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呪われた伯爵令嬢は、婚約破棄にもひるまない  作者: 櫻井金貨
第4章 真実の愛

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第68話 真実のキス

 オルリオン王国王宮は、長年待たれていた王太子の誕生に湧きかえっていた。


 無事に立太子の礼が終わり、夜の晩餐会を迎える前、王宮内はたくさんの明かりが灯され、まるで昼間のようだった。


 国内外からの招待客が、最上級の正装に身を包み、場を華やかなものにしていた。


 とりわけ、衝撃的だったヘンリー国王の譲位の予告。

 長い間隠されていた、第一王子ルイベルトの遺児、アスラン王子の登場と、人々の話題には事欠かなかった。


 晩餐会が始まるまでの間、磨き抜かれた回廊でも、何箇所も設られた休憩用のサロンでも、人々は集まって会話に花を咲かせていた。


 王宮の中庭にも照明がいつも以上に取り付けられて、中庭に降りてきてベンチに座ってくつろぐ人々もいたが、王宮の中庭もかなり広い。


 アスランがオーロラの手を取ってやってきた辺りは大きな木が茂っており、かすかに話し声やグラスの触れ合う音などが聞こえてくるものの、人の姿を見ることはなかった。


 そんな中、アスランは真剣な顔をして、オーロラの前にひざまづいている。


「オーロラ嬢、いや、オーロラ、この木を覚えている?」


 アスランがオーロラに話しかけた。


「この木はね、オークの木。王宮の中庭の主みたいな木なんだ。よく王家の子ども達がこの木の下で遊んだんだって。オーロラ、あなたに初めて会った時、伯母上が懐かしそうにそんな昔話をしてくれてね。それで、この木を見に来ていたんだ。ええと、実はちょっと脱走したんだけどね……いつも保護者と騎士付きで疲れちゃって」


 アスランは立ち上がると、オークの木の前で、オーロラの両手を取った。


「あの日から、あなたのことを忘れたことはなかった。最初は名前しか知らなかったけれど、やがてあなたの置かれていた状況も知った。———あなたがいたから、俺は辺境騎士団の正騎士になれた。あなたを守るためなら、どんな訓練にも耐えられるし、どんな努力でもしようと思った」


 アスランのあざやかな青い瞳が、まっすぐにオーロラを見つめている。


「オーロラ、あなたを愛しています。結婚してください」

「アスラン様———でも、あなたは王太子です。それに、すぐに国王の座につかれる方」


「あなたこそ、十二歳からアレックス王子の婚約者だった。アレックスは王太子になろうとしてただろう? あなたはそんなアレックスの妃になるために、長年王子妃教育を受けていた。そんなあなたが王太子妃にふさわしくない、などと言わないでください」


 アスランの視線はまっすぐで、少しの疑念もない。

 オーロラは動揺して、つい、ローリーお嬢様と従者ラン君だった頃のように叫んでしまった。


「でも、わたくしの呪いはどうするの!? わたくしがもし『真実の愛』以外の相手と結婚したら、その人は死ぬのよ!? それに———それに———アデル様が教えてくれたの。ミレイユ王妃は、この呪いを解くことはできないって」


 オーロラは涙をためた目で、アスランを見上げた。


「わ、わたくしは、誰とも結婚しません。そう、決めたの」


 アスランと結婚できないから、誰とも結婚しない。

 なぜなら、アスランこそがオーロラの『真実の愛』なのだから。


(でも、それを告げることはできない……!!)


 オーロラは力尽きた。

 言葉なく、アスランの前に立ち尽くす。


 アスランは、そんなオーロラを前にしても、あきらめなかった。

 オーロラの手を離さずに、ゆっくりと話しかけた。


「オーロラ。俺は、死んでも構わないと思っている。それでも、あなたを愛している」


「アスラン様、だめです……っ! そ、そんな。一国の王太子が死を口にしてはいけません———」


「オーロラ」


 アスランはオーロラをそっと抱きしめた。

 そしてゆっくりと、オーロラの白金の髪を撫でる。


「大丈夫……落ち着いて? もちろん、そう簡単に死にはしないよ。あなたの気持ちを教えてほしい。あなたは、婚活お茶会にも参加したでしょう? 素敵な人に出会った? これが『真実の愛』だと思える人は、いたの?」


「それは———」


「俺は、どうだろうか? あなたは、俺を『真実の愛』だと感じてくれている?」


 オーロラはアスランを見つめた。


「あ……」


 オーロラの顔がみるみる赤くなる。


「わ、わたくしの『真実の愛』は……」


 オーロラの手が震えている。

 アスランはしっかりとオーロラを引き寄せ、体を支えた。


「わたくしの『真実の愛』は、アスラン様、あなたです」


 次の瞬間、オーロラはアスランの腕の中で、これ以上ないほどぎゅっと抱きしめられていた。


「オーロラ! ありがとう……! あなたの気持ちを教えてくれて。よかった……うわ、すごい嬉しい」


「アスラン様、あの、その。ええと」


「オーロラ、じゃあ、俺達は相思相愛だね?」

「で、で、ですね?」


 アスランは、そんなオーロラの挙動不審ぶりに微笑んだ。

 今のオーロラは、完璧な表情を保った、完璧な令嬢ではない。

 そんなちょっと幼い姿もまた、可愛いのだが———。


(いやいや、にやけている場合ではないぞ)


 アスランは、きりっとした表情を作った。


「そんなオーロラ嬢に、提案があります」

「はい!?」


「今、ここで結婚式を挙げましょう」

「はいいいいい!?」


 オーロラはレディらしくない声を上げてしまい、思わず両手で口もとを押さえた。


「結婚式、ですか?」


 アスランは笑った。


「そう。ここで、二人きりの結婚式を挙げるんだ。そして、呪いが解けるか、確かめる。本番の結婚式で俺が死んだら、会場は阿鼻叫喚になるでしょ? ここで試してみよう」


「アスラン様っ!!」


「まあ、それは冗談だけど、悪いアイデアではないと思う。二人で結婚を誓って、キスをする。そこでもし死ななければ———」


「『真実の愛』ですね! 呪いが解けた、ということに?」


 勇気を出して、確かめる。

 二人は見つめ合った。


 でも、もし———。


 二人は、言葉に出さなかった可能性を、考えざるを得ない。

 もし、『真実の愛』でなかったら?


(俺にとって、オーロラ以外、『真実の愛』はあり得ない)

(わたくしも同じです。アスラン様が『真実の愛』でないなら、『真実の愛』なんて、存在しない)


 静けさだけが広がる中、二人はお互いの瞳の中に、答えを受け取った。


 無言で、でも呼吸もぴったりに、二人は手をつないだ。

 ゆっくりとオークの古木の前に立つ。


「私、アスラン・オルリオンはオーロラ・フォレスティを愛し、結婚します」

「わ、わたくし、オーロラ・フォレスティは、アスラン・オルリオンを愛し、結婚します」


 アスランの手がそっとオーロラの顔に触れた。


「オーロラ。もし、俺が死んでも、後悔はない。今も、これからも、俺の『真実の愛』はあなた一人だ」


 覚悟を決めたアスランに、オーロラはうなづいた。


「わたくしも。わたくしの『真実の愛』は、アスラン様、あなた一人です」


 アスランの端正な顔が近づき、オーロラは目を閉じた。


 オーロラのくちびるに、柔らかいものが触れた。


 オーロラの顔にさらり、とかかったのは、きっとアスランの髪だろう。

 柔らかくて、どこか緑の香りがした。


 そして次の瞬間、オーロラの全身が光に包まれた。


「オーロラ!?」


 焦ったようなアスランの声が聞こえる。

 しかし、オーロラは眩しくて目が開けられない。


「アスラン様!!」


 オーロラの悲鳴に、遠くから駆け寄ってくるダントンの声も聞こえた。


「アスラン殿下! オーロラ嬢!!」


「オーロラ!!!」


 オーロラは苦しくなって、ついに立っていられなくなった。

 体のバランスを崩したオーロラを、アスランが抱き止める。


「オーロラ! オーロラ!!」


 オーロラは薄れゆく意識の中で、何度も自分の名前を呼ぶ、アスランの声を聞いた。

 そして思った。


(良かった……アスラン様は、生きている。アスラン様が生きているなら、わたくしは死んでもかまわない———)


「オーロラ…………!!!」


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