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「動きを音で知る? 何それ、どこの達人やの?」


 やっぱり背負ったるよと奏羽(かなわ)が呆れたような声を掛けるが、ホクトは目を擦りながらも首を横に振っている。

 顔を赤らめている様子を、打帆(うつほ)は生暖かく見守っていた。奏羽(かなわ)に睨まれても、にやにやとした表情を崩さない。


「【托鉢】の応用になるのかなー 【祈呪】の判定は自動なんだよね」

「それがどう繋がるのんか、全然分からんけど。お布施の量とか重さで決めとるん?」


 心底不思議そうに眉を顰める奏羽(かなわ)に、打帆(うつほ)は得意げに指を振った。


「重さじゃなくて、向きと角度ー ほら、まずは【托鉢】(いること)に気付いて貰えないと意味ないからー 鉢の縁に伸びた手だけじゃなくて、ある程度人が近づいても三鈷が鳴るように<柏打つ鈴>を仕掛けてみたー」


 奏羽(かなわ)は怪訝な様子のままだが、先を促す。


「最初は精度が悪過ぎて反応スカスカだったけどー 近くに小さく線で設定するほど、感度が良くなるって分かったー」

「……全然納得出来へんよ? 予知とかやないんよね。先が見える訳でもないのんに、さっきは小瓶を指で止めてたし」


 不審そうな目つきを改めない奏羽(かなわ)に、打帆(うつほ)は腕を組んで頷いた。


「確かにあれは出来すぎー 先読み出来たのは偶然だったし、とっさに重ね掛けするのは難しいと思うしー」


 でもコツは掴んだ気もする、とは声にならなかったが。打帆(うつほ)の嘯きは意図を違えず奏羽(かなわ)に伝わっていた。


「うっちゃん。練習するなとは言わへんけど」

「分かってるー 街の外に出るときは声掛けるからー」


 打帆(うつほ)はそれで良いだろうと小さく首を傾げる。奏羽(かなわ)は十分に念を押しつつも、その眼差しから疑わしさは抜けきらなかった。




「藤棚は満開。雨上がりで空気は澄んでる、人出も少ない。……絶好の花見日和、なんやけどなあ」


 奏羽(かなわ)は爪楊枝に突き刺したたこ焼きを、舟に戻しながら恨めしそうに首を振った。

 たっぷりと乗せられた鰹節と青海苔は風になびいているものの、そもそも滴るソースの香りがまるでない。

 その上温いを通り越して冷たく、爪楊枝を刺すと粉ものにはあり得ない、ざくりという音がする。


「うんうん、型抜き楽しいー おっちゃん、これなら文句無いよねー 次ちょうだいー?」


 放置された打帆(うつほ)は、近所の子供たちと数軒の屋台を巻き込んで笑い転げていた。備え付けの木箱に張り付いている様に、周りの大人の苦笑を浮かべている。それでも、誰も止める素振りはないようだった。


「今日は賑やかだこと。神主さんがいなくて良かったなんて、初めてね」


 木桶を下げた老婆が、奏羽(かなわ)を傍らから見上げてひっそりと顔に皺を寄せた。


「お祭りみたいなもんやし、多少うるさいくらいが丁度良いんやないかな。まあ池の外側いうても、一応境内やもんね。雷落としたなるんは分かる」


 頷く奏羽(かなわ)に、老婆は今度ははっきりと悲しそうに顔を歪めた。


「神主さんは声を荒げたりはしませんよ。ちょっと目を伏せるだけで、みんなばつが悪くなって大人しくなるもの。物静かで憂いの素敵な方ですのに…… ここ二、三日お姿が見えないのよ」


 かすかに奏羽(かなわ)は眉を顰めたが、老婆は気付いた様子も見せずに語り続ける。


「池のお亀様に変わりはないし、心配することは無いのですけれどね。ええ、すぐにでも変わらぬ姿をお見せしてくださいますとも」


 一人で頷く老婆の眼中には欠片も奏羽(かなわ)が映っておらず、奏羽(かなわ)もそのまま声を掛けそびれた。


「御坊と同じなんやろか。でも厄除け・祈祷に実際の効果無かったはずやし、木彫りの素材も聖別されたりしてへん。特殊なイベントは、なんも無かった思うけど……」


 まあええか、と考えるのを止めた奏羽(かなわ)は、細長い木片と小刀を取り出す。

 目を閉じ念じるだけで木匙を作り出すと、黙々と品の良い装飾を施し続けた。


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