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葛餅の香り  作者: 岸上ゲソ
5/13

よん葛

 ご注文はとにこやかに頬を染め言う葛餅屋の女性店員の顔を、私は目を点にして見上げた。

 何故私が驚いているのかと言うと、ここの店員の女性はある意味名物女性で、体形も相俟って熊の如く威勢がいい「女性らしさ」とはおよそ対極の位置に居られるお方だったからである。しかも彼女は唾を四方に撒き散らして注文をとるという極めて珍奇な特徴を持ち、初めて来た人間はまず威嚇されているのかと恐怖する。だからこそ私はいつも注文を述べると、女性が復唱する前にすかさずメニューを盾にして唾被害を防ぐというメニューバリアを会得していた。

 だというのに。

「こちらがオススメでございますわお客様!」

 唾どころか星を飛ばす勢いの彼女に、普段の姿を知る私は有り得ない光景だと恐怖した。常連で顔見知りの私には見向きもせず、メニューを差し出した彼女はその類稀なる風貌である丸顔、例えるなら限界一杯まで餡を詰め込んだ饅頭のような厳つい顔を、ほんのりと紅に染め上げて紅饅頭と化していた。生きとし生けるすべての者を震撼させる微笑である。私は震え上がり、彼女は何か頭と顔が悪くなるものでも口に含んでしまったのかと思ったが、顔は以前から厳つい悪人面なので影響が出たのは脳だけだと判断した。何てことだ、まだ若いのに哀れな。――若いのだろうか。そういえば年を知らない。

 他人を心配してやっている己の親切心に深く感動しながら、私は彼女に挨拶をするべく椅子の隅でそわそわしていた。しかし彼女はずっとマフィアに熱視線を注いでおり、全くこちらを見る気配は無い。なんて奴だと憤慨しかけたが、マフィアを見詰める彼女の様相になるほどと納得した。

 彼女は私を無視しているのではない。単に彼女の中で私が元素記号「O2」で記されるレベルに成り下がっているだけなのだ。いつも当たり前に漂っているO2如きがそわそわしたところでハエが居るとも思われていないに違いない。何てことだ、私はハエ以下になっていたのか。

 私は彼女に挨拶するのを諦め、仕方なく立ち上がった。

「済みません、ちょっと厨房に行ってきますね」

「え、――え?どうかなさったのですか?」

 驚いてこちらを見たマフィアに「ヤボ用です」と私は微笑み、ついでにぐっと中指を立てた。案ずるなというジェスチャーのつもりであったが、立てる指を間違えている事に気付き慌てて親指を立て直した。マフィアはポカンとしていたが、私は笑って誤魔化すと逃げるように厨房へ足を進めた。今限りなく自分で寿命を縮めた気がする。

 店内と厨房を区切る出入り口には紺染めの暖簾が下がっており、しっかりとした扉は無いので布を持ち上げればそこが厨房だ。私は入り口に立ち、暖簾の片側をひょいと持ち上げると中に首を突っ込んだ。その視線を奥に伸ばした先に暖簾と同じ紺染めの着物を着た初老の男性を見つけ、私は彼に向かって店長、と声をかけた。

 男性はひょいと首だけでこちらを振り返った。手を振って「ちわ」と言うと、銀縁の眼鏡に収まる瞳が瞬き、それが私の姿を認めると笑みの形に皺を刻んだ。あまりに頻繁に来ていたので、この店長と私は結構気安い関係になっているのである。店長はこちらに歩きながらぱんぱんと粉だらけの手き、周囲に煙のような粉が舞った。これがマリファナだったら笑える。

「椋香ちゃん、きてたのか。ここのところご無沙汰だったな」

「金欠だったのです。先々月にここら一帯で小金を落としすぎまして」

「相変わらずだなぁ。太るぜ?」

「もう太りました。手遅れです」

 うふふふと涙目で笑うと、大きな溜息をつかれてしまった。

「で、どうかしたのか」

「あ、そうです。釘抜きはありますか」

「釘抜き?」

 本題に入るべく聞いてみたら、怪訝な顔をされたので暖簾の外を指差した。店長は眉を跳ね上げて暖簾をくぐり、私が指差した紅色大福饅頭と化した店員がマフィアに釘付けになっているのを見ると眉間を押さえていた。私は心中お察ししますと頷いて肩を叩いた。

「――ん?あの別嬪な外人さんは?」

 顔を上げた店長が饅頭の視線の先にいるマフィアを見つけた。何故私が連れて来た事が解るのか不思議だったが、迷子だと伝えた。

「道に迷ってたんですよ。東京からわざわざ葛餅の為に来たらしく」

「へぇ」

 店長はそりゃあご苦労なこったなと呟き、だいぶ白の混じった顎の無精髭をざりざりと撫でた。

「東京にもあるのにな」

「店長、職人にあるまじき言葉ですよ」

 誇れよもっとと思ったが、彼はからりと笑うと思い出したような目で私を見た。

「ところで椋香ちゃん、今日は大学無いのかい」

「あ、休講に」

「そうか」

「なればいいなと」

「サボリじゃねぇか」

 そうともいう可能性もありますというと、呆れた声がそうとしか言わんと言った。

 結局、饅頭は店長の愛の拳で正気を戻した。抜くのではなく殴るのかと納得した。



 * * *



「どれにしましょうか」

 端整な口元を穏やかな形に歪ませ、マフィアはメニューを私に見せた。

 どれと言われてもこの葛餅屋には葛餅以外売るものが無い。選択肢は葛餅オンリーなのにその何を選べというのだろうと思い、私が「葛餅しかないですよ」と言おうとすると、唐突に視界が渋い緑一色になった。そんな、いきなりワープした、と喜んだのも束の間、そこに「ちもずく」という行書体の暗号を見つけ、それがここのメニューであると理解した。ここのメニューは右から横書きに字が始まっているのだ。しかし何故私はメニューの裏にワープしたのだろうか。

「失礼いたします!セットだと他の味も楽しめますわよお客様!」

 悩みかけたところに隣から星入りの饅頭の声が聞こえ、横を見れば頬を染めた紅饅頭がにこにこと笑っていた。――すいません顔が厳ついから怖いです。

 こっそりと再び震撼しながら、しかし私は己がワープしたのではなくメニュー背表紙を鼻先すれすれに掲げられただけだと知った。ちくしょう饅頭め、私はメニューを覚えているからいらんだろうといいたいのか!

 思わぬ記憶力テストに内心くじけ、だが思い出す以前に葛餅しか無いのだったと気づいた。俄然やる気が出てきた私は折角背表紙があるし紙質の仕事ぶりでも眺めてやろうと目を眇め、するとまた唐突に視界が開けた。あまりに唐突な場面展開に目を瞬くと、そこから現れたのはマフィアの顔だ。どうやら遮っていたメニューを取り上げたらしいが、彼の口の形状はにこやかに弧を描いているのに不機嫌オーラを発していた。ファックですか、さっきのグッドと間違えたファックがお気に召さなかったのですか!(召すような人が居たら吃驚だが)

 マフィアの怒りに身に覚えがあり、私は内心慌てつつとりあえず小さく縮まっている事にした。そうだとも、日本の諺に「沈黙は筋」というものがある。黙るとマッスルになるってことだろうかこれ。

 結局、マフィアは「葛餅セット」と毛筆で書かれた文字を指差して「これを二つ」と注文した。饅頭は嬉しげにハイと頷き、切なげな溜息を落とすとしずしず厨房のある暖簾の下へ消えていった。私は揺れる暖簾を見つめながら、注文を取るとそれを奥に怒鳴りながら大またで厨房へ行く饅頭はどこへいったのかと不思議で仕方が無かった。


「えーっと、日本語、上手ですよね」

 注文後、何故だか黙りこくってしまったマフィアに会話の糸口を求め、私はマフィアへ賞賛の言葉を向けてみた。奴との会話は盗聴されている危険性もあるので、話す内容に気をつけなければならないだろう。

 さぁ来いマフィア、私の安全の為にダメっぽくない話を続けろ!

 気分は電柱の影から槍を構えて背後を狙う不審者である。

「勉強したんですよ。日本語は語学教師が居なかったので二年と少しかかりましたが」

「え、独学ですか?」

 驚いて目を瞬くと、マフィアは笑って頷いた。

「日本語には漢字・平仮名・片仮名と言語が三つあって複雑ですね。学ぶ事は嫌いではありませんが、全て覚えるのは流石に苦労しました」

 うわーいこんな槍投げてやる!

 想像の中で構えたやりは放り投げられ、私は有り得ないまさかの全習得に白目を剥いた。ふざけるなよ、全て覚えたと。右脳ばかり駆使する私が言うのもなんだが左脳過剰発達してるのではないか。ショックだ。つまりマフィアは私より格段も頭がいいのだ。内心では地団駄踏んで歯軋りしながら凄いですねと感嘆した。すごい、よく我慢した偉いよ私!ノーベルもらえるよ!

 脳内は混乱甚だしかったが、悔しかった私は己をビッと親指で指した。

「私は日本人ですが漢字は日本人ですけどそう得意でも無い日本人ですよ!」

 漢字が不得意だから日本人ではないという間違った疑問を抱かれないようにと思って、私は三回ほど己の人種名を混ぜてみたがマフィアは「誰しも不得意はあります」などと特に気にした風も無かった。言動の不自然さに対する突っ込みが欲しいと思いながら、そうだ愛すべき文化、ボケとツッコミの心得は勉強し忘れたのかと思った。馬鹿だなコレが一番大事であるのに、あああどうしよう後頭部目一杯殴りたい!ツッコミてぇ!

 私の内心のジレンマも知らず、マフィアはにこやかに笑っている。

 私は耐え切れず、突っ込み衝動を誤魔化すためににたりと笑みを浮かべた。

「…っ」

 マフィアは突然動揺を示したのはその時だ。

 わたしの笑みに一瞬だけ間の抜けた顔を浮かべ、けれど慌ててテーブルに組んでいた手を持ち上げてサングラスを正す動作をした。薄毛を気にする中年男性が強風時ヅラに手を伸ばすあの仕草に似ている。

「あの、どうかしました?」

 首を傾げて問うと、僅かにサングラスから覗く白い目元が薄っすらと紅を刷き、しかも妙な咳をして「何でもありません」と言った。なんでもない割には怪しいよ君。この前草木も眠る丑三つ時に電柱の影で私は一人かくれんぼをしたが、怪しさレヴェルはそれに勝るとも劣らずだ。因みにそばを通った若者グループが悲鳴を上げて逃げて行ったので私も逃げた。通報されたらまずいから。

「…あ、そういえば入り口の話なのですけれども」

「入り口?」

 首を傾げると、マフィアはえぇと頷いた。入り口と言うとあれか。私がうっかりマフィアの国における儀式と勘違いして兵士宜しく横一列に並んだアレ。――あんなの思い出さなくていいから忘れてくれ、今すぐに忘れてくれ、できれば存在も忘れてくれ。

 私の心の願いも届かず、マフィアは「もしかして」と首を傾げる。

「日本では女性をエスコート習慣というのはあまり無いのですか?」

「はてエスコード習慣。どういったエラー群の習慣ですか?」

「…いえ、エスコードではなく、エスコートです」

「あぁ、あのネイルの仕上げの」

「――それはトップコートでは」

 ごめんマジで間違えた。

「・・・無いこともないです。いや、あるといえばあるけど私は知らないというか」

「微妙な答えですね?」

 困ったように苦笑するマフィアに、まぁ確かにあるのかないのかどっちだそれはという返答だなと思う。わけの解らなさでいえばぴか一だ。そんなぴか一欲しくない。

「んーと、まぁ解りにくいでしょうけど、恋人同士ならやるひともいると思うんですけど、私いたことないからわかんないというのと。あと、それを常識としてやる人は生活水準が違うんじゃないかと思うわけです。私のような清貧を重んじる一般市民には正直縁の無い代物なんで。そんな訳で私の周囲にはいませんし、周囲で探そうと思ってもニホンオオカミを探せと言う位難しい事です」

「ニホンオオカミ。滅多に居ないのですか?」

「えぇそりゃあ」

 絶滅したもの。

 見つかったら別の意味で大ごとだ。

 私は更に時代の移り変わりから古き良き近所の付き合いと言うものが消えうせ、鍵を閉めなければ空き巣強盗殺人が蔓延り、人が転倒しても冷たい眼差しで笑うだけ、教師はチョークが当てられない、など哀しみに満ちた日本の現状を滔々と語った。そしてお茶を買ったはずなのに家に帰ってあけてみたらそれはビールで仕方なく美味しく飲んだ、コンビニのプリンはなかなかいける、など、もはや自分は今何を論じているのかも解らない熱弁を振るった。マフィアはそれを興味深げな表情で聞いていた。最後辺りはもはや何の関係も無かった。

 そしてふと、マフィアは思い出したように言った。

「それでは、先程扉で不思議そうにしておられたのは…」

「あ、そうそう。それです」

 さすがマフィア、話をうまいこと戻したと私は感心した。エスコートの話をしていた事を忘却していたので丁度良かった。私はテーブルに放置されっぱなしだったお冷を取って一口飲んだ。不味いなこれ。

「普段私の周りではわざわざ人に譲ったりしないものですから」

 いや譲る人は譲るけど、と思ったが面倒だったので付け足さなかった。ニュアンスで解れマフィア。

「では順番など別段気にして入る事は無いんですね」

「そうですね――あ、でも年配の人はどうかなぁ。男社会の風潮がしっかり残ってますからね。女だからって下に見る方もわりと沢山いらっしゃいます」

「女性を?」

 驚いたように身を引いたマフィアに、あぁそんな風潮は無い国なんだなと思った。

 男女平等でそういう思想とはかけ離れた国か、どんな国の人なのだろう。

 肩をすくめて笑うと、マフィアは不可解だという顔を浮かべた。

「女性そ虐げるなど、何と失礼な・・・怒らないんですか?女性は」

「虐げられてるとも言い難いというか、一つの文化みたいな?まぁ今はそれを毛嫌いする人も勿論居ますし。――が、まぁ国民性でしょうかね。結構長くそれが続きすぎたせいか、その姿を"男らしい"と評して好む方も居るんですよ」

「男らしいなど。考えられません。とてもジェントルマンの取る行動ではない」

 何その生き物!?

 思わず言いかけて口を噤んだ。いかん、どうしてもツッコミたくなる。

「まぁ、ほら、日本は武士社会でしたから。女性の立場は縁の下の力持ち、みたいなのが受け入れられやすいんですよ。強引な男性に惹かれる傾向にある人多いですしね」

 適当に濁してそういうと、マフィアはキョトンとした後、楽しげな笑みを浮かべた。

「貴女の傾向もそうなのですか?」

「常に穴だらけです。傾向と対策が上手く行った事がありません。赤点ぎりぎりでした」

「…いえ、テストじゃないんですけど」

 違うのか。

「では傾向と言うと、どういう・・・」

「あぁ、傾向、というより好みですね。どういった男性がタイプですか」

 ここは思い切ってニュータイ、いや何でもない。

 それよりも問題なのは、私はこのような質問があまり好きではないという事だ。

 以前、大学の友人にこの手の質問をされたことがあった。彼女らは何故か皆恋愛の話が好きで、この手の話をよくしたがった。多分純粋にオシャレや服が大好きな普通の女の子と言う世界に属している人だったからだろう。隠れホモ好きなのもいたが。

 波風立てないように地を出さず大学生活を送っている私は、恐らく大変いい人に見えているのだと思う。いつまでも一人でぶらぶらとしている私に、彼女たちは”斉藤に何とかして彼氏を作ってあげよう”という申し訳ないが心底ありがた迷惑な理念を掲げ、私に「好きなタイプは何だ」と探りを入れてきた。私はこの質問に何も考えず「優しくてリードしてくれる人が好き」と非常に模範的な答えを返し、後日そのような男性との所謂合コンをセッティングされるという痛ぁい覚えがある。

 無論、本当にそんなタイプが好きなわけではない私は、「その日祖母の法事があるからいけなくてさ。ごめんねー」などと言って断った。内心「ふざけんな誰が行くかよ」と鼻をほじっていた。

 その後もこういった事が何度と無く続き、その度に祖母の法事は持ち出され、彼女らは何故祖母の法事が一年に何十回も行われている事に不審を抱かないのかと不思議に思った。使う私も私だが、この理由少なくとも今年一年で使用回数20回は超えたはずだ。どうして突っ込んでくれないのか。これが本当だとしたら、一体私には何十人の婆さんが居たんだ。しかも気付くまで使おうと思っているからこれからも婆さんは増え続ける一方だ。どこまで大家族になればいいのか(しかも婆さんオンリーで)大変に謎であった。そして私の婆さんは二方とも元気にご健在である。失礼な孫で申し訳ない。

 とまぁ、それ以来、私はこの手の話題を避けてきたのだ。しかし今回は話題のなさを考えても逃げられそうもない。というか逃げられる気がしない。そもそもマフィアを前に小市民である私に拒否権は無い。

 私は仕方ないと諦め、ちょっと待ってくださいねと言った。

「タイプ、タイプですよね。今考えますからシンキングタイムを五分ください」

 そしてマフィアの方に右手で待てというジェスチャーをし、左手で頭を抱えて考える。犬じゃねぇと怒られそうな失礼極まりない動作だが、マフィアは違うところに驚いた。

「……あの、今考えるって…」

「え?だめですか五分」

 驚いたような声に、私は顔を上げる。

「じゃあ七分でどうですか」

「増えてるのが気になりますが、そうではなくて。あの、今考えるって…今まで考えたことは…」

 予想外だという顔のマフィア。

「考える必要がなかったので考えたことがなくて」

 私の返答に、マフィアは口を引きつらせている。失礼だぞお前。

 ふと、その顔を見て私は中学の時に書かされた文集の「理想のタイプはどういうタイプ?」という質問を思い出した。


 理想のタイプ。

 私はこう書いた。


『身長は三メートルを超し裸にスーツを着こなす猪突猛進なうなぎ』。


 それを見た親友の杉田依子は、「あのさリョー、人ですらないのが凄く気になるんけど」と言っていた。そういえばうなぎは人ではない。


「うーん、まぁほら、それに好きになった人がタイプになるっていう人を聞いたことがあります。きっと私もそうなのではありませんかね」

 再び誤魔化そうと思ってそれっぽい事をぬかしてにまりと笑みを浮かべると、マフィアはまた落ち着かなげに咳払いをした。その笑みは止めろという合図なのかもしれない。

「そっそうですよね、あ…では、失礼ですがお年を聞いても?」

 見合いかよ、と一瞬出かけた裏手突っ込みを拳を握って我慢した。危ない、さてはこの男、一枚皮を剥げば天然と言うボケにまみれた男だ。恐ろしい、何て恐ろしい体質を。

  私は二十歳ですと答えた。東洋の方は年よりお若く見えますねとマフィアが言った。そういう話は良く聞いたことがあったので頷いておいた。あんたら外人はフケて見えるよねとは言わなかった。えらい私。

「えぇと、マフィ、あなたの年齢を伺ってもいいですか」

「あ、はい勿論」

 言いかけた心の呼称をさりげなく訂正しながら、実は最初から気になっていた質問をここぞとばかりに口にした。このマフィア、肌艶はやたらといいが落ち着きようを見ると結構上かもしれない。動作や言動がやたら洗練されており、マフィアという荒くれ者集団といった雰囲気は皆無だ。二十歳の私がこうなのに、二つ三つ上とかそんな訳がない。でなきゃ私は何なんだ。落ち着きが無さ過ぎる。

 そう思い、私は二十六、七くらいかな、と予想をしてみた。大穴狙って三十代。さぁどれだ!

「今年二十四になります」

 馬鹿な!

 驚愕して思わずテーブルの下で拳を握りしめた私に、マフィアは苦笑を漏らして「見えませんか?」と聞いてきた。思い切り顔に出していたらしい。素直すぎる自分がニクイ。慌てた私は、やばい殺されると手を左右にばたつかせた。ミンチは嫌だ。

「あ、いえあの動作とか言動とかとても落ち着いてるからもっと上かと思って!」

「え…」

「けしてふけてるなんて思ってません思ってませんよ断じて微塵も!」

「あ――」

 そこで会話が途切れ、視線もお互い外れた。


「お待たせいたしました。葛餅二つでございまァす!ごゆっくりどうぞ~」


 星とハートを飛ばした饅頭が、葛餅を運んできたからである。



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