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1話 感覚消失落とし穴

 仕事を終えて、家路につく。新卒で入社して早4ヶ月、中々に仕事は辛い。ただ、家が近づいてくると、少しだけ浮き足立つ。──今日は何が待ち受けているのだろうか、と思うと、少し憂鬱な気にもなるし、逆にわくわくもしてくる。


 歩き慣れた道を歩いて、玄関へ。かばんから鍵を取り出して、回す。──本当なら一緒に住んでいる子がいるので、自分で開ける必要はないのだけれど、“彼女”が喜ぶので、こうやって開けている。


「ただいまー」


 ドアノブをひねって、戸を開く。廊下は暗い。窓はあるのだけれど、何かで塞がれているようだ。


「……りんちゃーん……?」


 同居人──従姉妹の名前を呼んでみる。返事は帰ってこない。そのままリビングに向かって歩こうとした瞬間、ぶーん、という音が足もとから聞こえてくる。何か踏んだと思ったのもつかの間。重力を感じて、私の身体は落ちていく。


「あっ──!」


 がくん、と揺れる。落とし穴だ、と思ったときにはもう遅い、私の身体の胸から下は、落ちきってしまっていた。──胸がつかえになったのか、そこから上は床の上に出ている。見てみると、金属製のリングが周りを囲んでいて、それと私の身体の間は真っ暗だ。


 こんなことをするのは彼女しかいない──というか、この家に住んでいるのは私と彼女だけだ──ので、(恐らく)犯人の名前を呼ぶ。


「ちょっと、りんちゃーん!?」


「ふ、ふははは! ひっかかたな、叶葉(かなは)!」


 廊下の電気がついて、一気に明るくなる。とんとん、という足音とともに、一人の少女がドアを開けて、ゆっくりと廊下に出てくる。丈の大きい白衣を着た、ウェーブのかかった長い金髪の彼女──鯨谷(くじらたに)りん。私の従姉妹で、天才だ。そしてぶっ飛んだ発明を次々に、繰り出してくる。


「どう叶葉(かなは)、楽しかったかな?」


「いや、落とし穴が楽しいわけないじゃん……っていうか、こんな穴掘って大丈夫なの?ここ賃貸なんだけど……」


「ふっふっふ……おいおい叶葉(かなは)、忘れたのかな? ボク様はドクターリン! 本当に穴を掘っただけ、とでも思うかね? その穴は……ワームホールさ!」


「ワームホール……?」


「まあ、見た方が早いかなぁ……よし、少し待っていろ」


「え、私このまま?」


 落とし穴に放置されたまま、彼女はさっき出てきた部屋──彼女の自室だ──に入っていった。相変わらず、彼女の言うことはよく分からない。



 私よりも6才年下の彼女は、初めて会った幼い頃は引っ込み思案だった。従姉妹ながら、心を開いてくれるまでは結構時間がかかった。ただその分、一回仲良くなると、まるで姉妹のように仲良くなった。


叶葉(かなは)おねーちゃん、見て……どう、可愛い?」


 お姉ちゃんお姉ちゃん、と言ってひっついてきたのをよく覚えている。私も気分が良くなって──一人っ子で、妹が欲しかったのもあるけれど──彼女を構った。家も近かったので、ほとんど彼女といた気がする。


 昔から彼女は、とても聡明だった。学校の授業なんかはもう完璧で、彼女が小学生のころ、中学生の私が逆に勉強を教えて貰った時期もある。難しい本を読むのが好きだった。


「すごいねりんちゃん! はかせだね!」


「……はかせ……ふふ、ありがと、叶葉(かなは)おねえちゃん」


 淑やかな彼女と過ごすのは、とても楽しかった。けれどもあるとき……確か彼女が、中学校に上がった時だったか。私は、親の転勤で引っ越すことになった。私は泣いたし、彼女も泣いた。


「いつでも会えるからね、りんちゃん……!」


「うん……またね、叶葉(かなは)おねえちゃん……」


 それからしばらくは、彼女との別れを引きずっていた。運悪く、彼女とは会えない時間が続いた。そして、大学にあがり、就職が決まった頃。家を探していた折、母が言った。


「そうだ。りんちゃんのこと、覚えてる?」


「勿論。でも、なんで急に?」


「あのね、お姉ちゃん……りんちゃんのお母さんとお父さんがね、長期間海外に行くんだって。それでね、ちょうどりんちゃんの通ってる高校と、叶葉(かなは)の職場が近いのよ」


「……あー、じゃあもしかして」


「そのぉ、りんちゃんと一緒に住んであげられない?」


 即答だったと思う。母の驚いた顔をよく覚えている。疎遠になって、忘れていた……なんてことはなく私はずっと、りんちゃんと会いたいとばかり思っていた。実際に、手紙もこまめに──月に3回くらい──送っていた。けれども、彼女からの返信は無かった。


 兎も角そうして、彼女との同居がきまり。荷物を運び終えて、諸々の手続きをして。落ち着いた頃、私の家に彼女はやってきた。約束の時間にチャイムが鳴るので、私は玄関に駆けつけ、戸を開けた。そこには──白いワンピースを着た、儚げな金髪の少女。


「久しぶり、りんちゃ──」


「久しぶり、お姉ちゃん」


「え!? あの頃のまま!?」


 久しぶりに会うりんちゃんは、さよならをしたあの日から何も変わっていなかった。あまりに驚いて言葉が出ない私に、彼女は話す。


「ねえ、叶葉(かなは)おねえちゃん……久しぶりにだっこ、……してほしい、な」


「う、うん……!」


 どう考えてもおかしい。彼女を良く見てみると、なぜか青みがかっているし、透けて見える。けれども私は、記憶の中にある彼女そのままの甘え方に思考を手放し、昔やっていたように抱き寄せた。


「りんちゃ……ん? うぇ、透けてる!?」


 彼女は透けていた。私の手は確かに彼女の身体に当たっているはずなのにすり抜ける。まるで、フィクションに出てくるホログラムのようだった。


「ふ、ふははは! 実験は成功だ! そのボク様は映像だ。はは、久しぶりだな叶葉(かなは)!」


 こつん、こつんと足音を鳴らして、その少女は現れた。大きな白衣を着た、金色のウェーブのロング。真っ白な肌に、青色の瞳。そして、鈴の鳴るような透き通る声。


「……え、その声、その姿……りんちゃん、なの?」


「そうさ。ボク様が、鯨谷りん。……叶葉(かなは)お姉ちゃんの、妹だよ」


 ──数年ぶりに出会った従姉妹は、いつのまにかマッドサイエンティストになってしまっていた。

 以来私は、彼女の変てこな発明品に翻弄される日々を送っている。




 とたとた、と足音が近づく。床にめり込んだ私に、りんちゃんが再び近づいてくる。妙なことに、彼女は金色の、ちょうど私の腰回りくらいのサイズのリングを手に持っていた。……今私がはまっているものと、ほとんど同じだ。違うのは、こっちは銀色で、向こうは金色と言うことくらい。


「ふっふっふ……さぁ、見たまえ叶葉(かなは)、ボク様の偉大な発明を!」


「ええっと、その輪っかが発明品なのかな?」


「そう! 何の変哲もない、ただのリング。けれども、ここのボタンを押すと……スイッチオン!」


 彼女はリングを回して、どこかを押した。すると、鈍いモーターの駆動音が聞こえてきたと同時に、輪っかの穴が黒く染まっていく。そして──次の瞬間、足が現れた。タイツをはいた足から、徐々にそれは姿を現していく。そうして、スーツを着た女性の、腰から下辺りが出てきたところで止まった。……妙に見覚えがある。


「えっとぉそれぇ、もしかして……?」


「ふ、察しが良いなぁ叶葉(かなは)は。そう、君の考えていることは恐らく正解だ。よし叶葉(かなは)、右足を動かしてみろ」


「えっと、こう……? うわ、そっちも動いた!」


 床下に埋まっているのかどうかよく分からない足を動かしてみると、なぜか、リングから出てきた下半身の右足も動いた。しかも、私がしようとした動きとほとんど同じ動作を、全く同じタイミングで。


「え、ええ、これってさぁ、その……え、それ私の?」


「正解だよ、叶葉(かなは)。……ふふ、相変わらずお姉ちゃんは頭が良いね、私の次くらいに……♡」


 あ、偶に見せる昔のりんちゃんだ──と、思っている場合ではない。いや、勿論普段の、ザ・科学者って感じで自信満々なのも可愛いんだけど──と、思っている場合でもない。りんちゃんの言うことが確かなら、このリングとあのリングは繋がっていて、私の身体の半分は、なぜかあっちにある。


「え、ええ……ちょっ、なにこれぇ!?」


「はは、どうだ叶葉(かなは)、面白いだろう? 転移リングだ、ある漫画から着想を得てな」


「いや、凄いよ、凄すぎるけれど……なんかこう、すっごい変な感じだよ。自分の身体を、遠くで見てるのって……うわ、本当に動くじゃん」


 また、足を動かしたり、腰をひねったりしてみる。すると、リングから飛び出る下半身もその通りに動く。──いや、これ相当とんでもないことやってるんじゃないかな。あまりに発明品が凄くて、気づくと私は──いつも彼女の悪戯にはこうなってしまうけれど──誇らしい気持ちでいっぱいだった。


「うん、やっぱりすごいねりんちゃん。流石、私の自慢の妹!」


「ふっ!? は、はは、そうだろう、叶葉(かなは)! よくわかっているじゃないか!……い、いもうと……えへへ……」


 驚いた表情の後に、腰に手を当てて高笑いするりんちゃん。けれどもなぜか、少し後ろを向いて、小さな声でごにょごにょと呟いていた。リングの駆動音で聞こえなかったけれど、相変わらず、研究関連の独り言かな。


 こちらを向き直った彼女は──少し頬が赤らんでいる、実験の成功で興奮したのかな、可愛い──何か企むように、悪い笑みを見せた。


「ふ、だが叶葉(かなは)、ボク様の発明は、この程度ではないのだ! ……ここのボタンを、押すと……どうだ、叶葉(かなは)。感じる──いや、“感じない”だろう?」


「えっと、何言って……って、え? 動かせない?」


 彼女がボタンを押す。するとまるで、先ほどまで感覚のあった下半身が“無くなった”かのように、動かしもできないし、あるのかどうかさえ分からない、そんな感覚に陥った。


「ほら、こしょこしょ……叶葉(かなは)はくすぐりに弱いからな。こしょこしょ……と、どうだ?」


「う、うーん……ごめんね、何も感じないや」


「そう、感じない。……くく、これがボク様の、今回の発明品。題して、携帯式転移感覚消失リングユニット、“ダブルナクナリング”!」


「だぶる、なくなりんぐ……って、どういう意味?」


 自信満々に彼女は発明品の名を告げる。けれどもあんまり意味が分からないので、聞き直すと彼女は口角を上げて話し始めた。


「このリングは、機能が2つある。一つは、リングを通過した物体を、もう一方のリングから出現させる、“転移機能”。つまり、その場から“ナクナル”訳だ」


「う、うん……わ、分かった」


叶葉(かなは)は賢いな。そして次、“感覚消失”。このリングで転移している物体は、厳密には分離しているのだが、リングを通した情報と物質の伝達で繋がっている。それが無ければ、生物であれば恒常性は喪われるし、無機物であれば分離し、その場に落ちる……分子単位での量子テレポートを利用して……」


「え、あ、難しい……」


 りんちゃんは、ぺらぺらと専門用語を話し始めた。こうなったりんちゃんは、大体止まらない。けれど、彼女がこうやって、好きなことを楽しそうに話しているのを見るのは好きだ。思えば小さい頃から、彼女は好きな本とか、図鑑とか、そういう話を楽しそうに、何時間も私に教えてくれたっけ。それを私はいつも、にこにこきいていた。彼女の両親に、「娘につきあってくれてありがとう」と感謝されたのを覚えている。


「と、そういう原理なわけだ。分かったか叶葉(かなは)?」


「うーん……一応、穴を通るものはテレポートしてるってことだよね? でも、それ以上は分かんないかなぁ、ごめんね。……やっぱりりんちゃんは、物知りだね」


「……まあ、そこまで分かれば上出来だ。で、そういう原理で動いているから、その伝達から感覚を失わせることでリングを隔てたものに“情報”が伝わらなくなる。動かすという命令は届かず、触覚の信号は伝わらない。いわば、感覚が“ナクナル”。つまりは──」


 ポーズを取り、かっこつけながら話すりんちゃん。可愛い。


「あ、2つの“ナクナル”で、“ダブルナクナリング”なんだね!?」


「そう! 流石は叶葉(かなは)だ、ボク様の思考に追いつけるのは、やっぱり叶葉(かなは)だけだよ」


「えへへ、それほどでも」


 満面の笑みで、彼女に褒められる。実際彼女の方が年下なのだけれど、りんちゃんに褒められるととても嬉しい。彼女に褒められたくて勉強しまくった結果、結構良い大学に入って、良い企業には入れてもいる。……彼女からしたら、寝ていても入れる学校に、その気になれば買収できる会社だろうけれど。


「じゃあ、りんちゃん。そろそろ、出して貰えるかな? この体勢、胸が潰れてちょっときつくてさ……」


「ん? そろそろ?」


「うん。ほら、発明品のお披露目ももう終わったでしょ?」


 彼女の説明が終わったので、いつもの“発明品悪戯タイム”も終わりだろう、と思って声を掛けてみると、りんちゃんはぽかんとして私を見つめた。あれ、何か変なこと言ったかな、と喉まで出かかったとき、彼女はくすりと笑って続ける。


「いやいや、まだだぞ?」


「え、まだって……?」


「折角、叶葉(かなは)の“動かせもせず感覚も無い下半身”を手に入れたんだ……ふ、ふははっ!」

「ま、まさか……き、今日の悪戯って」


 動かせない私の下半身。発明品を見せて驚かせるのではなく、悪戯するのが目的だったのか。ああ、何をされてしまうんだろう、もうこの状況だと反撃なんてできもしない。……いや、まありんちゃんに好き勝手にされるのもそれはそれで、イイな……って、何考えてるんだ私。りんちゃんは妹だぞ。


 りんちゃんは、私の足を掴んで、動かし始める。触られているのに感覚が無い。けれどもどこか、むずがゆい。確か、幻肢痛というのだったか、そんな感じだ。本当なら感じる、足に触られてくすぐったいという事実を、勝手に頭が補完している。


「ちょっ、りんちゃん……な、なにを……?」


「これで、完成だ……くくっ」


「……ほ、本当に何をするのかな、りんちゃん……?」


「なにって、きまっているだろう?」


 りんちゃんは私の足を動かして、膝を曲げて、地面に置き──正座の形にした。そして、りんちゃんはその正座させた私の足を──枕にして、寝転がった。


「これで叶葉(かなは)の膝枕、堪能し放題だー! ふふ、ボク様ってば天才!」


「えーと、え、膝枕? 膝枕したいから、開発したの?」


「え、うん」


 気持ちよさそうに、彼女は私の脚を枕にして、寝転ぶ。……床、硬くないかな?


「……懐かしい……お姉ちゃんの、膝枕」


「あのさ、りんちゃん」


「なんだ、叶葉(かなは)……もう少し、使わせて──」


「言ってくれたら別にいつでもしてあげるよ、膝枕くらい」


「……え──?」


 その言葉に、彼女は顔をこちらに向け──目を見開いて、口を大きく開いて、驚愕した。何かの漫画で読んだ、殺したと思っていた敵が生きていたシーンの驚きようにそっくりだ。


 暫く驚いた後、彼女は身体を起こして、肩をふるわせながら、恐る恐るといった様子で口を開いた。


「いや、だって……昔はしてくれたのに、最近してくれないから……」


「あー、ほら。その、あんまり子ども扱いするとさ、りんちゃん、怒るかなって。だから、あんまりしなかったんだけど」


「そ、そんなことない!」


 彼女は、声を張り上げた。いつも飄々としている彼女らしくない、大きな声だ。


「わ、わた……ボク様は、い、いつもお姉ちゃ、叶葉(かなは)に、昔みたいに──」


「そっか、りんちゃん。お姉ちゃんに膝枕、して欲しかったんだね? ふふ、いつでもしてあげるよ。……し、か、も! なんと、発明品無しのお姉ちゃんの膝枕は~、頭なでなでもついています!」


 どうだ、と胸に手を当てて伝える。すると彼女は、顔をほころばせて、にっこりと笑った。


「なぁんだ……うん、分かった叶葉(かなは)。解除するよ」


 そう言うと彼女は、リングを押した。途端に、脚の感覚が戻る。そして、勝手に景色が変って行く。どうやらリングに押し戻されているようで、すぐに私は、フローリングの上に立っていた。


 りんちゃんも立ち上がって、2本のリングを両手で持っている。


「……じゃあ、早速してあげよっか、膝枕!」


「も、もちろん……だ、だがいいのか?」


「勿論、可愛い妹の頼みだもんね!」


「い、いやそうではなく……その、いつもなら夕食の、時間だろう?」


 ぐう、お腹が鳴った。ちょうど、りんちゃんが言及したのと同じタイミングで。少し恥ずかしくなって、私は少し早口で「ご飯作るね!」と言い、キッチンに向かった。


「……ふふ、変わらないな、叶葉(かなは)は」


 私の後ろで、りんちゃんが笑った気がした。……結局その日は、安く売られていたお肉とお裾分けの野菜などを使った、いつものご飯を食べて、お腹がいっぱいになったりんちゃんを膝枕したりしながら、過ごしたのだった。





「はぁ……やっぱり、叶葉(かなは)の膝枕は、いいな……あれだけは、どう頑張っても再現できなかった」


 おびただしい数の写真が貼られた部屋。勿論、全て叶葉(かなは)の写真だ。それ以外の写真など価値はない。子どもの時から、私は彼女の写真を撮りためている。好きだから。それと、彼女の手紙も勿論、完璧に保管してある。隕石が降ってきても壊れない金庫はそのために作った。


「ふふ……とりあえず、この“叶葉(かなは)の膝枕完全再現プロジェクト”は凍結するか……副産物で、誰に移植しても拒否反応がでない人工皮膚なんてできちゃったけど……まあ、無駄だな」


 パソコン──もちろん壁紙は叶葉(かなは)とのツーショットだ──を動かす。いくつかあるフォルダから、選んで消去していく。


「……あ、寝返り……可愛い」


 モニタに映る叶葉(かなは)を見る。勿論盗撮だ。でも仕方ない、叶葉(かなは)は可愛いのだから。


「次からは寝言も聞きたいし、盗聴も……と、まずは今日の総括だ」


 膝枕をいつでもして貰えるようになった──というのを差し引いても、今日の発明品は精巧だった。完璧な感覚遮断と転移。これなら、いつでも可能だ。


叶葉(かなは)の、悪性腫瘍の切除。リングで患部だけを転移させ、感覚遮断を麻酔に使う。これなら、リスクは最低限で手術ができる」


 いつか発症する、叶葉(かなは)の悪性腫瘍。私であれば、治すのは容易い。けれども、万が一ということもある。今回のリングを使えば、最低限のリスクで治療が可能だ。


「……叶葉(かなは)が、1年後に死ぬ確率──87%。良かった、5%減った」


 未来を見る研究。……成長した叶葉(かなは)の姿が見たくて始めたそれは、思わぬ副産物をもたらした。彼女が、この年に──100%、死ぬという未来。あらゆる観測を通してその未来は、正しいと証明できてしまった。

 けれども。これまでの発明で、12%減らせた。腫瘍、交通事故、通り魔。死因はまだまだ残っている。それでも私なら、未来は変えられる。そのための基礎研究は、もう終了した。ここからは、直接死因を消していくだけ。


「絶対、助けてあげるからね、お姉ちゃん──死ぬまで、ずっと一緒だよ」


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