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 相変わらず表情がないが、師範代に何ら思うところはないらしい。手を離さない打帆(うつほ)を邪険にせず、連れ立ってカウンターに向かっていった。


「うっちゃん、修行は順調なんやろか。結局、自分からは一回も手ぇ出さへんかったけど」

「やはり勝負を避けましたか。良くも悪くも、これで落ち着いてしまうのですね」


 少なからず落ち込む様子のヘンリエッタを、奏羽(かなわ)は気楽な物言いを止めて窺った。


「あのおっさん、<無刀>まで(素手で剣技)使っとったよね。別に隠しといても切り札にならんけど、だからって冗談半分で出てくる手ではないんと違う?」


 奏羽(かなわ)の問いに、ヘンリエッタは気まずそうに目を伏せた。


「つい余計なことをこぼしてしまいました、気になさらないでください。

 その、先ほどの戦闘自体は、真剣で高度なやり取りだったと思いますわ。基本技の練度、攻め手の切り替え、スキルの使用タイミング。どれも見事と言う他ありません」


 歯切れの悪いヘンリエッタを横目に、ヒヨリはどうでも良さそうに言い放った。


「はっきり言えよ。師範代は一流だけど、戦力としては粗末だって思ったんだろ? 軽装で刀なし。格下に負けても言い訳は立つ、格上相手なら尚更だ」


 まあ勝っても負けても師範代は何も言わないだろうけどなと、ヒヨリは思い付いた様に付け足す。


「つまり…… どういうこと?」

「<RADIOマーケット>が『格付け』を避けたってだけだよ。<黒剣騎士団>(大手)だけじゃない。少なくとも同格とは張り合うのを止めたんだろ」


 ヒヨリは興味を無くした様子でグラスを呷るが、奏羽(かなわ)は納得しなかった。


「力こぶで目立って、何か良い事あるん? 言うこと聞かせよ思ても、誰も納得せえへんやん?」

「……その通りですわ。仮に大手ギルドに対抗できる勢力になっても、結局は街を割るだけだった気がします。私たち連合には信念、いえ執着が足りなかった……」


 少なくとも邪念は多すぎましたと、二つの視線に気付いたヘンリエッタが冗談めかして寂しそうに笑った。




「俺は酒飲みながら生演奏が聞きたい、他の奴らは安全地帯で演奏スキルを試したい。たまたまだけど利害が一致したってとこ」

「元がライブハウスですし、ガス抜きするにも良い環境ですわ。人と一緒に噂も集まりますから、情報収集も出来ますしね」


 ヘンリエッタがカクテルグラスを綺麗に空けると、ヒヨリがお代わりを作る。

 盛り塩の上でグラスを回して、縁に雪を降らせる。透明なアルコールを果汁と水で割り、氷を潜らせて冷やす。


「これで塩味しか付かない意味が分からないんだけどな。まあ、俺の方はそんな感じ」


 そっちはどうだと問われた奏羽(かなわ)は、分けてもらったカクテルを口にして顔をしかめる。


「今はな、うっちゃんが修行中で危なっかしいから、外に出るの控えてるんよ。一人で<召喚>しながら|敵愾心≪ヘイト≫管理なんて出来へんし、それやったら何か便利な使い道でも探そう思て」


 奏羽(かなわ)は乾いた笑みを浮かべて肩を竦めた。


「少なくとも家事には向かんかった。勢いの加減が難しいし、あんまり便利やないねん。

 <水乙女>は井戸いらんなっても、洗濯する必要ないやろ?

 <火蜥蜴>は火力強すぎて、七輪ごと黒焦げやった。煮炊きは松明で十分。

 あとは掃除? 埃をかき混ぜるだけやったなあ」


 指折り数えていた奏羽(かなわ)が、ようやく顔を上げた。


「あー、あとはな、氷は作れたけど。まだ暑ないし、そんなに量は食べへんやん?」

「そうだな。俺のところも、今は間に合ってるな」


 ヒヨリのすげない返事に何度も頷いておきながら、奏羽(かなわ)は唐突に机に突っ伏してしまった。起きあがる様子はないが、かすかに唸るような声がこぼれている。


「あんまり気にするな。今日はまだ、ましな方だ」


 ヒヨリが気にせず、テーブルを片付け始める。結局声を掛けそびれたヘンリエッタも、そっと目を逸らしてヒヨリを手伝った。


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