第54話 王女の危険なお茶会@王都(3)
オーロラは落ち着いた、濃い茶色のデイドレスを着て、王宮に到着した。
今流行りの、散歩服をアレンジしたドレスだ。
そのドレス丈は少し短めに仕上げられていたが、赤茶色の革のショートブーツを合わせていて、違和感はない。
ローリーの髪色である、ブルネットの髪はきちんとまとめ、ドレスと同じ色のリボンで束ねている。
オーロラはその手に、愛用のステッキを持っていた。
従者のラン君を演じるアスランは、黒のスーツに身を固めている。
もちろん、いつものメガネ姿だ。
二人に付き添うのは、これまた若い二人だった。
辺境騎士団の金髪碧眼のイケメン騎士、レオナルドはローリー嬢の護衛騎士役を担う。
アスランが従者に化けているのはすでに承知している。
レオナルドは今回、貴族の子弟で王宮、王都の状況にも明るいということで選ばれた。
そして侍女役を担うのは、肩先で揃えた黒髪に明るい茶色の瞳をした、小柄な少女だった。
シリュー侯爵令嬢であるセイディは目を伏せ、控えめな様子で、令嬢に従う。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
アスランがそっと声をかけた。
「ええ」
オーロラはうなづいた。
「大丈夫ですよ。打ち合わせどおりに」
「はい」
そんなやりとりを、侍女姿のセイディが切なそうに見つめていた。
そうして一行は王宮に入り、お茶会までの間の待機にと小さな部屋に通されたのだが、そこで護衛騎士のレオナルドは返されてしまった。
王宮内での護衛騎士の帯同は認められないと言う。
「わかりました」
オーロラは了承した。
「その代わり、王宮騎士団から護衛が一人付きますので、ご安心ください」
「ありがとうございます」
これも折り込み済みだ。
セイディの兄であるダントンが手を回して、担当の護衛に付く手はずになっている。
一時間ほど経った頃、お茶会への案内係がやって来た。
同時に黒髪の騎士が姿を現す。
「ローリー嬢、本日の護衛を担当いたします」
丁寧に礼を取った騎士は、もちろんダントンだった。
オーロラも丁寧にカーテシーをしてうなづく。
「よろしくお願いいたします」
そうしてオーロラ、アスラン、ダントン、セイディの四人はお茶会の会場に向かったのだったが。
「女性のみのお茶会です。従者、騎士の方は外でお待ちください」
会場の入り口には、コレット王女の護衛騎士が二人待機しており、あっさりと
アスランとダントンは、オーロラと引き離されてしまった。
金髪碧眼、妙に顔だちの整った二人の護衛騎士は、オーロラよりも小柄な、黒髪の侍女を見下ろした。
わざと大きめの地味なドレスを着たセイディは、年齢より幼く、頼りなげに見えるだろう。
「……侍女はかまいません。お入りください」
セイディは目だけでアスランとダントンに合図を送り、オーロラに同行して、会場に入った。
***
通されたのは、王宮の中庭に面したサロンだった。
庭を見渡す大きなガラスの窓があり、中庭に降りられる小さなドアも見えた。
オーロラは部屋に入って、目を見開く。
なぜなら、お茶会と銘打っているものの、テーブルにいるのは、コレット王女ただ一人だったからだ。
部屋の中央には、ティーセットが載せられ、大小さまざまなお菓子が盛り合わせられたプレートが並ぶテーブル。
椅子は四脚並べられていた。
コレット王女は、青みがかったピンク地に、妙に派手な紫色のバラが刺繍されたドレスを身につけ、退屈そうに椅子に座っていた。
そして、当然のように、室内には王女の侍女だけでなく、男性である騎士が二人、壁際に立って待機していた。
この二人の騎士も金髪碧眼。かなりのイケメンである。
(顔だけで選んだのかしら?)
セイディが真顔でオーロラを見上げ、オーロラはセイディの意図を正確に察して、思わず苦笑した。
しかし、顔だけで選ばれたとしても、騎士は騎士。
いざとなった時には、オーロラとセイディだけでは対抗できない。
オーロラは即座に気持ちを切り替え、コレット王女をうやうやしく見上げた。
オーロラはドレスをつまみ、ゆっくりと腰を落として、カーテシーをした。
「お初にお目にかかり、光栄です。コレット王女殿下。ローリー・デルマスでございます」
「そう。わたくしがコレットよ。空いている椅子にお座りなさい」
対するコレットの返事はあっさりしていた。
「聞き覚えのない名前の令嬢が王都で話題になっていた。気になったから、本人を見たいと思っただけよ」
コレットは無遠慮にオーロラを見上げ、見下ろした。
オーロラはコレットの向かいの席に腰を下ろした。
セイディは周りを見回して、テーブルから遠くない壁ぎわにそっと立った。
(まずは落ち着こう。コレット王女の意図を探らなくちゃ)
久しぶりに見たコレットは、少し印象が変わったようにオーロラは感じた。
ミレイユと同じ赤っぽいブロンドの髪に、茶色の瞳。
もともとの顔だちは整っているのだが、あからさまに退屈そうな表情をしているせいか、どうにも締まりがない。
着ているドレスも、高価で華やかなものなのだが、その強い青みがかったピンク色はコレットの色味に合っていなかった」。
(ご自身の好みだけで選ばれたのかしら)
オーロラは自分が香水瓶に仕込まれたインクを被った、王女のお茶会を思い出した。
あの時のドレスコードは白。
もともとピンク色で統一されていた彼女のサロンを、白く変えてのお茶会だった。
(この方はピンクがお好きなのだわ)
オーロラがそんなことを考えていた時だった。
「まあ、見る価値もないと思うけれど。お母様のご指示だから仕方ないわ。アレックス、田舎令嬢の顔を見てお行きなさい」
「!?」
オーロラの顔が凍りついた。
セイディも驚いて手で口もとを覆っている。
「姉上」
かちゃりと中庭に面したドアが開き、アレックス王子が部屋に入ってきた。




