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俺は、友の為に魔王を倒す ~厨二高校編~  作者: undervermillion
2nd シーズン Secret of my heart
16/20

第6話 試験開幕

 --12年6月27日(水) 16:45 17(7)--




 その部屋は、静寂に包まれていた。

 室内で聞こえる音は、3人の筆記音と、室内に完備されていた冷房から流れる送風音だけだった。


「……」

「どうした、17位?」

 俺が、勉強の手を休め、真向かいの席に座っている真田をながめていると、俺の視線に気がついたのか、真田が話しかけてきた。

「なんでもない」

「そうか」

 俺の返事に満足したのか、真田は視線を目の前の参考書に戻していた。




 試験前のこの時期、学校の図書室や図書館は多くの生徒たちであふれている。

 部活動の休止期間となることで、部活動に打ち込む生徒たちでにぎわうからだ。


 厨二高校には、北校舎に隣接する形で独立した図書館が設置されており、そこには冷暖房が完備された自習室も用意されていたが、生徒たちの需要を賄うことができなかった。


 それは、進学コースということで、優遇されていた俺たちにとっても例外ではなく、放課後に自習をする生徒たちにとって、勉強場所の確保は重要な問題であった。


 もちろん、一人で自習を行うのであれば、自宅でも十分であるし、ふところに余裕があれば、ファミレスやファーストフード店で一緒におなかを満たしながら、わいわいと勉強会をおこなうこともできただろう。


 だが、俺はそれができないため、混雑を承知の上で、図書館での勉強会を提案したのだが、

「それなら、問題ない」

 真田が案内してくれたのは、視聴覚教室であった。


 先日の進路指導室といい、今日の視聴覚教室といい、真田が簡単に部屋を借りることができるのは、どういう理由なのだろう。

 ひょっとしたら、真田は、学校の弱みでも握っているのではないのだろうか?


「どうした、17位。

 私の顔をじろじろ眺めて。

 何か言いたいことがあるのか?」

 真田が、シャープペンシルをおいて、赤い眼鏡を通じて、俺の顔を見つめる。

 少しだけ勉強に疲れた表情と、それ以上の俺の言葉に対する期待の表情が浮かんでいるように見える。


「言いたいことがあるなら、はっきりと言ったほうがいいぞ。

 とりあえず、すっきりするから」

 北条も、真田の発言に乗ってきた。



 ならばと、俺は日頃思ったことを告げる。

「真田さん。

 あいかわらず、美しいな。

 最初に見たときからそう思っていたのだが」

「そうか、ありがとう……」

 真田は、俺の賞賛の言葉に、平然と返事をする。


「……」

「……」

 視聴覚教室は、再び静寂へと移行する。


 が、北条の言葉で静寂が破られた。

「……、ええっとそれだけ?」


 北条の疑問に対して、

「それだけだが。

 まあ、たしかに言えばすっきりしたな。

 いつか言わなければばならないと思っていたが、ようやく言えたからね」

 俺の言葉に納得したのか、

「そうだね。

 私も一度は、17位からの評価を知りたかったので嬉しかったよ」

 真田も、喜びの表情を見せた。


「で、これ以上どのような展開を望むのかね、北条さんよ?」

「17位の言うとおりだ。

 当然、話の続きを作ろうと思えば、できないこともないが」

 俺の発言に、真田も話を合わせる。


「試験勉強中の今、この時期において優先するような話でもない」

「そうだな。

 17位の言うとおりだ」

 俺と、真田は一緒になって北条に問い詰める。


「いや、ふたりとも、いくら試験勉強が大事でも、すべてにおいて優先するなんておかしいよ!」

「そこまで、優先度は高くないが?」

「そうだな、美しさについての会話はテストが終わってからしてもおかしくないと思うぞ」

 北条は、あわてながら俺たちに反論を試みたようだが、即座に切り捨てる。


「いや、高校時代の甘酸っぱい恋愛劇は非常に大切だと思うが?」

「……確かに大切な話だな」

 北条の話の内容に驚きながらも、俺は、かつて過ごした高校時代を振り返りながら回想する。

 うん。そんなすてきな思い出は存在しないな。

「だが、今の話と何がつながっているのだ?」

「17位の意見に同意する」

 俺と真田は、北条に質問する。


「いや、確かに見た目だけですぐに恋愛感情を持つとか、言うつもりはないけど、双方にそれなりの好意があれば、次の段階にすすむのも普通にあっても良いと思うのだ。

 もっとも」

 北条は、いったん言葉をとめ、

「無理に二人に押しつけるつもりもないけど?」

 自分の意見を述べ終わった。


「そもそも、なぜ急に恋愛感情について、北条が提起するのかが理解できないのだが」

「そうだね、理解できないね。

 だいたい、いちいち美しいと言われた相手と恋愛感情について考察しなければならないとすれば、私は筆を折らねばなるまい」

「そうなるよね」

 俺は、真田の言葉に素直にうなづく。

 書の美しさをほめた相手に恋愛感情を持つようになれば、真田は多くの人間を相手にしなければならなくなる。


「?

 何の話だ?」

「そっちこそ、何の話だ?

 俺は真田の筆記の美しさについて話しているのだが?」

「47位には、別の話に聞こえたのか?

 正直、47位の国語の読解力に、これまで疑問を抱いたことがなかったのだがね」


「いやいや。

 その話がどうして、『言いたくても言えなかった』ことにつながるのか、わからないから!」

「言うのならば、試験が終わってからでも良いかと思って言うのをためらっていたのだが?」


「……そうかい」

 ようやく北条は納得してくれたようだった。




 --12年6月27日(水) 22:45 17(7)--




 試験の前日であったが、俺は早めに勉強を切り上げ、就眠しようとしていた。


 3人で取り組んだ勉強の成果はそれなりにあると自信を持って言える。

 普通に授業で習った内容であれば、問題なく回答できるはずだ。

 ただし、中間テストや期末テストには、難問が含まれていると聞いている。


 北条の説明によると、

「普通のテストだと、上位の点数に差が付かなくなり、順位で呼ぶのに不都合を生じることから、難問が作られた」

とのことだった。


 去年の期末テストで出された難問を見ると、正直俺の手には余る内容であった。

「手に余るということなら、1位を取れないのでは?」

と、思われるかもしれない。


 俺には、難問を解決するためのチート(ずる)を使用することができる。

 入学後すぐに行われたテストで活用した方法が。


 だから、体調を整えることを優先した。


 寝室には、すでに八里がいた。


 今の自分の視界から、八里の姿を確認することはできないが、柑橘系のシャンプーの匂いや、かすかに聞こえる息づかいなどで、八里の存在を確認する事ができる。


 以前であれば、一緒の寝室で寝ることに耐えられなかったが、今ではそれも慣れてしまった。

 慣れとは、恐ろしいものである。


 とはいえ、今日だけは、明日の試験の事を考えると寝付けないでいた。


 ちなみに、八里とは、これまで一度も一緒に勉強をしたことはない。


 八里が「じいや」と呼ぶ、執事の清水源兵衛しみずげんべいが八里の勉強を見ていた。

 そして、清水は、

「私の勉強指導法は、八里家以外の人間に教えるつもりはない」

と断言していたからだ。




「もう、寝たか?」

 俺は、八里に声をかける。

「……いえ、まだですが」

 八里は静かに答える。


「どうかなされましたか?」

 優しく、俺に声をかけてきた。



「いろいろと、お世話になったと思ってね」

 俺は、八里に返事した。

「そんなことは、ございません」

 八里は静かに否定する。


「ご学友の危機に対して、救いの手をさしのべるのは、当然の務めでございます」

「誰にでも、できることではないと思うが?」


「それは、内容についての話です。

 私は、あなたを泊めることができましたが、手助けできる内容は、その人それぞれに応じてできることが、必ずあるはずですから」



「ひょっとしたら、前にも聞いたかも知れないけど。

 それでも、一緒の部屋で休む必要はないと思うが?」

 俺は、疑問を口にした。

 念のため、俺の知らないところで、同じ質問をした可能性を考慮にいれて、前置きを入れた。


 この建物は、確かに寝室は限られていた。

それなりの広さを誇るが、この建物は国の指定文化財に指定されているため、大規模な改造は制限されていた。

 だからと言って、一緒の寝室にいる必要もないと思っている。


 俺は、どこか適当な空き部屋に布団でも引かせてもらえればいいと思っていた。


 ちなみに、執事たちは付近にあるワンルームマンションで寝泊まりをしている。


「ご学友を寝室以外の場所でお休みさせたとあっては、八里家末代までの恥になります」

「そうか……」

 八里家のプライドに敬意を表しながらも、だからといって、女子高生の寝室に男子生徒を泊めるのはどうかと思った。


「何か、ご不満でもありますでしょうか?」


 俺は、八里に対して言いたいことがあった。


 自分の為にこんなにも、優しくしてくれる八里にこれ以上に何かを願うのは間違っていると思う。

 でも一つだけ、言いたいことがあった。



 どうして、八里家の寝具が棺であるのかと。


 別に、棺であることに不満はない。

 棺の大きさは十分に確保されているので寝返りもできる。

 中も、きちんと枕や毛布が用意されているので、体の疲れが溜まることもない。


 それでも、棺である必要性が理解できなかった。

 以前、北条が棺に関する八里家のエピソードを聞いたような気がするが、すぐには思い出せない。

 もっとも、変に理由を知ってしまっても困ってしまうかもしれないので、直接八里に聞くことができなかった。




 --12年6月28日(木) 8:56 17(7)--




 B県厨西市棒野区。

 都市中心部に隣接するこの区には、市立厨西第二高校が存在する。

 全校生徒数1,080人。

 12年6月28日(木)から7月3日(火)までの期間、全ての生徒を巻き込んだ新たな戦いが始まる。



「どうして、私たちが戦わなければならないの!」

「キミは何を言っている。

 この学校に来たときから、この戦いからは逃れられないと知っていたのではないか?」

「知っているわよ!

 でも、でも!

 こんな戦い、誰も望んでなんかいないわよ!」

「そうでもない。

 見たまえ。

 彼ら、彼女らは、既に戦いの覚悟はできている」

「そんな!」

「キミは、逃げるのかい?

 知識とセンスと計算能力が求められるこの戦場から?」

「そ、それは……」

「そう、もはやこの戦いは誰にも止めることはできないのだ!

 せいぜい、生き残れるようあがくのだな」



 既に戦いの幕は上がっていた。



「この公式の本質を知らぬものが、問題を解くことなどできはしない!」

「公式が無くても、俺は生き残る!」

「たとえ、回り道だと言われても、それが正しい答えへと導いてくれるなら、私はその道を選びます!」



「この問題は解決してはならない」

「どうして!」

「われわれに与えられた時間は有限なのだよ」

「与えられた時間では解決できない問題か?

 いい問題だ……」

「挑戦者どもよ、俺の回答速度についてこれるかな!?」

「なんだ、あの回答速度は!」

「そうだ、そうに違いない。

 あの問題を時間内に解くには、制御ソフトがいる!!」

「制御ソフトだと!?

 それは何のことだ!!」



 問1 次のうちプルタルコスの対比列伝に登場しなかった人物はどれか?


「こんな問題わかるか!」

「簡単じゃないか!」

「どうして、そんなに簡単にわかる?」


(ア)坂上田村麻呂

(イ)ヌマ

(ウ)ペリクレス

(エ)スッラ

(オ)エパメイノンダス


「選択肢でわからないとは、本当にお前は……」



「その答えを口にしてはいけない!」

「言ったら、歌詞と……」

「第1問目から順番に『ア』と『イ』と『3』と『3』と『10』だろ?

 これが、どうやったら歌詞になるのかい?」

「!」

「こいつ、上手く切り抜けたぞ!」





……




「……何を読んでいる、北条?」

俺は、前の席で、手書きの原稿を読んでいる北条に声をかけた。

「ああ、これか?」

北条は、俺に振り向くと手書きの原稿を手渡した。


「舞台「試験に臨む戦士たち」の脚本だ。

 1年3組のコンペティションで、候補に挙がった一作だ。

 たしか、小中という生徒だったかな?」

 冊子の裏には小中の名前が記されていた。

「ああ、そうか……」

俺は、北条に勉強を勧めようとしたが、結局何も言わなかった。



 テスト直前。



 教室は、一部の例外を除いて、極度の緊張感に包まれていた。


 6位の真田は、筆記用具の確認をしていた。

 鉛筆、消しゴム、シャープペンシル、替え芯、ボールペン、鉛筆削り。

 全て複数用意してあり、落下事故による紛失にも備えている。

 真田の使用するそれらの品は、すべて普通に市販されている量産品である。

「性能がとがった、特注品では、万一の場合のメンテナンスが難しい。

 その点、これらの量産品は基本的に構造が単純でメンテナンスフリーだ。

 戦場では、こういった安定した製品のほうが生き残れるのだよ」

 ……弘法筆を選ばず?いや違うな。


 5位である楠は、赤い水性ボールペンで試し書きを続けていた。

 手が赤く染まらなければ良いのだが。

 

 4位の御車は、両手に銀色の鉛筆のようなものを握っていた。

 北条の話では、中間テストで折れてしまった六菱鉛筆ウルトラユーニの代わりにドイツから輸入した筆記用具だと聞かされている。

「あれならば、秘技を使用しても折れることはないだろう」

とは、1位である虎野の発言だ。

 それにしても、4位の御車の体つきは優等生というよりも、ボクサーと言ったほうが似合っているほどに、引き締まった体をしていた。

 本当は、勉強ではなくボクシングで1位を目指していると言われても、思わず納得できそうなくらいだ。

 もっとも、本人の考えはわからないが。


 3位の藤見は、本を読んでいた。

 試験開始直前まで、勉強する姿に、普通なら敬意を示すべきかもしれないし、直前の勉強に意味が有るのかと思われるかもしれない。

 だが、彼の前にそれらの議論は無意味だ。

 なぜなら、彼が読んでいる本は、

「原子力規制関係法令集2011年版」

であった。

 今から始まる数学の問題とは一切関係ない内容であるからだ。

 彼の特技は、読んだ本をすぐに覚えてしまう能力を持っているらしい。

 もし、俺がフロージアで魔法系技能「記憶強化」を持っていたら、彼のように余裕で試験に臨めていたかもしれない。


 2位の竹科は、特に表情を変えることなく、教室の白板を眺めていた。

 彼女の解答法ならば、基本的に勉強の必要がない。

 あとは、解答方法が選択式であるかないかが問題である。

 もちろん、中間試験の成績が学年2位だけあって、記述式の問題でもきちんと答えは出すだろう。



 1位の虎野は、予想に反して必死に暗記を行っていた。

 その執念が、その信念こそが1位の実績なのかと思ったが、

「?」

よくよく観察すると、覚えようとする内容が、基本的な公式であることに驚いた。




 俺は、ステータス画面を表示させながら考えていた。

「時間さえ有れば、満点は取れるのでね」

 俺は前回使用した、チート(ずる)を再び使用することを決意していた。


 その内容の特質上、この世界で、唯一俺だけが使用できる能力。

 ほかの人間からすれば、「カンニング」と言われても仕方がない方法だ。


 だが、北条が言っているように、

「カンニングがばれなければ問題ない」

 そう、1位の虎野がカンニングをしようしているように。



「大丈夫か?」

 問題用紙を手渡しながら、北条は質問する。

「ああ、問題ない。

 そっちは?」


「問題ない。

 と、言いたいところだが、成績はな」

「まあ、がんばれ」

「早く、問題を配ってくれ」

「ああ、すまない」

 俺は、後ろの生徒からの督促を受けて、北条との会話を打ち切った。



 時計を確認していた担任の黒田が渋い声で宣言する。

「試験開始!」


 全員が、問題用紙を裏返して問題を確認する。

 俺も、一緒に問題の内容を確認する。

 だが、ここからの俺の行動は、他の生徒とは異なる。


 俺は、問題を俺の視界の中央に展開しながら、ディスプレイを表示させると、メニューがメインを起動させ、

「ログアウト」

 を選択した。



 視界の中央部分に、警告内容が表示された。

「警告!:試験時間中のログアウトは、通常のログアウトとは異なります。

 復帰時間は、試験終了後となります。よろしいですか?」



 俺のチートが封じられた瞬間だった。

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