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第6話 雛鳥達の連携(2)

 二年生の後半、ついにその日がやってきた。候補生一人ひとりに、正式な騎士の装備一式が支給されたのだ。


 養成所に併設された鍛冶場に足を踏み入れると、燃える石炭の匂いと熱せられた鉄の匂いが肌を焼く。そこでフィオナは、王家の紋章が刻まれた銀色の鎧、兜、鞘に収められた長剣とナイフ、手入れ用の油と布、予備の革紐といった消耗品、騎士としての活動に必要な全てを受け取った。教官から、鎧の正しい装着法、日々の手入れ、装備の点検方法などを一つひとつ、叩き込まれる。


 そして、フィオナは生まれて初めて、全身に鎧を纏った。 ずしり、と肩にのしかかる重み。それは単なる物理的な質量だけではなかった。これは、声なき民を守るという使命の重み。王国の刃たる覚悟の重み。その全てが、この鋼の重さに凝縮されているようだった。フィオナは、鎧の冷たい感触を確かめながら、静かに決意を新たにした。


 その装備の運用を身につけるため、数日後、大規模な野外実習が行われた。養成所の近隣に広がる森で、班ごとにテントを張り、野営する訓練だ。魔獣の襲撃の恐れがあり、かつ補給が途絶えた状況を想定した訓練。支給されたばかりの重い鎧を全身に纏い、食事として与えられたのは、一袋の小麦粉のみ。それ以外は、全て現地で調達しなければならない。


 フィオナは、農村で育った経験を存分に活かした。森に入ると、土の匂いや木々の様子から、食べられるキノコや木の実が実っている場所を正確に見つけ出し、カゴに集めていく。


 一方で、セリスは火起こしに苦戦していた。火打ち石を何度打ち付けても、火口にうまく火花が飛ばない。慣れた手つきで採ってきたキノコの下拵えを進めるフィオナが、その様子を見て声をかけた。


「大丈夫……?代わろうか?」

「……大丈夫だ。これくらい、すぐにできる」


 セリスは、顔を赤くしながら強がる。テントの設営をしていたエリアナが、そんなセリスを見て口の端を上げた。


「武家の名門でも、流石に火起こしは教わらなかったのか? ……まあ、気にするな。誰にだって苦手なものはある」

「黙れッ! お前のせいで気が散る!」


 セリスが吠える。この頃には四人もすっかり打ち解け、こうした冗談めいた茶化し合いも増えていた。

 その、次の瞬間だった。 エリアナが広げようとしていたテントの布地の上に、頭上の枝から、ぽとり、と何かが落ちてきた。

 緑と赤の毒々しい縞模様を持つ、極彩色の毛虫だった。 普段の冷静沈着さが嘘のように、エリアナの顔が強張り、喉から甲高い声がほとばしった。


「ひぃっ……!」


 その声に、全員の動きが止まる。セリスは、ここぞとばかりに、やり返した。苦戦していた火起こしを放り出し、にやりと口元を歪ませる。


「……気にするな。誰にだって苦手なものはある」


 エリアナが先ほど放った台詞を、そっくりそのまま返してやった。 エリアナは、ばつが悪そうに顔を背け、咳払いをする。


「……お前たちは警戒心が足りない。こうした毒虫の毒が、時には命取りになることだって……」


 その苦しい弁解に、それまで必死に笑いを堪えていたリナが、とうとう噴き出した。


「ぷっ……あっはははは! なあんだ! 完璧そうに見える二人にも、苦手なものがあるんだね!」


 その高らかな笑い声を聞きつけ、見回りをしていた教官が駆けつけてくる。


「貴様ら! 何を騒いでいるか! 実習を遊びと心得ているのか!」

 厳しい叱責に、四人はびくりと体を震わせた。

「す、すみません!!」


 四人は揃って背筋を伸ばして教官に謝罪し、そそくさと作業に戻る。まだ肩は笑いで震えていたが、その空気は少しも悪いものではなかった。 厳しい訓練の中で見せる、仲間の意外な一面。それは、四人の絆をまた一つ、結びつけていくのだった。

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