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人が死んだ時の悲しみ方  作者: お茶の間の便箋


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2/2

入寮

 王立メデュシアン学園。これから僕が通うことになる学園の名前だ。

 僕が暮らしているリザース王国の王城と対になるように建てられたこの学園は、建国当初からある学園で、今も優秀な騎士、魔術師、大臣を輩出している。その影響か、学園には王侯貴族や豪商などが集まり、一般の民には無縁の学園だった。

 そんなところに僕は、どのような伝手を頼ったのか知らないが、育ての親のパサラさんから、明日から通うようにと言われた。

 パサラさんが思い立ったように話すことには慣れており、特に驚くようなことではない。普段パサラさんから受けている最低限の教育の延長線上のものだろうと、僕は考え二つ返事で了承すると、荷物をまとめて学園に向かうことにした。

「気を付けるのよ」

 僕が外に出ると、パサラさんも出てきて、僕の後ろからそんな声をかけてくる。僕は「わかった」とだけ振り返りながら答えて、学園に向かうのだった。


 ◆


 私は十五歳になったデューノという男の子を、学園に送り出した。

 思えばデューノと出会って、育てるようになってから十年以上たったのだろうか? まだ名残惜しいことや、伝えられていないことへの後悔、人として生きるのに大切なものを足得られていないことへの後悔があり、まだ送り出したくなかった。しかしこのままでは、デューノは私という暗い人生を歩んできた人間としか、まともに関わり持たないこととなってしまう。デューノには私のような人間になって欲しくない、そんな気持ちや、もっとたくさんの人と出会って、世界は広くて広大で、そして楽しいものだと気づいてほしかったのだ。

 それは私では決して叶えさせてあげられないことで、それができるのはこれから出会う人たちなのだろう。そう私は考える。

 私はデューノの後ろ姿が見えなくなるまで、無事と、これからの自分だけの人生を謳歌してほしいと願う。

「元気でね……」

 気づけば、私の頬には涙が流れていた。


 ◆


 学園に着くと、パサラさんから受け取った学生証を見張りの門番に見せて、中に入れさせてもらった。

 どうやら明日が入学式というものを執り行うらしく、今日は寮で休んでおけとのことだった。

 僕は門番の人に寮の位置の聞き、そのまま真っすぐ寮に向かい、寮の中に入った。

 中に入ると、前に行ったことのある宿泊場のロビーのような場所で、寮母さんかと思われる人が掃除しており、かなり綺麗にだった。さらにパサラの家では考えられないほど、豪華な装飾が施されていて、お金持ちが住む家はこのようなのだろうといった感想を覚える。しかしなぜだろう。ここに来てから人の気配をあまり感じられない。学園の寮なのだから、もっと人がいると思ったが、そんなことはないのかもしれない。

 そんなことを考えていると、寮母さんかと思われる人が僕に気づき、話しかけてきた。

「もしかして新入生? こんなところに来るなんて珍しいね」

「珍しい?」

「もしかして知らないのかい? ここに来る学生さんたちはお貴族様やお金持ちの子どもたちが多いからね。王都に家を持っていることが多くて、そこから通ってくるものなんだよ。だから寮なんて使うのはごくごく一部なんだよ」

「そうだったのですね」

「そういえば自己紹介を忘れていたね。私はここの寮母をしているアミっていうよ。この寮で困ったことがあったら私に頼りな。学園にいる教師たちよりも頼りになるよ」

「ありがとうございます。僕はデューノといいます」

「デューノ君ね。今どの部屋か確認してくるからもう少し待ってな」

 そう言うと寮母のアミさんは、奥にある『寮母室』と看板に書かれた部屋に入っていった。

 アミさんを待っている間、僕はもう少し寮の中を探索しようと思い、寮母室の周辺を探索する。

 パサラさんからの教えで、初めての場所、警戒が必要な場所ではまず逃げ道を見つけろと言われている。だからこそ、僕は逃げ道を探したのだが、

「……ここは逃げ道が少ない」

 僕は貴族やお金持ちが住むのだから、逃げ道がしっかりと用意されているのだいると考えていたが、ここにはそのようなものがなく、それがカモフラージュされたようにも見えなかった。

 もしかしたら、奥に隠し通路らしきものがあるのかもしれない。そう思い、廊下の角から顔を出し、奥を覗こうとした。

「おい、一体何をしている?」

 突然、後ろから女性の声がして、僕は反射的に距離を取る。

 そして、視界に声をかけてきた人物をとらえる。透き通るような白銀の髪と男性のような高身長が特徴的で、僕に向けてくる視線は、獅子が獲物を捕らえる時のような迫力を感じさせる。特に武器となるものは持っていないようだが、僕は一瞬で目の前の女性が危険だと判断し、すぐさま迎撃、または逃走の姿勢を取る。そうするよう本能が呼び掛けてきたからだ。

「その姿勢……。敵とみなしていいのだろう?」

「……ッ!」

 僕は目の前の女性の圧がさらに増したかのように感じ取った。アミさんには申し訳ないが、ここは逃げなければ……。

 そう考えていた時、寮母室の扉が開き、中からアミさんが出てきた。

 そして退治している僕たちを、荒げた声で制止する。

「あんたたち何しているの! ここでの戦闘はご法度だよ!」

 アミさんの声を聞いて目の前の女性から圧力が消えていった。それでも僕への警戒は解かず、僕が何かしようならば、狩るといった考えが伝わってくる。

 なので僕が下手に身動き取れずにいると、アミさんが女性に近づいて話しだした。

「ソフィーナ。あなたがそんなことするなんて珍しいんじゃないの? 何があった?」

「そこの男が女子部屋のあるフロアを覗こうとしていたので、声をかけました。すると、私を見て戦う姿勢を見せてきたので、こちらも迎撃の体勢を取りました」

「そうかい。そりゃあ私も悪いところがあるね。彼、デューノ君は今日から寮に入るみたいでね、寮についての説明はまだだったんだよ。だから女子フロアを覗こうとしたのも、何も知らなかったから探索でもしようとした結果なんだろうね」

「そこのデューノという者、そうなのか?」

「そうです」

 僕は端的に答える。いまだ、ソフィーナと呼ばれた女性は僕のことを怪しんでいたが、アミさんの言葉を信じたのか、僕に頭を下げてきた。

「申し訳なかった。こちらの不手際で不快な気持ちにさせてしまっただろう」

「いえ……。気にしていないので大丈夫です」

「とりあえず! 二人とも誤解が解けたみたいだし、デューノ君には部屋の鍵と寮での過ごし方がかかれたこの冊子をあげるわ。注意点として門限があることと、建物は同じだけど、女子フロアと男子フロアが分かれているから注意してね」

「ありがとうございます」

 僕はアミさんから鍵と冊子を受け取り、部屋へと戻ろうとする。

 すると、再びソフィーナから声がかかった。

「今日は本当にすまなかった。また、学校でな」

 そう言ってソフィーナは女子フロアの方に行った。

 僕は、ソフィーナの後ろ姿を見て、なんでそんなに悪いことをしたみたいな顔をしたのだろうと、不思議に思うのだった。

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