第一話「目覚めた元神様」
目が覚めた。
あたりを見渡すと自分の周りをぐるりと囲むように麦わらの壁があった。
麦わらの壁からは、窓から入って来た柔らかな光が差し込んでいた。
壁…?
いや、今俺は赤ん坊なのだ。
ゆりかごの側面だろう。
なるほど。今自分が置かれている状況を理解した。
俺は赤ん坊としてこの世界に転生したのだ。
―――
前世が習得の神であるという記憶が戻ったのは、
俺が生まれてから約三週間後の事だった。
幸い俺は前世が習得の神であるから、この世界の言語については、
生まれてから親同士の会話などを聞いてある程度は習得していた。
これにより言語については心配することはなくなった。
ただ一つ懸念点があった。
俺はニホンに転生できたのだろうか。
目を動かして周りを見てみる。
ここからじゃ何も見えない…
顔を上げて周りの景色を見ようにも、
首がまだすわってないようでうまく動かせない。
…困ったな。
いつまでもゆりかごの中に居ては、外の景色が見れないし、
今いる場所ががニホンかどうかの判別のしようがない。
他の人の力を借りるか。
そうだ、親の力を借りよう。
赤ん坊を一人残してどこか行ってしまうような親じゃない限り、
家の中にいるだろう。
呼んでみるか。
「あぅあー」
!!!!!!!!
驚いた!禄に言葉も喋れないのか!俺は!
まあ赤ん坊だし、仕方ないといえば仕方ない。
…どうしよう。
言葉を喋れなければ親を呼べないじゃないか!
転生前は幾千万もの言の葉を紡ぎ、神々の心に干渉してきた俺が、
今となっては言葉すら発せなくなってしまっている。
滑稽なもんだな。
まあ最悪漏らしまくって泣き叫んでやろう。
そんな事を考えていると、近くから足音が聞こえてきた。
「ファナー?どうしたのぉー?」
足音ともに若い女性の声が聞こえた。
その数秒後にに周りの空気がふわりと揺れ、
ゆりかごの中を覗き込むライトグレー色の髪の毛の美女が見えた。
誰だ…?母親だろうか?
えらく若く見えるな、20歳前半くらいに見える。
その美女の顔をじっくりと見てよく観察してみる。
目鼻立ちくっきりした顔の美女だ。
顔を観察していると、
その母親らしき美女がゆりかごの中に手を伸ばしてきて、
俺の体を持ち上げた。
持ち上げた瞬間にその美女の髪の毛からふんわりといい香りがした。
「はいはい、お母さんが来ましたよぉ―
どうしたの?」
抱っこされ軽く揺すられながら、
きれいな赤色の瞳で俺の顔を見つめる。
そんなに見つめられると、なんだか恥ずかしくなってしまう。
真紅の瞳に光が入ってまるで宝石のような目だ。
そしてやはりこの美女は俺の母親らしい。
こんな美女が俺の母親なのか…嬉しい限りだ。
おっと、ソラリアのことは忘れちゃいないぜ?
抱きかかえられた隙に周りの景色を少し見渡した。
家の中には木製のテーブルとイス、そして台所のようなものがあった。
リビングだろうか…?
だが魔法で使いそうな杖や、
棚の上にはきれいに光っている青色の液体が入った瓶が二つほどあった。
外の景色を窓を通してみてみると、
ドアの方向からはレンガで舗装された通りが見えた。
台所の方向からは隣家のようなものが見えた。
まあ景色の話は置いといて。
先程の母親の問いかけに対して、俺は精一杯返事しようとした。
「おおぉーえいぃいあー」
自分の不完全な声帯から発せられたのはとても言葉とは言えない言葉だった。
自分でも笑いそうになるくらい何も伝えられなかった。
俺の母親は赤ん坊の割によく喋る俺にふふと微笑している。
外の景色見てみたい。と言ったつもりだったのだが……
口周りが発達してないんだな。
まったく、赤ん坊の体は敵わん、不便だ!
早く大人の体になってしまいたい!
「んんー?なんだろぉ?
お腹すいたの?」
ほらみろ!なんにも伝わってないじゃないか!
これには俺も赤ん坊の顔で渾身の苦笑いをつくった。
…正直自分でも、かなり変な顔になっていたと思う。
お腹へってるるわけじゃないのだがな。
「んふふ。お腹空いてそうな顔してるねぇ。
おっぱい飲む?」
……やっぱめちゃくちゃお腹へってきたな。
そして今気づいたが近くで聞いてみると俺の母親の声はとても澄んでいた。
よく通る声をしている。それになんだか落ち着いた声でなんだか安心する。
この身体の母親の声だからか…?
俺は元気よく返事した。と入っても歯抜け声だが。
「おぅー!!」
「ふふ。わかりましたぁ。」
ふむ…赤ん坊の体も悪くないかもしれない。
―――
さて、これからどうしようか。
念願叶い人族に転生したのはいいものの、
この体のままでは人族の文明を体験しようにもできない。
しばらくは体の成長を待とう。
しかし、せっかくこの世界で人族として生きるのだから、
この人生において目標を立てたいところだな。
もともと、人族の文明が面白いと思ってこの世界に転生したのだから、
目標に文明に触れることは入れたいな。
それだけでもいいのだが、俺はもともとは神なわけなんだし、
この世界でも強さは追い求めて行きたい。
神には色んなものを司る者がいるが、
この世界にはまだ見ぬ剣術や魔術があるのだろう。
そういうものを探し求めるのも悪くないかも知れない。
よし決めた。
当分の目標は文明をこの身で体験しつつ前世の強さを取り戻すことにしよう。
この人生での目標は決まった。
すると段々眠くなってきた。
おいおい、さっきまで寝てたばっかりじゃないか。
段々と俺の意識が遠のいてゆき、やがてまた眠りに落ちた。
――――――――――――
それから一年の月日が経って、
俺、ファナ・ラストールは一歳になった。
この世界に転生してから得た情報がいくつかある。
一つ目はニホンとは違うようだ。
明らかに言語とか風景が違う。
さらに、チキュウでもなさそうなのだ。
両親ともども魔術を使っているのを見たのだ。
チキュウでは魔術は使えないらしいからな。
ニホンに転生できなかったのは悲しいが、
夢の人族になれて俺はまあまあ満足している。
二つ目、自分が生まれた家について。
自分の家は比較的裕福な家らしい。
ファンタジックな二階建ての家だ。
生活に必要な家具などはすべて揃っているし、知育玩具などもあった。
ちなみに二階建ての家は俺の家とソラの家くらいしか辺りにはなかった。
三つ目、なんと!偶然にこの世界でも、
俺の愛しのソラリアちゃんとは幼馴染らしい。
たまたま俺の家とソラリアの家が近く、
さらに両親同士の仲が良く、よくソラリアを連れて我が家にやってくる。
この世界ではソラリアはソラと言う名前みたいだ。
前世の時の金髪でボブっぽい出で立ちと似た感じだった。
目の色だけは青目から赤目になっていたが。
まあ、なんといっても前世からソラの可愛さはそのままだった。
俺の見た目はと言うと、金髪からライトグレーに、
青目から赤目になっていた。
あ、そうだ俺の父親についても話しておこう。
普段は王立魔剣士隊の隊長をしているらしい。
なので普段はあまり帰ってこない。
俺の父親は橙色の目をしている、そして母と同じくライトグレーの髪の毛だ。
体格はものすごいが、心優しい。
出身地ではちょっと有名な魔剣士だったとか。
俺の母はずっと家に居て家事をしているので、
何かの職についているのかは分からないが、
俺の世話をしつつ魔法の特訓もしているようだった。
―――
一歳になった次の日、
親の目の色と神界にいた神様たちとの目の色が違うことを疑問に思い、
この世界の目の色について知ろうと思った。
親が別の部屋で作業している隙に、
本棚がある部屋に移動するためにゆりかごから飛び降りた。
どすっ…
…痛い……でも我慢できる
俺はハイハイで目的の部屋へと行った。
床にカーペットが敷かれ、本棚とソファ、そして窓がある簡素な部屋だ。
幸い扉はなく、部屋にそのまま入ることができた。
部屋に入り本棚の前まで進む。
生憎俺の体格では一段目の本を取るので精一杯だ。
…お!目の色について書かれていそうな本がある。
『魔色判定』と言うタイトルが記された本だ。
頑張って手を伸ばしてその本を取る。
パラパラとその本のページを捲っていくと、お目当てのページが目に入った。
『 ―――魔色について―――
此のアレストリア大陸では現在五つの魔色が確認されて居る。
一つ目は赤色、此の魔色を保有している者は後述する魔色達の中で、
最も魔力量が少ないとされている。
二つ目は橙色、此の魔色を保有している者は、
前述した赤色の目の保有者と比べ約三倍の魔力量がある。
三つ目は白色、此の魔色を保有している者は
前述した橙色の目の保有者と比べ約五倍の魔力量がある。
四つ目は青色、此の魔色を保有している者は、
前述した白色の目の保有者と比べ約七倍の魔力量がある。
最後に五つ目の緑色だが、これは例外的である。
というのも、この緑の目の保有者は魔力を保有していない。
しかし、其の代替能力なのかも知れないが、
緑の目の保有者は身体能力が異様に高いと調査で判明した。
ただし、この目の色は生まれつきのものなだけであって、
訓練次第では、目の色が変わる。 』
そう記されていた。
なるほど、そういうことだったのか。
生まれつきの色は赤だったが、そこから魔力量を伸ばせばどうにでもなるのか。
伸びしろしかなってことね。
転生体なのでてっきり青い目のままなのかと思っていたが。
面白い世界だ。
特訓の日々が始まりそうだな。




