第69話 新国王・王妃の誕生(1)
アスランが王太子となって一年後。
オルリオン王国王宮は、かつてない慌ただしさに包まれていた。
一年前に立太子したアスラン王太子は、オーロラ・フォレスティ伯爵令嬢と婚約した。
そして今、人々が待ちかねた結婚式が行われる。
立太子の礼でヘンリー国王が宣言したとおり、王太子アスランの結婚とともに、ヘンリーは譲位する。
王太子の結婚。
それはすなわち、新国王の即位と新しい王妃の誕生となる。
正式な戴冠式は半年後に予定されているが、ヘンリー国王はその地位を甥のアスランに譲り渡す。
「とても素敵よ、オーロラちゃん」
「本当に。こんなにお綺麗な花嫁は、見たことがございません」
自身も正装に身を包んだ辺境伯夫人アデルと、辺境伯家の家政婦長モリソン夫人が目を細める。
「オーロラお嬢様……!! あぁ、お嬢様、まるで輝くようなお美しさですっ……!!」
フォレスティ伯爵家からオーロラ付きの侍女として王宮に上がったアリスが感激のあまり涙をぽろぽろこぼしている。
「アリス。涙を拭きましょう? おめでたい席ですもの」
辺境伯家に身を寄せていた間、オーロラの世話をしてくれたデキる侍女のエマが、そっとささやく。
「は。そうでした! お嬢様、ごめんなさい……」
「アリスちゃん。結婚式後は、お嬢様ではなく、妃殿下ですよ。忘れないでね?」
「は、はい、アデル様」
アデルにも指導されて、アリスはさらに気を引き締める。
オーロラは鏡の前から振り返って、子どもの頃から一緒だった、同い年の侍女に微笑みかけた。
「アリス。大丈夫よ。すぐ慣れるわ。伯爵家から一緒に来てくれたアリスですもの。わたくし、何も心配していないわ」
「お嬢様〜!!」
「あらあら……」
再び感極まって泣き出したアリスに、一同が苦笑していると、ドアをノックする音が聞こえた。
「オーロラ? 支度はできたかね? そろそろ聖堂に移動する時間だ。お父様もちょこっと中に入って、大丈夫かな?」
「はい! お父様、どうぞお入りになって」
濃紺と金。王宮騎士団の礼装に身を包んだフォレスティ伯爵は、純白のウェディングドレス姿のオーロラを見るなり声を失った。
「オーロラ……! 何と。お母様そっくりになって……」
混じりけのない金髪に、青い瞳。
誰もがうらやむ、貴族的な美貌のフォレスティ伯爵だったが、驚きのあまり見開かれた目にぶわっと涙があふれ出す。
「オーロラ……オーロラ……オーロラぁあああっ……!!」
止める間もなく男泣きを始めたフォレスティ伯爵を見て、アデルは慌てた。
「ま、まあ、どうしましょう!? 伯爵、落ち着いてくださいな。あなたが号泣してどうするの!? ああ困ったわ。シリュー侯爵は警備についているし……誰かルドルフ様を呼んできてちょうだい!! 大至急よ!!」
***
オルリオン王宮の離れに建てられている、歴史ある聖堂は、この日、純白に彩られていた。
色調もさまざまな、白の花々。
来賓席を渡すようにしてかけられた、ブーケで飾られた白のリボン。
ステンドガラスの下に作られている祭壇もまた、白一色。
結婚式を司どる司祭の服もまた、最高の礼を示す純白である。
そんな中、一際、目を引くのは、辺境騎士団のあざやかなロイヤルブルーの礼服に身を包んだアスラン王太子の姿だった。
「……アスラン、その格好、大丈夫だったのか? ちっと目立ちすぎやしないか、と俺は心配だったんだが」
アスランの養父として、新郎であるアスランに付き添うデルマス辺境伯ルドルフが、同じくロイヤルブルーの礼服姿でささやいた。
本人を指して『辺境の魔獣』、アデルと一緒にいれば『美女と魔獣』と言われる大男である。
こっそりささやくのも骨が折れる。
アスランは笑いを噛み殺して首を振る。
「伯父上、大丈夫ですよ。父の死後、私が辺境で保護されていたことは、すでに公になっています」
「そりゃそうなんだがなあ」
外見に似合わず、案外、ルドルフは細かな気配りができる男だった。
ルドルフの妻であるアデルは、前国王の娘、ヘンリー国王の姉ではあったが、王族側の席にはつかず、オーロラの母役として、新婦の母親の席に座っていた。
アデルはハンカチを何枚か持ち、今頃オーロラをエスコートしているはずのフォレスティ伯爵を心配していた。
ハンカチは、フォレスティ伯爵がまた号泣し始めたら渡すためである。
そのフォレスティ伯爵は、いよいよオーロラをエスコートして、聖堂に入場しようとしていた。
音楽が鳴り始める。
「お。来たぞ、アスラン」
祭壇の前でルドルフがささやき、背筋をぴしりと伸ばして、アスランの傍に立つ。
その言葉のとおり、聖堂のドアが厳かに開いて、父であるフォレスティ伯爵にエスコートされたオーロラが入ってきた。
(オーロラ)
アスランはこみ上げてくる感情を必死で抑える。
オーロラはしっかりとした足取りで祭壇まで歩いてくる。
フォレスティ伯爵がオーロラにキスをして、オーロラの手をアスランに委ねた。
司祭が祈りの言葉を神に捧げ、お互いに誓いの言葉を述べ合った新郎と新婦が、いよいよ向き合って見つめ合った。
「アスラン様」
オーロラが純白のベールの下から微笑んでいる。
たとえその愛らしい顔がベールに包まれていても。
ウェディングドレス姿のオーロラは、アスランの目に光り輝くように映った。
「美しいよ、オーロラ」
それは感極まった新郎の言葉だった。
天井のステンドグラスから射し込む光がまるでスポットライトのように、令嬢のすらりとした立ち姿に降り注いでいる。
「この日をずっと待っていた」
最高級のレースで作られた、純白の長いベールが、新郎の手で上げられる。
ふわり、と輝いたのは、まるで月の光を溶かし込んだかのような、美しい銀色の髪。
新郎を迎えたのは、ちょっといたずらっぽい表情を浮かべた、オーロラの微笑みだった。
まるで北国の湖のような、印象的なアイスブルーの瞳が新郎の姿を映し出している。
「『真実の愛』は、あったね」
優しくささやき、アスランはオーロラのくちびるに優しいキスを落とした。
まるですべてが祝福されているような。
これ以上ないほど光があふれる聖堂の中。
二人は永遠の愛を誓った。
☆☆☆次話が最終話となります☆☆☆
オーロラとアスランの結婚式の後の物語。
他の登場人物達のその後もあります。
最後までお楽しみいただけましたら幸いです♡




