表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

 灼熱の研究室で、オラトリオは汗だくになって熱弁を振るっていた。


「商品化、つまり量産には時間が掛かります。ですから画期的な発明には、季節を先取りする義務があります」


 何か言いたそうな奏羽(かなわ)を手で制すると、正しくは『再現』ですねと訂正してから重々しく頷いた。


「例えば、この『真空断熱容器』。これさえあれば、冬場に<魔法鞄>(マジックバック)が無くても、熱いコーヒーが飲めるようになります。これは受け入れられる自信があります」

「うーん、間違ってはないけど。……試すんやったら、別に冷たいものでも良いんちゃうの?」


 火鉢に乗った湯気吹く薬缶、ドリップされたコーヒーの残るフラスコ、差し出された水筒の蓋から香るホットコーヒー。

 それらを見回し呟く奏羽(かなわ)の言葉の、後半が聞こえなかったのか聞く気がないのか。オラトリオはそうでしょうと機嫌良く頷くだけだった。


「オっちゃんが苦にならんなら、別にええわ。それより頼んでたもん、出来そう?」

「……ええ、既に完成しています。会心の出来です」


 少々複雑な葛藤をにじませながらも、オラトリオは手際よく机の下から三脚を取り出して組み立てた。その上に、太さの違う筒を繋げた物を乗せて奏羽(かなわ)に向き直る。


「依頼は『性能向上』という注文(オーダー)でしたので、『ガリレオ式屈折望遠鏡』を用意しました。倍率は」

「オっちゃん。あんな?」


 奏羽(かなわ)の声音は乾いていたが、オラトリオが驚いたのは一瞬。わざとらしく息をつくと、笑みを深めて大きく頷いた。


「分かりました。足りないとおっしゃるなら、こちらを。『ニュートン式反射望遠鏡』です」

「倍率ちゃうわ! 何で『眼鏡』が『望遠鏡』になんねん!」


 先程より寸胴の筒を取り出したオラトリオに、奏羽(かなわ)は全力で裏拳を叩き込んでいた。




「いや、あんな? 本気ですごい発明やのは認めるけど。うち、ちゃんと使える『眼鏡』が欲しいって言ったよね?」

「それは正しくありません。承ったのは『遠くの物がはっきりくっきり見えるように』『多少大きなっても構わない』の二点を満たすもの、です」


 開いた帳面を押さえて、乱筆な文章を指で示す。奏羽(かなわ)の名に依頼した日付。そしてその時の会話が確かにそのまま書き記されている。


「それに第一、眼鏡の代わりなら、コンタクトレンズで良いではないですか。まあ<ミスリル>など希少な素材が必要ですから、そう簡単に作れるものではありませんが」


 詰まらそうに呟くオラトリオは、そこでようやく奏羽(かなわ)が呆けているのに気付いた。わずかに張りつめた緊張が、ぎこちない奏羽(かなわ)の呟きに断ち切られる。


「それ、使い捨て? それとも洗浄液とか、あるのん?」

「私は自称とはいえ<錬金術師>ですよ? <水溶液>のレシピはあらかた押さえてます」

「<水溶液>って……」


 無言で目頭を押さえた奏羽(かなわ)を前に、オラトリオは不思議そうに首を傾げていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ