表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/36

空も陸も地下も

第二次ノヴァ奪還戦の作戦は、このときすでに大綱において定まっていたといわれる。戦とは往々にして、勝敗の半ばを会議の席で決するものだが、このときの公国軍首脳もまた、その例外ではなかった。


続く戦役は、短期決戦の様相を帯びながらも、実際には消耗戦の泥濘へと足を踏み入れつつあった。ゆえに彼らは知っていたに違いない。時間は敵である、と。


リマンヶ原の野営本部。油灯の淡い光の下、地図が広げられ、駒が置かれている。その一角に、小糸の姿があった。28師団参謀として列席する彼は、静かに全体を観察していた。


「攻撃は、早い方がいいよね。」


そう口火を切ったのは、総司令官コロイス大将であった。


「敵は勝利に酔っている。士気は高いが、防備はまだ固まりきっていないよ。今叩くべきだ」


この判断は、戦史的に見ても妥当であった。防御とは、時間を食って完成する工芸品のようなものである。塹壕の連結、火点の配置、補給線の整備いずれも一朝一夕には成らぬ。敵がそれを整えぬうちに攻める。これは古来不変の原則であった。


ロト中将は腕を組み、黙していたが、やがて低く言った。


「前回は、押し切れたはずだった」


その声音には、悔恨と怒気が混じっていたに違いない。


「だが、あの“猿ども”の魔法と、地下の伏兵に絡め取られた」


参謀の一人が口を挟む。


「[参諦]……厄介な代物ですな。降伏を許さぬ精神干渉。兵が死ぬまで戦うとなれば、通常の損耗計算は通用しません」


ここで読者諸氏に説明しておく必要があるだろう。この時代の戦争において、兵の「退く」という行為は、戦術の一部であった。退却は敗北ではなく、再編成のための機動である。だが参諦は、それを奪う。すなわち戦術の柔軟性を奪い、戦場をただの殺戮空間へと変質させるのである。


コロイスは頷いた。


「だからこそ、今回は違うようにするよ。二度同じ轍は踏まない」


机上の地図に、参謀が新たな線を引く。


「まず、砲撃。これは従来通りだが、密度を上げる。加えて雷空機による上空からの爆撃」


「空から削る、か」


リック准将が嗤った。「野犬」と呼ばれるこの男の笑みは、常に血の匂いを帯びている。


「いいじゃねえか。上から叩き、下から踏み潰す。逃げ場なんざ、どこにもねえ」


その口調は粗暴であったが、本質を突いていた。戦術とは、敵に選択肢を与えぬことである。


さらに参謀が続ける。


「その後、陸戦型魔導車両試作機を先頭に突撃。歩兵はこれに随伴し、火点を制圧。敵が混乱したところで、全面攻撃に移行します」


いわば、火力と機動の融合である。停滞を打破する試みである。


小糸は、そこで静かに口を開いた。


「……加えて、敵の“地下”を封じるべきです」


場の視線が集まる。


「前回の敗因の一つは、地下からの兵力投入でした。ならば、先んじてそれを潰す必要があります」


「どうするの?つづけて」


コロイスが問う。


「砲撃の一部を、地表ではなく、推定地下施設に集中させます。地盤を崩し、通路を埋める。あるいは煙幕と毒性ガスを併用し、地下の活動を制限する」


参謀たちがざわめいた。これは、この時代としてはやや異質な発想であったといえる。だが戦争とは、既存の形式を疑う者が勝つ。


ロト中将が、低く笑った。


「いい。実にいい。敵の牙を、根元から折るわけだな」


小糸は答えなかった。ただ地図を見つめていた。その眼差しは、戦場の未来を見通しているかのようであった。


かくして作戦は定まる。


砲撃と雷空機による削り。

陸戦型魔導車両を軸とした突破。

そして全面攻撃。


加えて、地下戦力の封殺。


速度こそ命。それは攻める側の心理であると同時に、守る側もまた理解している真理であった。ゆえにこの戦いは、単なる力比べではない。時間との競争、意志の衝突であった。


国家というものは、戦争においてその本質を露わにする。迅速を尊ぶ公国と、執念を強いる民国。その衝突は、やがて必然として、さらなる流血を呼ぶに違いない。


そしてこのとき、誰もが理解していた。


次の戦いは前回以上に苛烈となる、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ