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俺は、友の為に魔王を倒す ~厨二高校編~  作者: undervermillion
2nd シーズン Secret of my heart
19/20

第9話 力の解放

 --12年7月10日18:02 1(1)--




 門を出ると、北条がいた。

 学校から直接来たのか、北条は制服のままだった。

「北条……」

「よかったな、佐伯」

「どうもありがとう」

 俺は、佐伯に改めてお礼を言った。


「北条。

 一つ聞いていいか?」

 俺は、真剣な表情で北条に向き合う。

「ああ、そう言うと思っていたよ」

 北条は、俺の質問を予想していたようだった。


「どうして、北条が虎野のカンニングを協力するのだ?」

 俺は、いきなり核心をつく質問をした。


「……いつから、知っていた?」

 北条は、直接質問には応えず、俺に質問を返してきた。


 普通の俺ならば、質問に質問で返されたことに文句を言ったかもしれない。

 だが、俺は質問に応えることにした。

「疑惑が浮かんだのは、一緒に勉強したときだ。

 確信したのは、テスト中だが」

「そうか……」

 北条は腕を組んで考えていた。

 俺は、北条が組んでいる腕に視線を移そうとして、やめる。

 あまりじろじろ見て、北条の機嫌を損ねるつもりは無い。


「どうする。

 公表するつもりか?」

 北条が俺に向ける表情は柔らかなものだったが、目は鋭い。

「別に、俺から誰かに知らせるつもりはない」

 俺は自分の正直な思いを伝えた。


 俺も、チートを利用したからな。

 人のことは言えない。


「そうか。

 だったら、話すか」

 北条は決意した表情で話を始めた。



「……私は、虎野の為なら、命だって捧げることができる」

 北条は、昔を思い出すような表情で話を始めた。


「私は、一度死んだ人間だ」

 北条は、言葉をしぼるように俺に気持ちを伝える。


「家族から捨てられた。

 誰からも、愛されることはなかった。

 でも虎野は、そんな私を、必要としてくれた。

 だから、私はすべてを捧げる」

 北条は、詳細な事情を説明することはなかった。


 だが、俺は、それ以上の説明を求めなかった。

 北条の言葉の重みが十分に伝わったからである。


「そうか」

 だから、俺はうなずいた。

「いつまで、続けるつもりだ?」

 そして、別の質問をぶつけた。


「虎野がそれを望むまで」

 北条の言葉は短いが、その言葉は強い決意に満ちていた。

「わかった」

 もともと、俺は北条に口を出すつもりは無かった。



「北条、安心してほしい」

 俺は、自分の知りたいことを手に入れたので、北条にこれからの事を伝える。

「?」

 北条は、俺の言葉を理解していないようで、首をかしげていた。


「俺は目的を果たした。

 これから、1位を目指すことはない。

 だから、ソフトボール大会で使用したバットを後ろに隠す必要はないぞ」

 俺は、話しながら北条の後ろに視線を移す。


「そこまで、気がついていたか……」

 北条は、スカートの背後に隠していたバットを、目の前に取り出した。

「まあな」

 俺は、バットの状態を確認しながら応える。


「俺は、お前が、何らかの事情で虎野を1位にさせている事に気がついた。

 今回は、虎野も俺も1位になったが、もし、北条の答えがなんらかの事情でミスをしてしまったら?

 俺が、何らかの策略を用いて他の生徒を蹴落とすことを計画したら?

 お前が危惧したように、カンニングの方法を学校に報告したら?

 お前の計画を打ち砕く可能性がある脅威を、黙って見過ごすほどお前の決意はもろくないだろう?」


「お見通しか……」

 北条は俺の言葉に感心していた。


「まあ、一緒に勉強していたからね。

 お世話になったお礼もある」

 俺は、改めて北条に礼を言った。

 北条がいなければ、俺は1位になることは出来なかった。



「そうか?」

 北条は、俺が1位を取れた理由を理解できなかったようだが、それ以上追求することはなかった。


「ところで、北条?」

「何かな?」


「北条の気持ちは分かったが、虎野は北条の事をどう思っているのかな?」

「そ、そっれは!」

 北条はこれまで見せたことのないようなあわてた様子をみせた。

 言い換えるなら、恋する乙女という言葉がよく似合うかもしれない。


「まあ、頑張れよ」

 俺は、北条の照れた表情に満足すると、目的地へと向かった。




 --12年7月10日(火)20:12 1(1)--




 俺は、この世界における自宅の前に来た。

 前回、1月ほど生活した家である。

 現実の家とは異なるが、それでもそれなりに愛着を持ち始めていた家だった。


 目の前の家は、どこにでもあるような普通の家だった。

 俺の技能を知っていれば、自宅に侵入することが可能だと思われるかも知れない。

 だが、目を細めれば小さなアンテナやビデオカメラ、様々なセンサーが、俺の行動を妨げる。


 かつて、千代水が、「あんたの家は、千代水本家と同様のセキュリティーを導入しているから、正規の方法を採らずに侵入したら、灰になるわよ?」

などと誇らしげに語っていた。


 周辺を巡回していた、千代水家専属の警備員の主な仕事が、敷地内に侵入しようとした雀やネズミの遺灰を処分することだったりする。


 そんな過激な警備体制なら、地域住民が反対すると思ったが、そんなことはなかった。

 警備員が、周辺を巡回するおかげで、深夜に出没していた不審者がいなくなったという報告があり、付近の住民から喜ばれているらしい。

 それでも本心は、千代水家が、住民会に多額の寄付をしたというのが最大の理由だと、俺は密かに思っているが。



 それも、先ほどまでの話だ。

 俺や俺の家族が入る分には、グライダーを活用した侵入であったとしても、警報は発動しない。

 千代水が胸を張って俺に教えてくれた。


 撤去作業は、来週末を予定しているとのことだった。

 そのときには、俺の家族とも再会できるだろう。


 俺の顔が見えないことを不安に思っているかと思ったら、

「掃除をお願いね」

「風呂を沸かしておいてくれ」


 ……


 俺に届いたメールの内容を確認する限り、俺のことなど心配していないようだった。



 俺は、目頭を押さえながら玄関に近づこうとして、

「清水さん?」

 八里家の執事がいた。



 ただ、俺がその姿が八里家の執事と断定できなかったのは、それなりの理由があった。


 彼の服装である。


 日常の清水は、一目で執事であることがわかるように、黒の燕尾服を常時身につけていた。

 目の前の男は、黒に近い作務衣のような服装である。

 月が雲にかくれているため、そばにある街路灯がなければ、視認できたかわからない。


 清水は、俺の表情で何かを読みとったのか、

「ああ、この服装ですか?

 ただの、作業着ですよ」

と、俺に気安く話しかけてきた。


 彼の言葉からは、普通に畑作業や清掃作業を行うような口ぶりしか聞こえない。

 だが、清水が向ける視線は、「これから、敵対者を排除及び処理作業をする」などと、言い換えたほうがふさわしいと推測できた。



「君は、お嬢様の好意を無にした」

 清水は、冷静に言葉を吐き出す。


「お嬢様は、君にいつまでも残っていて欲しいことを願っていた」

「どういうことです?」

 俺は、八里に慕われてはいないと思っている。

 八里は、俺に一定以上近くに寄らないし、基本的に俺に話しかけることもない。

 だから、清水の言葉に疑問を感じた。


「お嬢様は、真田を慕っていたようだ」

「?」

 俺は、清水の言葉に一瞬動揺したが、すぐに冷静さを取り戻す。

 俺が隙を見せたら、本気で排除される可能性があるからだ。


「お嬢様は、真田にお誘いの声を何度かかけた。

 だが、彼女は一度も付き合うことはなかった。

 そのことを、真田に問い詰めたところ」

 清水は、俺をにらむ。

「『私は、佐伯さんを慕っておりますから』と言ったのだ」

「それは無いだろう!」

 俺は思わず反論する。


 俺は、真田がこれまで俺に対して見せていた表情や視線を思い浮かべても、一向に俺に気があるような態度はなかった。

 本当に俺に気があるのなら、俺が消しゴムを落としたときに、俺に手渡したあと、両手で俺の手を包み込み、頬を染めながら上目遣いをすれば十分だろう。

 現に、お釣りを上記の方法で渡した女性店員がいるコンビニエンスストアに毎日通ったことがあった。

 その女性店員が、他の男性客に同様の行為を、自分よりも150%笑顔増しで、行っているのを見かけたその日まで。


 だが、真田は消しゴムを机の上に置いただけだった。


 俺の考えを知らない清水は話を続ける。

「実際の気持ちはともかく、真田はそう断言した。

 そして、毎日のように会話する仲になっている」

「……」

俺は、心の中でうなづく。


「お嬢様は、真田をけん制するために、君を手元に置いたのだ。

 実際、5月の下旬までは真田は君に話しかけることは無かった」

「……」

 俺は、先日の真田との会話を思い出し、心の中で納得した。

 真田は俺に言ってなかったことがあったようだ。

 ひとつだけなのかはわからない。


「本来であれば、君のようなどこの馬の骨以下の人間が、お嬢様と一緒にいることなど許されることではないのだが」

「……」

 俺は、今が危険な状況であると判断し、静かに最悪の状況を想定した準備を始める。



 俺が黙っていると、清水は言葉を続ける。

「それなのに君は、すぐに家に戻るとは。

 君は、本当に、お嬢様の好意を無にした」

 清水の精悍な表情は、完全に俺に危害を加える意志を顔に現した。


「だから、君の行為は万死に値する」

 清水は、両手から鋭い刃物を取り出した。



「俺に危害を加えたら、八里の名を汚すことになりませんか?」

 俺は、ゆっくりと清水に質問する。


「私は、そこまで下手を打つようなことはしない」

「千代水家が動くと思いますよ?」

 俺は、具体的な材料を例示する。

 この状況で俺が行方不明になれば、千代水家が疑問に思うだろう。

 逆に俺の家族が、千代水家に不審感を持ち、千代水家がその解消のため徹底的な解決を求めるかもしれない。



「それは無い」

 清水が断言した。

「君の処遇については、既に、千代水、八里両本家に了解を取っている」

どうやら、清水は先に手を打っていたようだ。

「それで、お嬢さんが納得するのかい?」

 俺は、千代水の名前を出し揺さぶりをかける。


「心配はいらない。

 お嬢さんには、それらしい答えを用意している」

 清水は、話は終わりだとばかりに、俺に近づいた。


 速い!

 一瞬で俺の背後に回る、清水。

 刹那、ナイフを振り下ろす。


「!」

 清水の表情は、驚きに染まる。


 俺は、清水から離れていた。


 俺は、武技を駆使した。


 最初に、移動補助武技「アクトサイレンス」で俺の移動音をあらかじめかき消した。

 次に、同じく移動補助武技の「ディレイイメージ」でこれから移動しようとする軌道を消す準備に入った。

 最後に、移動系武技の「スライド」で、玄関前に高速移動した。


 単純に攻撃をかわすだけならば、最後に使用した「スライド」だけで十分だろう。

 知性のないモンスターであれば、そのまま背後に回り込めば簡単に打撃を与えられるだろう。


 だが、清水には知性があり、モンスターでもない。


 俺が単純に「スライド」だけを使用したのなら、通常ではない移動に幻惑される可能性があるが、音や動きに反応する可能性が高い。

 現に、清水はナイフを投げられる体制に入っていた。


 そのことを、フロージアの世界で幾度も思い知らされた。

 そのことを、体で覚えた俺は、戦技を組み合わせることで、対応することにした。


 俺は、フロージアで最初に戦う相手を想定して「戦技連携」を組み込んでいた。

「戦技連携」とは、統合系戦技の一つで、流れるように複数の戦技を発動させる戦技である。

 戦技と戦技との発動間隔は、前後の戦技の相性と戦技の習熟度によって異なる。

 現在の俺ならば、「アクトサイレンス」と「ディレイイメージ」との間は1/60秒で、「ディレイイメージ」と「スライド」の間は2/60秒となる。

 ちなみに、「スライド」のあとにもう一度「スライド」等を使用して現在地に戻れば、普通の人には戦技を使用していることはわからないだろう。


 俺は、この戦技連携を活用することで、魔王を倒すことができた。

 


 もっとも、今回の俺の目的は清水を倒すことではなく、自宅に入ることだが。


「アクトサイレンス」

「ディレイイメージ」

「アクロバットジャンプ」

 俺は、別の戦技連携を駆使して、素早く自宅の敷地内に入った。



 さすがに、清水は家に入ることはなかった。

 おそらく、千代水が導入した警備装備が残っている影響なのだろう。

 俺は、千代水に感謝した。




 俺は、息を整えながら、2階の自室に到着した。


「変わっていないな……」

 室内の状況は、前回俺が初めて部屋に入っていたときと変わっていなかった。


 そして、俺がこの世界からC3の世界へ移行する為の鍵が存在すると確信していた。

 部屋を見渡しただけでは、その鍵を見つけることができなかった。


 だから、押入れの扉を開く。


「魔窟だな……」

 押入の中は、前回よりも混沌としていた。


 前回押し込まれていたレトロゲームが陰を潜め、美少女ゲームやフィギアが詰め込まれていた。


 それらを、部屋に取り出す作業を行う中で、一冊の本を見つける。


 表紙のイラストには、円形のフラスコに奇妙な生物が描かれていた。


 そして、表紙には「月刊ホムンクルス」と記載されていた。


「あるのかよ!」

 かつて、自分が冗談で言っていた書籍が存在することについて、俺はおもわず、もの言わぬ雑誌につっこみを入れると、ページをめくる。


「!」


 本から大きな光があふれだし、視界を遮られる。

 俺は、あわてて目を閉じ、スキルを発動しようとして、俺は意識を失った。




 --2nd--




「……」

 俺が目を覚ますと、青い空が広がっていた。


 さわやかな風、草から出る独特の香り、澄み切った空気。

 それは、かつて感じたことのある世界の匂いだ。


 周囲を見渡すと、かつて見た風景が再現されている。

 最後にここに立ち寄ったのは、魔王城に向かう直前だったが、魔族の侵攻の影響はここにも及んでいた。


 そして、俺はバインドロープで縛られていることを確認して苦笑した。

 このロープは、犯罪者等を拘束するために開発されたもので、特に盗賊系技能への対策に優れたものであることを思い出す。


 俺は、一度イベントでこのロープで捕まったことがあり、盗賊系技能の習熟に使用したことがあったからだ。


「気づいたようだな」

 一人の女性が俺を見下ろしていた。

「お前は……」

 女性は前回と同じように問いただす。


 女性は、苦笑していた俺に対して、油断することなくゆっくりと手にしたナイフを近づけた。


「貴様は、どこの所属だ。

 なぜ、ここにいる?

 何が目的だ?

 正直に答えれば縄を解いてやろう」

 彼女の言葉は、あのときと変化はない。



 だが、俺はあのときの俺とは違う。

 体の動きを確認する。

 問題ない。

 魔王を倒す直前の力を持っている。


 だから、質問の答えは、最初には選べなかった選択肢を取ることができる。

「俺は、騎士の道を選ぶためにここにいる」



「……お前さん。

 私に喧嘩を売っているのかい?」

 女性は、瞬時に後ろに下がると、ナイフを納め、身につけたサーベルに手をかけた。


 最初の時には何もわからなかったが、今ならば理解できる。

 彼女が手にしたサーベルが、どれだけ鍛えられたものなのかを。


 そして、そのサーベルを手にした彼女が、どれほどの力と技を手にしているのかを。


 近衛騎士団に叙任されてもおかしくないほどの才能と、王国に対する揺るぎない忠誠を持ちながら辺境にいる理由。


 魔族の侵攻に備え、最初の盾として反撃の時間を稼ぐための存在だからだ。


 何の備えもなく異世界から来たのなら、間違いなく彼女に瞬殺されるだろう。

 それでも、俺が彼女に立ち向かうのは、準備を完璧にすませてきたからだ。


 彼女の剣が俺に向けて振り下ろされる。

 俺は、「軌道予測」により、あらかじめ剣の軌道を確認していたため、動くことはしなかった。


 彼女が振り下ろした剣は、俺を傷つけることなく俺を拘束した縄を解いた。


「……」

 俺は、黙ったまま立ち上がる。



「ライズ、その剣を奴に渡せ」

 彼女は一人の警備兵に鋭く指示をとばす。


 警備兵は俺に向けて剣を投げ飛ばす。


「これは良い」

 警備兵の剣は、特別な力は持っていない。

 しかし、この世界で最初に使用し、最も長い期間愛用した剣である。

「リハビリにはちょうどいい」 


 俺は、彼女に向かって剣を振り下ろした。

エピローグは29日(月)正午に掲載予定です。

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