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呪われた伯爵令嬢は、婚約破棄にもひるまない  作者: 櫻井金貨
第4章 真実の愛

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第53話 王女の危険なお茶会@王都(2)

 デルマス辺境伯領で、アデル主催による婚活お茶会が開催されて、一週間後。

 ロシュグリー城に一通の手紙が届いた。


「罠です」


 テーブルの真ん中に置かれた、王家の紋章入りの手紙を指して、アスランが断言した。


 ロシュグリー城では、緊急会議が開かれていた。

 会議の場所は、例によって、オーバル形のテーブルがある、アデルの書斎である。


 辺境伯夫妻、アスラン、オーロラ、それに執事のスチュワート、家令のワトソンが集まっていた。


「ローリー嬢と面識もないのに、どうしてコレット王女からお茶会の招待状が届くのです」


 アスランの指摘に、執事のスチュワートも深くうなづく。


「王女からの招待状では、断れませんからな。王妃殿下の指図と考えるのが自然でしょう」


 辺境伯領で開催した婚活お茶会から一週間。

 ローリー宛に届いたのは、コレット王女からのお茶会の招待状だった。 

 場所はもちろん、王都。王宮だ。


「断れない以上、どう対策を取るかが肝心ですね」


 そう言って、家令のワトソンもうなづく。


「もちろん、俺が一緒に行きます」


 アスランは堂々と宣言する。


「俺はローリー嬢の従者であると同時に、オーロラ嬢の護衛騎士ですから。当然のことです」


 一同はアスランの宣言を聞き、じっと考え込んでいる。

 一方、コレット王女から指名された『ローリー嬢』ことオーロラは、必死で戸惑いを隠していた。


 コレット王女。

 ミレイユ王妃。


 その名前を聞くだけで、一気に過去がよみがえってきて、気持ちが押しつぶされそうだ。

 ローリーとなって、別人になった気持ちだったのが、一気にしぼんでしまう。

 それほど、王宮での暗い記憶には根深いものがあった。


(いつまでも隠れていることができないのはわかっているわ)


 オーロラは考える。


(でも、これが偶然かしら? ミレイユ王妃は、ローリーがオーロラだと疑っているのかしら? 王宮へ行ったら、アレックス王子に会うかもしれない。そうしたら、わたくしは———)


 オーロラのアイスブルーの瞳が揺れた。


(わたくしは、どうしたらいいの?)


 その時だった。


 隣に座っているアスランが、テーブルの下で、そっと手を伸ばした。


「!」


 オーロラの手をしっかりと握る。

 オーロラが顔を上げると、穏やかな表情で、静かに自分を見つめるアスランの姿があった。


 アスランのあざやかな青い瞳が、オーロラだけを見つめていた。


「あなたのそばからはけして離れません。王宮に行っても、ずっと一緒にいます。だから心配しないで」


 アスランがそう言った時だった。

 それまで黙っていたアデルが口を開いた。


「わたくしも王都へ行くわ」


 夫であるルドルフが即座に返す。


「危険だぞ」


 アデルはしかし、ひるまなかった。


「わたくしはあの時に行動すべきだったの。もう後悔をしたくないわ」

「では俺も行こう。妻を守るのは、夫の務め」


 ルドルフがあっさりと宣言し、アデルは言葉を失った。


「!!!」

「アスランにも夫たるものの姿を教え込む時だからな」


 そう言って見つめあった辺境伯夫妻だったが、アスランが静かに言った。


「せっかくのお申し出ですが、伯母上と閣下には、辺境で待機していただきたいと思います」

「アスラン!?」


 心なしか、アデルの声も動揺していた。

 ルドルフもまるでアスランの真意を見極めようとしているかのように、細い目をさらに細めて、アスランを見つめている。


「伯母上が王宮に乗り込むと大ごとになる。まだ、大事にしたくないのです」


 アデルは黙った。

 どうやら、話は決まったらしい。


 オーロラは不安を押し隠して、アスランを見上げた。

 アスランは勇気づけるように、テーブルの下で、オーロラの手を握る自分の手に力を込めた。


「あなたをかならず守ります」


 それを聞いてアデルとルドルフはアスランに任せることに心を決めた。


「鳩を飛ばしましょう」


 アデルが宣言した。


「あなた方の使う馬車にも、鳩を用意するわ。何か起こったら、わたくし達は即、王都へ向かいます。いいわね?」


***



 話し合いの後、オーロラは席を外したアスランの代わりに、執事のスチュワートに付き添われて、エマの待つ自室に戻ってきた。


「……あんまり気が乗らない旅支度ですね。お嬢様、ドレスはどうしますか?」


 話し合いの成り行きを聞いた侍女のエマがぽつりとつぶやいた言葉に、オーロラは苦笑した。


「そうね。あんまりおしゃれする必要はないと思うわ。田舎令嬢と思われるくらいの装いがいいのよ。王妃殿下は華やかな装いをした令嬢はお嫌いだから」


 オーロラはそう言ってから、思いついた。


「ねえエマ、動きやすい服装を考えてくれないかしら。それに、例のナイフを仕込んだ万年筆とステッキは持って行くわよ。最近、王都でも散歩用のドレスにステッキを持つのがご婦人達の間で流行っているらしいわ。わたくしが持っていてもおかしくないと思うの」


 エマもうなづいた。


「さようでございますね。あくまで『お茶会』。王妃様に謁見するわけでもないのですから。かしこまりました。ご用意いたします。万年筆はポケットに入るので、今後はいつも入れておくようにいたしますね」


「それがいいわ。ありがとう」


 あの話し合いの後、アデルは招待状への返信を書きに行き、ルドルフはアスランを連れてどこかへ消えた。


「ローリーお嬢様、ご心配なさらず。旦那様とランさんは、お嬢様の護衛についての打ち合わせです。お嬢様はどうぞエマとお支度の準備を始めてください」


 執事のスチュワートが言った。


「ランさんが戻り次第、私は退出しますね。それまでは年寄りがいて落ち着かないでしょうが、ご容赦ください」


「まあ。スチュワート、そんなことはないわ。ここにいて話し相手になってくださいな。ラン君は結構おしゃべりに付き合ってくれるんですよ」


 そう言って、オーロラは窓に目を向けた。

 出窓に置かれていたのは、ひまわりを植えた植木鉢。

 レソトの町でアスランがくれたものだ。


(お花はもうすぐかしら。王都から戻ったら、咲いているかもしれないわね)


 ぐんぐん大きくなるひまわりにオーロラが目を細めていると、青い空を背景に、真っ白な鳩が二羽、東の方角に向かって飛んでいくのが見えたのだった。


***



 アデルが飛ばした鳩のうち一羽は、シリュー侯爵領に着いた。


「グロリア様! 辺境伯領からです」


 家令がただちにグロリアのもとに手紙を運んだ。


「これは、王都に行かなければ」


 アデルからの手紙を確認したグロリアは、即座に王都のシリュー侯爵家タウンハウスへ向かうことを決めた。


 グロリアは、嫌な予感がしていた。


 何か、王国を揺るがす事態になるのではないか。

 グロリアは弟であるシリュー侯爵と話さなければならない。


 それにダントンとセイディ。

 あの子達にも、関わってくる。


 グロリアは三日後の夜に、シリュー侯爵家のタウンハウスで、ダントンとセイディも含めた、秘密の話し合いを持つことができた。


「姉上、それでは辺境伯領から、ローリー嬢が王宮に来られると?」


 シリュー侯爵が尋ねた。


「ええ。コレット王女からの招待状です。断ることはできないわ。もう辺境伯領を出発しているはずです」


「ふむ。それで、ローリー嬢を呼び寄せる目的は? 彼女の身元に不審な点でもあると? 一介の令嬢をわざわざ王女の名前を使って王都まで呼び寄せるだろうか?」


 父の言葉を聞いて、ダントンとセイディが思わず顔を合わせた。

 その様子を見て、シリュー侯爵は両手を組んで言った。


「おまえ達も何か知っているのかね?」


 父の直球の質問に、ダントンとセイディは困ってグロリアを見た。

 グロリアが口を開いた。

 

「フォレスティ伯爵は、王宮騎士団に戻られましたか?」

「フォレスティ?」


 今度こそ、シリュー侯爵の困惑は本物だった。


「ええ、退団願いは国王陛下が慰留されましたからね。すでに勤務に復帰しています」


「フォレスティ伯爵に連絡してごらんなさい」


 グロリアは言った。


「そうすれば、あなたにも状況がよくわかると思います」


 グロリアにそう言われたシリュー侯爵はその夜、フォレスティ伯爵のタウンハウスを訪れた。


 数時間後に帰宅したシリュー侯爵は、再び全員を集めた。


「お茶会は五日後だ」


 シリュー侯爵が言った。


「王宮騎士団として、表立っては動けない。しかし、当日はひそかにローリー嬢の安全を確保すべく、我々は行動する」


 父の言葉を聞いて、セイディがばっと立ち上がった。


「父上!! わたくし、ローリー様の侍女になって、一緒に王宮へ行きますわ」


 セイディの言葉に、シリュー侯爵とグロリア、それにダントンは顔を見合わせた。


「お兄様とお父様、それにフォレスティ伯爵は王宮で待機できるでしょう。でも、お茶会の会場は王女殿下の私室ですわ。女性が必要になるかもしれませんから」


 小柄なセイディは一歩も引かない、という強さを出して、父、伯母、兄をまっすぐ見つめた。


「セイディ」

「……今度こそ、力になりたいのです」


 グロリアは弟であるシリュー侯爵を見た。

 シリュー侯爵がうなづいた。

 グロリアが口を開く。


「指示には絶対従うこと。いいですね?」


 セイディはうなづいた。


「シリュー侯爵家は誇り高い騎士の家です。ふさわしい行動をなさい」

「はい!!」


 こうして、セイディも王女のお茶会に関わることが、決まったのだった。


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