第50話 婚活お茶会@辺境伯領(4)
「セイディ様、わたくし、王都のスミス商会のセレーナと申します。お会いできて本当に光栄ですわ」
セイディがテーブルに落ち着き、三人の令嬢達が挨拶を済ませ、セレーナがセイディと話し始めたところで、オーロラは席を離れた。
オーロラが席を離れると、さりげなくアスランも寄ってきて、一緒に移動する。
オーロラは会場を見渡して、アデルとグロリアが座っているテーブルへと向かう。
そこにはダントンも一緒に座っていた。
「ローリーちゃん」
オーロラの姿を認めて、アデルがにこやかに声をかけてくれる。
「アデル様、グロリア様、失礼いたします。あの……ダントン様にお声がけにまいりましたの」
「まあ。ダントン、聞いた? 心して拝聴するようにね」
グロリアもにっこりと笑う。
「あの、ダントン様。わたくし達———セイディ様も、あの丸テーブルにおりますの。お時間のある時に、よろしければお立ち寄りください。皆さん、ダントン様とお話ししたいとおっしゃって」
ダントンも微笑みながらうなづいた。
「それは光栄です。はい、かならず伺います。その前に、二、三、知り合いの方に挨拶を済ませておきますね」
「はい、お待ちしております」
オーロラが再び二人の貴婦人に会釈して、アスランを従えてテーブルに戻る。
一方、ダントンは知り合いに挨拶をするためにテーブルを離れた。
「……アデル、あなたは本当に幸運な人ね」
グロリアが言うと、アデルはこてりと頭をかしげた。
「まあ。グロリア、どうしたの急に」
「知っているでしょう。わたくし、真剣にダントンのお相手を探しているのよ?」
「ええ。それは存じていますわ」
グロリアは苦笑しながら、丸テーブルに戻るオーロラとアスランを眺めた。
「ローリーさんには、すっかりと護衛騎士がついているではありませんか。あれでは、殿方は声をかけられませんわよ?」
アデルも苦笑した。
「ええまあ。ラン君もわかっていると思うのですけれど」
「あれでは、ダントンも声をかけずらいわ」
グロリアが軽く抗議をする。
「でもローリーちゃんがダントンに声をかけに来たからいいじゃないですか」
「まあ、アデルったら」
話の中心になっているダントンは、その時、オーロラのテーブルに合流するところだった。
「……ところで、あのお嬢さんをどう思います?」
グロリアが扇の下から、そっと一人の背の高い令嬢を示す。
「ああ。あの方は、王都のスミス商会のセレーナ嬢ですね?」
「ええ。当家で開催したお茶会にも来てくださってね」
グロリアとアデルがそんな話をしていると、オーロラが席をずれて、ダントンの隣をセレーナに譲ったのが見えた。
「ローリーちゃんがとても聡明な方だと言っていましたわ。あなたのところのお茶会で仲良くなったようで、お手紙の交換をしていますのよ」
「まあ、そうでしたの?」
二人の貴婦人はおしゃべりをしながらも、各テーブルの観察に余念がない。
一方、オーロラはまたテーブルを離れ、会場でまた別の男性を見つけて、丸テーブルに連れてきた。
くるくるした金髪の、少年のような男性だ。
一人の女性がぽっと顔を染めている。
「……あれはオーウェン商会のエドガー様ですわね。ハミルトン伯爵家のメーガン嬢が嬉しそうですこと」
グロリアがつぶやいた。
そしてどうやら令嬢達のために意中の男性に声をかけているらしいオーロラを見ながら首を振った。
「ねえ、アデル。やはり、あなたは幸運な人だわ。見てごらんなさい。ローリーさん、令嬢達の間で引っ張りだこだわ。みんなびっくりしているでしょうね。会場で注目の的の令嬢が、あんなに気さくに参加者達の間を取り持とうとしているなんて。このお茶会は大成功になるわよ。あんな可愛いホステスがいるんだから。ご自身のお相手探しは後回しでいいのかしら?」
その時、令嬢達と立ち話をしているオーロラに背後から近づこうとしていた男性に、アスランが鋭い視線を投げた。
男性は慌てて離れていく。
グロリアとアデルはまた苦笑した。
「ローリーちゃんの従者が優秀すぎて、見ていておかしいわ」
そして二人の貴婦人は扇の下で思いきり笑ったのだった。
その時、オーロラは会場をぐるりと見渡した。
そして顔を合わせて笑っているらしいグロリアとアデルの様子が微笑ましくて、つい自分もくすり、と笑ってしまう。
その時、ふと、オーロラは何かを感じた。
何かがじっと背中に張り付くような、そんな気配のようなもの。
振り返った先には、一人の青年の姿があった。
青年と目が合う。
それは線の細い、痩せた青年だった。
今まで見かけたことはない。
(どうかなさったのかしら?)
オーロラは不思議に思いつつも、軽く会釈をすると、青年も丁寧に会釈を返した。
柔らかな金色の、ウェーブがかかった髪が印象的な青年だった。
しかし、その表情が妙に暗いのが気にかかった。
「ローリーお嬢様、どうかしましたか?」
アスランがオーロラに声をかけた。
(アスランが気がついていないのなら、大事なことはないわね)
オーロラは軽く頭を振った。
「何でもないわ。思ったより人が多いなと思って」
アスランもうなづいた。
「そうですね。お嬢様、いったん、テーブルに戻られてはいかがですか?」
「そうするわ」
アスランにエスコートされて丸テーブルに戻る時には、金髪の青年の姿はもう見えなくなっていた。
***
お茶会は盛況だった。
オーロラのテーブルは大人気で、何もしなくても、男性達が入れ替わり立ち代わりやってくるようになった。
しかし、ローリー嬢目当ての男性達はなかなか苦労をしていた。
男性がローリーに話しかけに来ると、オーロラの背後にいるアスランがまるで忠実な番犬のように、恐ろしい顔で睨みつけるのだ。
しかし、後ろが見えないオーロラには、何が起こっているのか、さっぱりわからない。
「き、きみのところの従者、すごい迫力だね……?」
男性がたじたじとなりながら言うと、オーロラは困ったように笑って、頭をかしげた。
「ええ、ラン君は独占欲が強くて」
「!?」
オーロラののんびりとした返事に、当の男性達は身の危険を感じて慌てて立ち去るのだった。
その様子にひそかに気づいたセイディは目を丸くしていた。
そして、出会いが起こる。
一人の年配の男性がテーブルに来た時だった。
シルヴィが真っ赤になって、言葉を失ったのだ。
「……シルヴィ様?」
隣に座っているオーロラがそっと声をかけると、シルヴィはあわてて扇で口もとを隠した。
当の男性は、穏やかな微笑みを浮かべて、そんなシルヴィを見つめている。
オーロラはそっと立ち上がった。
「どうぞ、ここへお座りください。わたくし、飲み物を取りに行ってまいりますわ」
「「「あ、それなら私が」」」
そう申し出る男性達を、アスランは視線だけで制した。
無言でアスランはオーロラの後ろについていく。
セイディが隣に座る兄のダントンにこっそりと声をかけた。
「……ローリー様は大人気ですわね? ご本人は気づいていないようですけれど。わたくし、あちらでちょっとローリー様に声をかけてみますわ。お兄様はどうぞ、セレーナ様とお話をなさって」
「セイディ、そんなに気を使わなくていいんだよ?」
ダントンはそう言ったが、セイディはぱっと立ち上がって、オーロラを追った。
「ローリー様」
そうセイディが声をかけた時に、事件が起こった。
会場がざわめく。
見るからに高価なドレスを身につけた、一人の令嬢が来場したところだった。
オーロラとセイディはその令嬢を信じられないように見つめる。
「まさか———イベット嬢!?」




