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 幌を透かす日差しは強く、覗く空は爽やかに晴れ渡っていた。

 暢気に揺れる荷台には、木枠が積み上げられている。隙間から覗くのは、レタスやトマトといった季節の野菜。幾つか置かれた籠には、イチゴやサクランボウといった果実が盛られている。


 奏羽(かなわ)は御者台に座って手綱を取っていた。唐突に口を押さえるが、くしゃみは途中で止められない。

 背筋を震わせながら鼻をぐずりと鳴らして、懐から取り出した布で押さえた。


「なあ、ヒヨリ。なんでうちは、こんな五月晴れの空の下で凍えそうになってるん?」

「お前が言い出したことだろう。ほら、飲んでも良いけど寝るなよ。落ちても構わないけど、地面は痛いぞ?」


 隣に座るヒヨリが、掠れた声で言い切った。呷った瓶を突きつけて、空いた膝上に竪琴を抱え直す。


「ヒヨリは自分に正直というか、欲望に忠実というか。なあ、そんなに<クレセントムーン>のハンバーガー、美味しかったん?」

「感動した。間違いなく天啓だと思った。酒は造れる。勿論、こんなエタノール以外の『本物』をな」


 幾分熱の籠もった口振りで、ヒヨリが瓶を奪い返した。奏羽(かなわ)は口を付ける前に空になった手を、二度三度握ってため息をつく。


「俺は何としてでも<三日月同盟>との伝を作る。苦手な日差しだって耐える、固い御者台も気にしない、喉が潰れたって歌い続ける」

「幌の中冷やしてるの、うちやんか。いっくら<呪歌>でMP回復したって、頭に疲れは溜まるんよ?」

「こっちはとっくに喉が変だ。大体『思う存分<召喚>する仕事』なんて、無茶な条件付けたのはお前で、探してきたのは俺だぞ」


 あっという間に白熱し掛けるが、矛先は合わせる前に収まって、熱意も急速に冷める。

 二人が押し黙ると、規則正しい馬の足音と荷台の軋みしか聞こえない。


「……うー、あとどれくらい掛かるん?」

「三時間ってとこだな。その、少なくとも鮮度の違いが分かるくらいの効果は出てる。だから、その…… 頼む」


 視線を逸らしたヒヨリの顔は見えない。

 奏羽は軽く息をつきながら幌の中を覗くと、杖を突いて呪文の詠唱を始めた。




 荷台の中央には、小さいけれども立派な雪だるまが置いてあった。

 縦に並んだ雪玉は、それぞれ握り拳ほど。笠を被った上の段は、顔の形に丸や四角の木炭のようなものが埋まっている。下の段は蓑を被り、先が二股の枝が左右に刺さっていた。

 その周りを、枯れ葉が噴き上がっては、ゆらりと揺れながら舞い落ちていた。木枠に当たってもすり抜ける葉は、赤や黄色に色付いていて鮮やかだった。


「随分手際が良くなってきたじゃないか。でもさ、二つ組み合わせるって面倒だろ」

「仕方ないやん。<雪ん子>増やすだけやとカチコチに凍るし、<風切鬼>やと幌が保たんし」


 ヒヨリは慌てて、ケチを付ける訳じゃないと手を振る。


「凍らないように出来ないのか、自動調節。ほら炬燵とかさ、それこそ冷蔵庫みたいに」

「<召喚>は呼び出して終わりやから。途中で色々変えるんは無理……」


 少し考える素振りを見せたが、すぐに奏羽(かなわ)は首を振る。


「やっぱり無理や。精霊なんて、出て来る子は毎回同じやし」


 呼び出す奴ら、個性ってもんがないんよ、と杖で肩を叩きながら眉を寄せる。


「【四大精霊】クラスとかなら、反応違うかも分からんけど。まず間違いなく本末転倒ってやつやね」

「だな。コストもスケールも、どう考えても馬車一台に釣り合わないだろ」


 したり顔のヒヨリに頷き返しながら、奏羽(かなわ)は悔しそうに呟く。


「後は…… ないやろな。あっても大規模戦闘(レイド)クラスやろうしなぁ、全然縁ないやろうし」


 ヒヨリが竪琴を撫でると、紡がれる音が徐々に穏やかな調べを編み上げた。

 奏羽(かなわ)が不意に二つ続けて大きなくしゃみをしてから、少し驚き、そして直後に肩を落とした。


「出来るんやったら、最初っからやって欲しかったで? <冷気緩和>の永続歌とか」


 忘れてたと悪びれなくこぼすヒヨリは、けれども少しだけ、顔を赤らめていた。


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