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俺は、友の為に魔王を倒す ~厨二高校編~  作者: undervermillion
2nd シーズン Secret of my heart
17/20

第7話 封じられたチート(ずる)

 --12年6月28日(木) 09:03 17(7)--




 さて、俺の情報力チートを封じられたわけだが。




「警告!:試験時間中のログアウトは、通常のログアウトとは異なります。

 復帰時間は、試験終了後となります。

 よろしいですか?」


 俺は、画面に表示された選択肢から「いいえ」を選ぶと、現状について考えていた。



 どうやら、今回の作戦で前回使用したチート「ログアウトしてから、テストの答えを考える」作戦は封じられたようだ。

 方法は、ログアウトしてから、録画したデータを確認し、その答えを覚えて、再びログインを行う方法である。

 基本的に戦闘中で無ければログアウト可能なC3において、俺の考えた方法は明らかにチート(ずる)と呼べる方法だろう。



 それ以外のずるをする方法として、普通のゲームならば、「リセットして直前のセーブ状態からやりなおす」ことができると思うところだが、C3は違った。


 C3におけるプレーヤーのデータは、常時梅木財団が管理するサーバーに一つしか保存されていない。


 そして、データの解析や改竄かいざんを試みるために、不正な侵入を試みたユーザーに対して、一度も目的を果たされた事はない。

 そして、梅木財団は、不正を試みたユーザーのIDを強制的に削除している。


 このように、やり直しが利かない状況において、ログアウトのデメリットが提示されると行動が制限されてしまうのは、非常に厳しいことである。



 これが、俺が前回のプレイで入学後すぐのテストで、チートを使用したことによる影響によるものなのか、最初から制作者が用意された設定なのか、はたまた、この期末テストは戦闘扱いでログアウトできないのかは、わからない。


 だが、いずれにしても俺のチートを防ぐ意味において、効果的な手段であることには、変わりがない。


 もちろん、外部から力を借りる方法は、ログアウトをすること以外にも、電話やメールを使用する方法もある。


 もっとも、それらを使用した場合、俺は怪しい行動を行ったと見なされることから、自重しなければならないだろう。

 決して、友人以外に親しい相手がいないからではない。

 決して、いないからではない。




 俺は、目をこすりながら、目の前の問題用紙を確認する。


 ほとんどが、普通に授業で説明された問題が記載されている中で、なにかの間違いかと思われるような高難度の問題が紛れ込んでいる。


 生徒たちは、これらの問題を「チャレンジ問題」と捉えていた。


 1科目に1題程度用意されているその問題の配点は5点と決められている。


 だから、普通の生徒はこの問題に手をつけることはないし、特進クラスの生徒たちも、他の問題に手を付けてからはじめて、問題にとりかかるくらいである。


 俺は、目の前のチャレンジ問題を確認する。

 ああ、やはり俺には無理だな。



 俺は、これからのことについて冷静に考えることにした。


 そのためには、情報を集めなければなるまい。


 まずは、第6位の真田について観察した。

 相変わらず、真田の筆跡は美しく、眺めるだけで時間が過ぎるのを忘れそうだ。

 この試験が終わったら、教えてもらおうとおもった。


 次に、5位の楠について確認する。

 楠は、赤い水性のボールペンを軽やかに動かし、解答を進めてゆく。

 問題開始から、まだ10分も経過されていないにもかかわらず、すでに解答用紙の半分が朱色で染められていた。


 にじみやすいな。

 水性のペンを使用していることと、左利きであることで、解答用紙に記載された文字がにじんでいる。

 場合によっては、読みにくいことで、減点される可能性があるだろう。

 そのことが、5位と4位との差に現れている。




 4位の御車は、異常だった。


 全く、異なる問題を左右同時に見て、考え、そして答えていた。

 両手に銀と黒に塗装された、金属性の筆記用具で、答えを埋めてゆく。

 北条の話では、その筆記具は「メタルポイント」と呼ばれるものであり、ドイツから取り寄せた特注品であるそれは、惜しまれつつも製造中止となった最強の強度を持った鉛筆、六菱ウルトラユーニを凌駕する堅さを誇る。


 解答用紙が一枚のため、御車の秘技が発動されることはないが、楠以上の解答速度を誇っていた。

 チャレンジ問題に進むのも時間の問題であろう。


 だが、御車に後で警告する必要がある。

 メタルポイントの使用に当たっては、最大の欠点が存在することを。

 それを知らないまま、センター試験に臨むことになれば、最悪0点を取ることになると。




 3位の藤見は、静かなものだった。

 それでも、他の普通の生徒に比べれば、スマートに解答している。


 藤見がチャレンジ問題に取り組む時間は、楠や御車よりも短いことは確実だが、広範な知識力でその欠点を補うことだろう。


 もし、藤見が本気で期末試験にのみ勉強していれば、1位をとれた可能性がある。

 だが、彼が力を入れているのは、核燃料取扱主任者試験である。

 彼が本気であったのならば、俺は彼を目指す相手にしていただろう。



 2位の竹科の解答スピードは、特異としか言いようがなかった。

 なぜならば、彼女が解答する順番は、問題の順番とは必ずしも一致していないからだ。


 普通の人は、問題を認識し、答えるために必要な情報を導くために思案し、その内容を書くという方法がとられている。

 しかし、彼女の書き方は、あらかじめ答案用紙に記載されている回答内容を、そのままなぞるかのように答えを書き進めていた。

 彼女の言葉が正しいのならば、解答欄に回答内容が光って見えているのだろう。


 マークシートだけでなく、記述式の問題についても光るという話なのだが、全てが見えるわけではないので、満点を取るためには自力が必要であった。


 しかし、これまでの彼女には勉強するための経済的余裕がなかったことが、災いしていた。

 金銭的な余裕ができた彼女は、将来恐ろしい存在となるだろう。




 最後に、1位の虎野である。

 中間テストは、全問正解だった。


 本人の言葉では、「カンニング」と言っているが、単純にそれだけで、チャレンジ問題を含めた全部の問題が解けるわけではない。


 なぜならば、たとえば、数式をカンニングしたとしても、数式を正しく使用しなければ正答は期待できないし、国語の問題に至っては、「下線部分に記載された、登場人物の思いについて、「豚足」と「唐揚げ」を使用して答えよ」と言われても、答えられるはずがない。


 もっとも、事前になんらかの手段で問題用紙を入手することができたのであれば、可能なのだろう。

 だが、学校側は、俺の想像を越えるほど厳重に問題用紙を管理していること、問題の作成にあたっては、複数の教師がそれぞれ個別におこなっていること、問題用紙の印刷及び保管にあたっては、常に複数の教師の立ち会いのもと確認作業を行っていることから、不可能だろう。


 それならば、なぜ虎野は満点を取ることができるのか?

 俺は、その答えを知るために、虎野の様子を確認した。



「?」

 俺は、虎野の答案に疑問を感じた。

 虎野の解答速度及び回答内容が、明らかにおかしい。


 もし、虎野が普通科の普通の生徒であれば、俺は違和感を覚えることは無かっただろう。


 だが、虎野は学年1位の生徒で、中間テストで満点を取っていた。


 それにもかかわらず、虎野の回答内容は17位だった俺にもわかる程度に、誤った解答をしていた。


「!」

 そして、虎野の記載した文字を確認して、一つの仮説が浮かんだ。


 俺はその仮説が正しいか確かめるため、近くにいる女子生徒の答案内容を確認し、

「!!」

 俺の仮説が正しいことがわかった。




 試験開始から、20分が経過した。


 俺の解答用紙は、未だに何も記載されていない。

 名前欄も含めて。


 俺は、学年1位を取る必要がある。


 虎野が1位である理由も判明した。

 そのため、俺が1位になる条件が整った。

 俺は、新たなるチートを利用しカンニングをすることにした。




 --12年7月3日(火) 11:50 17(-)--




「おつかれさん」

「……真田か」

 俺は、テストが終わったことで、少しだけリラックスをしていた。

 そこに、俺と同様に落ち着いた様子の真田が声をかけてきた。

 ちなみに、北条はテストの終了とともに、すぐに帰宅したようだ。



「その様子だと、上手くいったようだね」

「そうだな。

 なんとかなりそうだ」

 俺は、真田の質問に素直に応えた。

「そうか、ありがとう」

 真田の表情は、これまで見せた、陰のある表情は失い、これまで見たことのないような明るい表情をしていた。


「俺は、自分の目的でやっている。

 感謝されることではない」

 俺は、努めて冷静に答えたが、真田の顔を眺めると、どうしても自分の顔がにやけそうになるのを止めることができない。




「ところで、真田。

 教えて欲しいことがある」

 俺は、真田を直視しないようにして質問する。


「なにが、教えて欲しいのかな?」

 真田は、明るいながらもまじめな声で問いかけてきた。


「これから、どうするつもりだ?」

「どうするつもりだ、とは?」

 俺が、真田の表情を見ると不思議そうな顔をしていた。


「今回だけでなく、これからのことも考えているのだろう?」

 俺は、現状のクラス運営について指摘した。

 俺が1位を取り、真田も上位を維持できれば、ある程度クラス運営への影響力を確保することができる。

 その影響力を、名前を呼ぶことだけに限定させるつもりはないはずだ。

「そういうことか」

 真田は、俺の言葉に納得したのか、説明を始めた。


群緑祭ぐんりょくさいだ。

 そこでの出展を考えている」

 真田は、8月末に行われる、厨西第二高校学園祭、「群緑祭」について言及した。


「このクラス、いや、これまでの特進クラスはまとまりがなかった。

 このクラスは、17位の君が登場したことで、少しは変わったけどね」

「そうかい?」

 俺は、首を傾げる。


「前にも話したことだが、君が編入して9位を挑発し、1位になることを宣言したことで、特進クラスの生徒たちが本気になって勉強を始めた。

 俺たちのように、何人かが集まって勉強会を行っていたよ」

「知らなかったな……」

「まあ、君はそれまでのクラスの状況を知らなかったからね。

 変化を知らなかったのは無理もない」

 真田は、なだめるような口調で、俺をさとした。


「それならば、もっと早く俺を誘えば良かったのでは?」

「……まあ、いろいろあったのさ」

珍しく、真田は言葉を濁した。



 しばらく沈黙が続いたが、真田が表情を戻して話題を変えてきた。

「話を戻すが、特進クラスにまとまりがないことについて、私なりに推測したのだが、群緑祭への不参加が原因ではないかと思うんだ」

「ほう」

 俺は、真田の説明にうなづく。


 群緑祭では、基本的に各クラスがなんらかの出し物を行う必要がある。

 だが、そのために勉強時間が削減されることを問題視した学校側により、特進クラスが出展することは無かった。


「そして、本来我々に期待されているのは、勉強で良い点を取ることだけではない。

 将来、人の上にたって指導できるような、そんな立場の人に立つことなのだよ」


 真田の表情は、熱を帯びてきた。

「高校時代という多感な時期に、対人関係を磨くことの重要性は、有る意味、机にかじりついて勉強する事よりも大事だと思っている」


「それを文化祭にもとめるのか?」

 十分なのかという思いで、真田に質問する。


「文化祭は、あくまできっかけにすぎない。

 それを、手がかりにして生徒会への関与や学校との関係、そして、校外活動まで広げる必要があると考えている」


「その活動で、生徒の成績が落ちるようであれば、本末転倒だぞ。

 少なくとも、この世界で……」

 俺は、思わず「この世界でも」と言いかけて、言い直す。


「この世界では、個人のテストの成績である程度、将来が決まるからね」

「もちろん知っている」

 真田はいつの間にか、表情に陰を帯びていた。


「だからこそ、君の力が必要なのだよ」

 真田の態度は真摯だった。


「これまで、君は多くの問題を乗り越えてきた。

 おそらく、このテストで1位を取るのだろう?」

 真田の言葉は既に確信に満ちていた。



「そうなれば、いいと思っているが。

 だが、君に力を貸すことはできないと思う」

 俺は、申し訳ない気持ちで、真田に自分の思いをつたえる。

「なぜ?」

 真田は俺の言葉に驚いていた。


「おそらく、俺が1位になったら、この学校にいる必要がなくなるだろう」

 俺は、自分将来を告げる。

 俺は、友人の為にここにいる。

 決して、学生生活を満喫するためにいるのではない。

「そうか……」

 真田は残念そうな顔をした。


「期待してもらったのに、申し訳ない」

「いや、早めに教えてもらって助かった」

 真田は、努めて平気な顔をした。


「それなら、よいのだが……」

 だが、俺は真田の表情の裏にある気持ちをくみ取り思わず確認をした。

 俺は、どうあっても真田よりも友人を優先するつもりである。

 だから、すぐに発言を悔やむ。


「本当の策士は、一つの策にとらわれないのだよ。

 そして、真の策士は、どのように転んでも問題ない策を使用するのだよ」

 真田は俺の気持ちに気がついたのか、口元をニヤリとした。


「そうか、ありがとう」

 俺は、真田の好意に感謝した。


「だから、ひとつだけ、アドバイスしておこう」

 俺は、真田の好意に応えることにした。



「?」

「いざとなったら、北条に頼るといい」

 首をかしげる真田に、予言者のような口調で断言する。


「47位?

 ……まあ、17位が言うのであればそうだろうな」

 真田は納得していないようだが、強引にうなずいた。



「ところで、17位は47位の事をどう思っているのだ?」

 真田は、ふと思いついたように俺に質問する。

「質問の意図がわからないが……」

 今度は俺が困惑する番だった。



「北条のことは、真田と同じように頼りにしていたね。

 もっとも、文字の美しさとか、テストにおいての信頼性については、別の話だけどね」

 それでも、俺は自分なりに北条のことを評価した。

 もっとも、自分の思いを全て伝えるつもりはない。

 俺は、北条の秘密を知っているが、それを真田に言うべきではないだろう。

「そうか」

 それでも、真田は俺の言葉に納得したようだった。



「ちなみに、文化祭で何をさせるつもりなのかな?」

 もし、『世界かえる飛びコンクール』とかを企画しているのなら、やめさせることを提案しなければならない。

「ああ、たこ焼きとたい焼きを考えている」

「そうか」

 極めて普通の発言に俺は安心した。

 俺は、しばらく真田と雑談をしていた。

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