。


「俺のあだ名をなぜ知っている?」と、俺は反応しようとする前に、隣にいた絵里香が女性に挨拶をした。

「お久しぶりです。

 真奈美まなみおばさま」

「おひさしぶりね、えりかちゃん。

 今日はどうしたの?」

 真奈美と呼ばれた女性は、絵里香に好意的な表情を見せながら質問する。

「啓司に呼ばれたのですが……」


 真奈美は、俺に視線を移す。

「そうなの」

 俺に興味深そうな視線を送っていた。


「お、俺は……」

 俺は、しどろもどろになりながら、釈明をしようと思ったが、言葉が出ない。


 絵里香は、俺の様子を疑惑を持って眺めていたが、それはすぐに打ち切られた。


「優秀な息子を持って、お母さんは嬉しいわ」

「おばさん?」

「お母さん?」

 絵里香と俺は、驚きの表情で視線を真奈美に向ける。

 それ以上に俺は、真奈美が自分の母親であるという事実に衝撃を受けた。



 目の前の女性は、どう見ても30歳を越えているようには見えない。

 その目の前の女性が俺の母親を名乗っているとは……。

 俺の年齢が15歳であるならば、日本の法律に従って実の母親と名乗れるとすれば、最低でも31歳以上ということになる。

 もっとも、後妻とかという設定であれば、一切問題がないのだが……、


 真奈美から鋭い視線を感じ、視線を戻す。

「けいちゃん。何か、変な視線を感じるけど?」

「ソンナコトハ、アリマセン」

 俺は、真奈美からの視線に脅迫感を覚え、思わずカタコトになってしまったが、誰が俺を責められようか。


「おばさん。

 ひょっとして、話があるのは、おばさんのほうですか?」

「ええ、そうよ。

 もっとも」

 真奈美は俺に視線を移す。


「うちのひとり息子がこんなにも早く、えりかちゃんをつれてきてくれるとは思わなかったから、少し驚いたけど」

「ご迷惑でしたか?」

「えりかちゃんに限ってそれはないわ。

 早く家に入ってちょうだいな」

 真奈美は本当に楽しそうな表情で、絵里香に答えた。


「いいのですか?」

「気にしなくても、いいわよ。

 自宅のつもりでいてくれたら」

「ありがとうございます」

 絵里香は、真奈美にお礼を言うと、目の前の家に入る。

「お、ただいま」

 俺も、真奈美に続いて家に入った。




 --12年04月09日(月)13:48 3F--




 俺は家に入ると、絵里香のことは真奈美に任せて、自分の部屋を確認し、部屋の中を捜索していた。


「何もないな」

 俺は、簡素なパイプベッドに腰掛けながら、部屋の捜索で得られた結論を簡潔につぶやいていた。


 6畳1間の部屋の中に、ベッドと勉強机、本棚、そして小さなタンスが置いてあるだけだった。

 パソコンや、テレビゲームすら置いていない、ストイックな状況だと認識した。


 だが、押入を覗いたときに、自分の考えを改めた。


 1980年代に製造されたテレビゲーム機とそのソフトが所狭しと並べられており、その隙間に、修学旅行で購入したのか、木刀やら提灯やら十手などがが埋まっていた。

 あと、刃が出入りするナイフとか、縦縞が一瞬で横縞に変わる布とか、脱ぐと猫耳が生えてくる帽子とか、いくつかのマジック用のネタ道具も入っていた。


「これは、俺の趣味ではない!」

 俺は帽子を頭にかぶり、十手を手にしながら、叫びたかった。

 だが、叫ぶと、下の部屋で楽しく談笑している絵里香や真奈美が駆けつけて、俺の叫びを平然と否定するだろう。


 俺は、帽子の着脱を繰り返すことで我慢した。


 俺は、押入を丁寧に閉めると、部屋の状況について考察した。

 今の俺にとっては逆にありがたい状況ではあった。

 俺は、魔王を倒すことに専念しなければならないからだ。


 俺は、友人が遺してくれたノートの情報を、頭の中で整理した。



 俺はまもなく、冒険を始めることになる。


 当初の目的は、魔王が支配する世界の確立を目指している、三大魔貴族や七色しちじき候を倒すことになるだろう。


 俺は、それらを打ち倒す過程で、魔王の情報を入手し、ようやく魔王を打ち倒すことができるのだ。


 もっとも、打ち倒すためには、信頼できる仲間、強力な装備と高い能力、そして武技や魔法を拾得する必要がある。


 信頼できる仲間は、今の状況で得ることは難しいだろう。

 強力な装備についても同様である。

 この状況で、強力な武器を入手しても、警察のお世話になるのが目に見えてしまう。

 それ以前に、現状では調達する方法も思いつかない。

 帰り道で見かけたコンビニには少なくとも置いていないようだった。


 あとは、武技や魔法についてである。

 正直、これも無理だろうと思っていた。

 だが、確認しなければならない。

 今の俺には、何もしないという状況ほど、もどかしいものは無い。


「必ず、助けてやるからな」

 俺は、友人のことを思い浮かべていた。


 俺は、武技や魔法の拾得に備えて早めに眠りにつくことにした。




 --12年04月09日(月)22:56 3B--




「まだ、寒いな」

 昼間の日差しとの落差を思い出しながら、俺は近くにある、神社の境内にいた。

 俺は、夜の10時前に起きると、押入から黒塗りの木刀を抜き出すと、ひっそりと家を抜け出した。


 父親も健在であるようだが、確認はできていない。

 いつか顔を合わせることもあるだろう。



 木刀を持って夜道をうろついたならば、警察官に出会った時、高い確率でお世話になってしまうだろう。

 だが、俺の家の裏口から、神社へ至る道のりに民家はなく、神社も無人となって久しいことから、他人に目撃されることもないだろう。



 俺は、木刀を両手でしっかりと握り、ゆっくりと構えた。

 残念ながら俺は、剣道とか剣術とかを習っていたわけではない。


 せいぜい、高校の授業で基本的な竹刀の握り方、構え方、振り方を覚えたにすぎない。


 俺は、昔のことを思い出しながら、木刀を振り下ろす。


「重いな……」

 俺は、数十回振り下ろしただけで、疲労により腕を休めなければならない状況に追い込まれた。

「これは、武技収得以前の問題だな」

 俺は、自分の力のなさに、情けない思いで一杯になる。


 今の俺の状況は、どのようにひいきしても、素人そのものだ。

 武技とは、ある程度武術を修めて初めて収得することが可能となる。

 素人の俺に、武技を覚えることなど不可能である。


 万が一覚えたとしても、とても使えるとは思えない。

 武技は、その武術の習熟度に大きく依存しており、俺の武技が相手に当たる前に、相手の普通の攻撃で、打ち破られるにちがいない。


 少なくとも、友人の遺したノートには、そのように記載されていた。



「それでも、念のため試すことだけはしてみるか」

 少し疲労が回復した俺は、木刀を構え直す。

 俺は木刀を上段に構え、目の前に仮想の敵を思い浮かべ、精神を集中する。


 集中力が高まった状況で、俺は殺気を込め、剣技の名を叫びながら、木刀を仮想の敵に振り下ろす。

「剣技、一薙ひとなぎ!」


 木刀の先端は、すぐに地面に到着し、地面の上でわずかに生える雑草に突き刺さった。


 名も知らぬ雑草は、俺の攻撃を受けて、踏みつけられた以上の衝撃、消滅したり、切断したりすることもなく、たたずんでいた。



「やはり、失敗か。

 万一、成功していたら儲けものとは、思ったが……」

 俺は、苦笑しながら木刀を神社の境内にある柱の一つに立てかける。


 俺が、先ほど試した技は、鹿児島にある「初撃必殺」を旨とする剣術を参考にしたと、友人のノートに記載されていた。


 もっとも、友人のノートには、

「剣技一薙は、しょせん、劣化武技。

 序盤ならともかく、初撃必殺はありえない。

 当然、武技名を叫びながらを発動させる必要もない。

 気合いを込めた声を発声することは理にかなっているけどね。

 もっとも、君が武技を発動させるならば、発声したほうが良いだろう。

 無詠唱だと、武技の発動率が落ちたり、発動にかかる時間が伸びたりするからね」

と、丁寧に記載されていた。


 俺は、今の時点で、威力については問題視をしていなかった。

 なぜならば、今の俺が望んでいたことは、武技を使用して敵を倒すことではなく、武技を使用することで、武術の熟練度を高めることにあったからだ。


 だが、今の俺には無理なことがわかると、無心に木刀を振り下ろす作業を続け、疲れたら魔法の練習をした。

 もっとも、魔法の練習といっても、呪文の詠唱を繰り返すだけだったが。



 それにしても、誰もいないところでよかった。

 もし、クラスメイトに知られたら「高校生にもなって、厨二病ですか?」、「高二病には、まだ早いと思っていましたが?」、「二番煎じですか?」

 などと、冷たい視線で見つめられるに違いない。




 --12年04月10日(月)00:05 3A--




 日付が変わりそうになったことから、俺は家に戻ると、明日の事を考えた。

「当面の間は、学校に通う必要があるだろうな」

 俺は、唐藤先生からもらった資料を確認していた。

 そして、俺は夜中にもかかわらず、驚きの声をあげてしまう。



「しまった。明日は、いや今日はテストだった!」

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