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 蒸気を噴き出す銀色の機械から、ガラスの管が伸びていた。

 咳き込むような音を響かせて、ようやく一滴二滴と透明な液体が落ちる。

 その下には漏斗を口に刺した細口の瓶が置かれ、やっと指二本ほどが溜まったところだった。


「精霊式の蒸留機だ。まだ芋焼酎は作れないけどな、あと一息なのは間違いない」


 飲んでくか、とヒヨリが瓶を外そうとするのを、ホクトは慌てて止めに入る。

 何故かもみ合う二人を、ホクトの連れは全く気にした様子も無く通り過ぎたが。突き当たりまで進むと突然立ち止まった。

 管と弦と音叉が、金属板の上で絡み合う物体が置いてあった。蒸留機のように稼働する様子はなく、そもそも動くように見えない。

 パイプオルガンを引きずり出したようにも、船から帆柱を引き抜いた様にも見えるそれには、【計算機】という名札が掛かっていた。




「その、『計算するための道具』という事以外、私も詳しいことは把握出来ておりません」


 ふーんと、ヒヨリが気のない合いの手を入れて瓶を傾けた。わずかに細めた目を、小さくつく息と共にゆっくり緩めている。


「机上で検討を繰り返し、何とか形にした試作機がこれと聞いています。一応、『にびっとさんけた』を扱うことが出来るらしいですが、注目している人はほとんどいません」


 ホクトが指を伸ばして、きつく張られた弦を弾いた。そのまますぐに、両手で覆って抑える。

 弦こそ鳴り止んだものの、劇的に跳ね上がって捻れた高音が突き抜けた。咳込むヒヨリが手を滑らせ、慌てて瓶をお手玉する。


「その理由が、この『音』です。弦と音叉だけでなく、装置全体に振動が広がって鳴るのだそうです」

「なんだよ今の…… 楽器だって、そりゃ出そうと思えば酷い音を出せるけどさ。今のはそう簡単に出て良いレベルじゃないだろ」


 ヒヨリは顔をしかめたが、ホクトは顔を向けもしない。体に隠すように軽く立てられた手に、ヒヨリは舌打ちを返して瓶を呷る。


「以前は普通に、コーヒーカップが割れていたそうです。少なくとも、最近は実験室から耳を押さえて飛び出てくることは無くなりましたので、何らかの進展はあったものと推測出来ます」


 ホクトが慎ましく言い添えると、ヒヨリは黙ったまま、嫌そうに首を振った。


「担当は<妖術師>と<召喚術師>です。<スキル>によるサポートが有効だったものの、手順や条件が複雑なのだと思われます。<攻略>には無頓着な方々ですから、さほど高位のスキル構成ではないはずです」

「それ、どこまで本当なんだ? どうも話が胡散臭いっていうかさ。……ま、<吟遊詩人>が関わっていないのは納得だけどな」


 ヒヨリは振っても音がしない瓶を置くと、仕方がないと<魔法鞄>(マジックバック)を漁り始めた。


「なあ、もう見学もここで最後だろ。どうせなら一杯どうだ」


 ヒヨリは桶や火鉢、何やら怪しげな乾物を取り出しては並べていたが。

 返事も残さず飛び出した白衣からあっさり視線を切ると、小さく『森のくまさん』を歌いながらマッチを擦った。


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