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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

"Vol de nuit"

掲載日:2026/04/10

「先生」



「夜風が、気持ち良いですね」


少年は屋上の端に腰掛けて、両足を風に揺らしながら私に顔を向ける

その眼は、私が固く巻いた布で覆われて居るし

彼の両手首もまた、布で拘束されて胸の前に固定されて居た


即ち、彼の表情は、隠れて居ない口元からしか類推する事が出来ない

そしてその口元は歯を剥き出し、淫靡な嗤いを浮かべて居た



「今宵は」


「何をして下さるのですか?」


吊り上がった口の端から細い舌が覗いたかと思うと、それは自らの唇を嘗めながら静かに滑っていく

湿気を含んだ夜の風の中で、濡れた唇が幽かに煌めいて居た



「『その眼が視えなくても、視えるもの』を…………」


「今から、君に視せてあげよう」


少年が期待に、両の指を少しだけ強く握る

口から昂揚した湯気のような吐息が、ゆっくりと(こぼ)れていく


零れたのは吐息だけでは無かった

口を唾液に光らせて、少年は声も無く嗤って居た



「本当ですか?」


「…………………………嬉しい」


時々、気になる時が有る

この少年は、本当に眼隠しをされて居るのだろうか


枷を付けて居なければ、この少年は今にも身を乗り出して私の手を握りそうな、そんな雰囲気が在る



「本当だよ」


少年の耳元に唇を寄せて、私は囁く



「向こうを」


「───向いてご覧」


彼の頬に、両手で触れる

顔を屋上の外側、無限に拡がって居るようにすら視える星空と、そこから来たるかの様な風へと向ける


猫でも抱くように躰を後ろから抱きかかえると、少年は「わっ」と、屈託の無い声でそれを受け入れる


私は少年を、眼の前の奈落へと投げ捨てた




腰から下げていた瓶が、からん、と鳴る


視れば

瓶の中には、魂だけの姿となった少年が、微笑みながら囚われとなって居た











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