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呪われた伯爵令嬢は、婚約破棄にもひるまない  作者: 櫻井金貨
第3章 ローリーお嬢様の婚活

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第49話 婚活お茶会@辺境伯領(3)

 いよいよ辺境伯領で初の開催、婚活お茶会の当日になった。


 主催者である辺境伯夫人のアデルとともに、オーロラもまた、お茶会では主催者側としてお客様をお迎えする予定だ。


 そんなオーロラだったが、朝の時間をのんびりと窓辺で過ごしていた。


 大きめの鉢に植え替えられたひまわりの苗は、オーロラの部屋の、日あたりのよい窓際に置かれていた。


かなり背が高くなったひまわりは、中庭に植えた方が大きくなるのでは、と侍女のエマにも言われたのだが、オーロラは手もとに置いて、毎日育っていく様子が見たい。「そうねえ」と言っては心を決めかねていた。


「お花が咲いた瞬間を見逃したくないんですもの」


 そうオーロラが言うと、エマは微笑んだ。


「まだつぼみも出ていませんわ。地植えにすると、ひまわりは本当に大きくなるんですのよ。お嬢様より背が高くなるんです」


「そうねえ。でもラン君と約束したから。ひまわりのお花の謎を見極めるって。だからやはり、ひまわりはしばらくここに置いておくことにするわ」


「かしこまりました」


 エマはうなづいた。


「さ、そろそろ朝食を召し上がってください。今日はいよいよ白かもめ亭での婚活お茶会ですから。ドレスなどのお荷物は、ランさんがもう馬車に運び込んでいるんですよ」


「まあ」


 オーロラは目を丸くした。


 アデルの手伝いをしながら準備をした、辺境伯領での初の婚活お茶会。

 アデルは着替えや休憩用に、部屋も予約していた。

 お茶会で着るドレスなどもそこに持ち込んで、お茶会前に着替える手はずになっている。


「今回のお茶会は出席者も多く、お部屋の予約をされる方もたくさんいらっしゃるそうです。白かもめ亭のおかみさんも喜んでいましたわ。もう大忙しですって」


「まあ、それはすごいわ」


「朝食が済んだら、着替えましょう。奥様に出発の時間を確認いたしますね」

「ありがとう、エマ」


 デキるエマの給仕は早い。

 あっという間に食事を済ませると、オーロラは着替えのために寝室へと誘導されたのだった。


***



 オーロラはいささか緊張した表情で、アデルの隣に立っていた。

 辺境伯領での婚活お茶会会場、白かもめ亭。

 会場となるホールには、お茶会の主催者である辺境伯夫人アデルが立っていて、お客様の到着を待っていた。


 アデルの隣には、王都での婚約破棄騒動の後、辺境伯夫妻に世話になっている、実はアレックス王子の元婚約者であり、フォレスティ伯爵令嬢であるオーロラが、辺境伯の遠縁の令嬢『ローリーお嬢様』として、並んで立っている。


「……緊張しますか、お嬢様?」


 オーロラにそっと話しかけるのは、ローリーお嬢様の従者役を務める青年。

 しかし実際はアデルの甥である青年騎士のアスランだった。


「そうね、ちょっと」


 オーロラが答えると、アスランはそのあざやかな青い瞳で、オーロラをじっと見つめた。


 知らずにオーロラの頬が少し赤くなる。

 アスランはいつも自分に気さくに接してくれるが、実際はとても顔だちの整った、まるで王子様のような、ケチのつけようのないイケメンなのだ。


 従者になっている時にはメガネをかけて、美しい青い瞳を隠しているのが本当にありがたいくらいにドキドキしてしまう。


「大丈夫です。ローリーお嬢様は、素晴らしいです」

「!!」


 恥ずかしげもなくそんなことを言われては、オーロラの顔はますます赤くなるばかりだった。

 口をはぐはぐさせているオーロラを見て、アデルが微笑んだ。


 外から、馬車が止まる音がした。


「お客様が到着されたみたいよ」


 アデルの一声に、オーロラとアスランは、ぴしりと背中を伸ばした。


 そして。


「ローリー様ぁ!!」

「お久しぶりですっ! またお会いできてうれしいですわ!」


「!?? あなたは———グロリア様のところでお会いした———」

「はい! シルヴィでございますわ! お手紙のお返事ありがとうございました」

「わたくしはメーガンでございます。お久しぶりです。セレーナ様も、すぐそこにいらしていますのよ……あ、いらっしゃいましたわ」


「ローリー様! お久しぶりでございます……!」


 オーロラは驚いているうちに、あっという間に、令嬢達に囲まれてしまった。


 しかし、一人の令嬢が、アデルに気づく。


「はっ! シルヴィ様、辺境伯夫人のアデル様ですわ!」

「失礼いたしました、アデル様」

「お初にお目にかかります。ハミルトン伯爵家のメーガンでございます」

「パーシー子爵家のシルヴィでございます」

「わたくしはスミス商会のセレーナでございます」


 美しく装った令嬢達が、丁寧にカーテシーをする。


「実は、少し早めにまいりまして……ローリー様とお茶会の前に少しお話しできたらと」

「ええ! お手紙でいろいろご相談させていただいているのですが、実際に会ってお話ししたいことが」


 仲の良さげな令嬢達の様子に、アデルは目を細めて了解した。


「構いませんよ。どうぞ会場にお入りください。お席はいろいろご用意しておりますのよ。皆さんが到着されるまで、ゆっくりとお過ごしくださいな。ローリーちゃん、皆さんをご案内してあげて」


「はい、アデル様」


 オーロラの返事に、令嬢達の明るい声が重なった。


「「「ありがとうございます、アデル様!!」」」


「さあ、皆様、どうぞこちらのテーブルへ」


 オーロラが丸テーブルに令嬢達を連れていくと、彼女達はわっとオーロラの装いを褒め始めた。


「まあ……ローリー様、先日のドレスも素敵でしたが、本日のドレスも、よくお似合いで。とても素敵ですわ!」


「ええ。白のドレスがとても清楚で印象的だと思います」

「このドレスはアデル様とお仕立てになりましたの?」


 そう———オーロラが着ていたのは、アデルと一緒に仕立てた二枚の白のドレスのうちの一枚。

 白一色のシンプルなドレス。

 しかし、そでもスカート部分もたっぷりとふくらんだ、愛らしいドレスだった。


 アクセサリーもシンプルにオパールで作られたカメオのネックレスのみ。


 オーロラはうなづいた。


「はい。お茶会で着たドレスは二枚とも、辺境に来てから、アデル様が作ってくださったものなんです」


「さすがですわ。アデル様は趣味がよろしいですから。ローリー様によくお似合いのドレスに仕上がっていると思いますわ」


 ほっそりとして背が高く、いつも冷静な印象があるこの令嬢は、スミス商会のセレーナ嬢だ。

 お世辞ではなく、正直にいいところはいいと褒めてくれる人柄の持ち主だった。


「ありがとうございます」


 オーロラは心からお礼を言った。

 セレーナは満足そうにうなづく。


「失礼いたします」


 そっと声をかけて、従者のラン君ことアスランが令嬢達にお茶を運んできた。

 一同にお茶を配ると、またそっと下がっていく。


「実は、ローリー様。今日のお茶会は、かなり自由な感じになりますでしょう?」


 そう言って話を切り出したのは、ハミルトン伯爵家のメーガンだった。


「わたくし、お手紙でご相談させていただいたように、あの、オーウェン商会のエドガー様と、もう少しゆっくりとお話ししたいと思っておりまして。でも、たとえ会場内であっても、二人きりでお話しするのはまだ心の準備が」


 わかりますわ、という雰囲気で、シルヴィとセレーナもうなづく。


「わたくしは、シリュー侯爵家のダントン様が気になりますの」


 微笑みながら、はっきりと言い切ったセレーナに、メーガンとシルヴィが「きゃー!!」と叫んで盛り上がった。


「まあ」


 オーロラも堂々としたセレーナに感心した。


(ダントン様に好意を寄せている令嬢は多いと聞くわ。堂々と気になる、と言えるセレーナ様、素敵だわ)


「ローリー様は……?」


 まるで小さな動物のように、頭をかしげてシルヴィがたずねた。


「わたくしは、まだ……特別にこの方、というのはないんですの」


 オーロラは正直に言った。

 テーブルにいる三人の令嬢達を見る。


 身分はそれぞれだけれど、皆、まじめに婚約者候補を探そうという令嬢達だ。

 でも、自分もそうだけれど、男性と話すのはまだまだ慣れていない。

 聞きたいことがあっても、うまく聞けるかどうか。


「そうだわ!」


 オーロラはあることを思いついて手を叩いた。


「よろしければ、皆で一緒にお話しすることにしませんか? 自由に歓談するお時間の中で、わたくし達でテーブルをひとつ確保して、エドガー様とダントン様をお招きするのです。それに、もう二人ほど男性も必要ですわね。それで、一緒にお話しするのです。聞きにくい質問でしたら、わたくしが代わりに聞くこともできますわ」


「それはいい案ですわ!」

「心強いです!」

「はい、ぜひ!」


「シルヴィ様も気になる方がいらっしゃいましたら、教えてください。その方も来ていただきましょう」

「はい、ローリー様。ぜひお願いいたします!」


 これで作戦は決まった。

 丸テーブルに集まったオーロラ、メーガン、シルヴィ、セレーナの四人は、お互いに目を合わせて、うなづく。


(婚約者候補が見つかりますように)


 皆の想いは一緒だ。


 その時、ほがらかなアデルの声が響いた。


「まあ、グロリア! 来てくださって嬉しいわ。お会いできるのを楽しみにしていましたのよ」

「アデル!! 久しぶりね。お元気そうで嬉しいわ!」


 辺境伯領での婚活お茶会は定刻になった。

 美しく装った令嬢達も次々に到着してくる。


 そして、シリュー侯爵家令嬢グロリアは、甥であるダントンと姪のセイディを連れて、華やかに会場に到着した。


 アデルとグロリアはまるで令嬢時代に戻ったかのように、両手を握ってはしゃいでいた。


 いよいよお茶会の始まりだ。

 オーロラも挨拶をすべく、令嬢達にうなづくと、立ち上がった。

 さりげなくアスランも壁際からやって来て、オーロラに寄り添う。


 オーロラが落ち着いた様子でホールを移動すると、白いドレスがふわりと揺れる。

 それはまるで、スポットライトがオーロラに当たったかのようだった。

 ホールに集まり始めた人々の視線がオーロラに自然に集まった。


 婚活お茶会の参加者達の目には、この清楚な白いドレスを着た愛らしい令嬢が、間違いなくこのお茶会の主役の一人に映っているだろう。


 オーロラはアデルとグロリアの前に立った。


 オーロラは誰もが見惚れるような、美しい所作で、白いドレスをつまんでカーテシーをした。


「グロリア様。ダントン様。セイディ様。ようこそおいでくださいました」


 挨拶の言葉を述べ、ゆっくりと顔を上げたオーロラを、セイディはまるで雷に打たれたような表情で見つめた———。


***



「ローリーさん、お久しぶり。お元気そうね? またお会いできて嬉しいわ。ほら、ダントンを連れてきましたよ。それに、この子がダントンの妹のセイディ。セイディ、こちらはローリーさん。辺境伯閣下の遠縁のお嬢さんなのよ」


「初めまして、セイディ様。ローリーと申します」


 オーロラが改めてカーテシーをすると、セイディも同じくカーテシーで返した。


 兄のダントンが王宮騎士団の濃紺と金の騎士服を身に付けているせいか、セイディも同じく濃紺のドレスを合わせていた。


 色合いは地味だが、ふっくらとした袖と、すがすがしい白のリボン飾りで、とてもセイディらしい、さわやかな印象だ。


「ローリー様。初めまして。セイディと申します」


 グロリアは挨拶を交わす二人の少女を微笑ましげに見つめていた。


「セイディ、ローリーさんはあなたと同い年なのよ。仲良くなさってね」

「はい、伯母様」


 セイディがぎこちなげにうなづいた。

 ダントンも言葉を重ねた。


「……セイディ、ローリー嬢はこれまで社交の場にはあまり出られなかったそうだ。あなたからもいろいろ教えてあげるといいよ。ローリー嬢、今日はセイディをよろしくお願いします。後でまたお話ししましょう」


「はい、ダントン様。……セイディ様、あちらのテーブルにわたくしの顔見知りの令嬢方がいらっしゃいますの。ご紹介しますわ。一緒にいらっしゃいませんか?」


「……はい。ありがとうございます、ローリー様」


 二人の少女は少々ぎこちなくその場を離れた。


 会場内には続々とお茶会の参加者達が到着して、あちこちで楽しそうな会話の輪ができていた。


 丸テーブルではまだメーガン、シルヴィ、セレーナの三人が座っていて、オーロラに手を振っていた。

 彼女達は何か、小さな紙を持っている。


 令嬢達の元に向かって歩きながら、セイディは小さな声でオーロラに詫びた。


「……失礼いたしました、ローリー様。あんなにあけすけに見つめてしまって。実は、わたくしの……大切なお友達が、行方不明なのです。それで心配していて……あなたを見た時、あまりにもそのお友達に似ているもので、びっくりしてしまったのです」


 オーロラの驚いた顔を、否定的にとらえたのだろう。

 セイディはあわてて言葉を継いだ。


「でも、もちろん、違いますわ。本当に失礼いたしました。その方はそれは見事な白金の髪をしていて、誰かと見間違えるなんてこと、ありませんもの。それに———いつもシンプルなドレスをお召しで———でも、とてもきれいな方なので、ローリー様が今お召しのようなドレスを着たら、どんなにお美しいだろう、きっとよく似合うに違いないわ、そんなことを思っていたのです」


 セイディは淡く微笑んだ。


「実は。兄が……ダントンが、ぜひこのお茶会に出るように言ったのです。ぜひ、ローリー様と会ってほしいと。わたくし、」


 セイディはまっすぐな目でローリーを見上げた。

 小柄なセイディがいつもオーロラを見上げていたように。


「お兄様はローリー様を気に入ったのだと思いますわ」


 そうして、セイディは笑った。

 オーロラは一瞬、何を言ったらいいのかわからず、黙ってセイディを見つめた。


「ローリー様!」


 丸テーブルからシルヴィが声をかけた。


「ご覧になって。わたくし達、このカードをいただきましたの。なんと、今日気に入った方のお名前をここに書くんですって。もし、相手の方もわたくしの名前を書いたら———」


 シルヴィの顔が真っ赤になった。


「カップルとして最後に紹介されるんですって!!」


 きゃー! と令嬢達が盛り上がった。


「まあ。それは素敵ですこと! さあ、皆様、ご紹介させてくださいませ。こちら、セイディ・シリュー侯爵令嬢。……ダントン様の妹様でいらっしゃいますの」


 次の瞬間、さらに大きなきゃー!! という歓声が上がったのだった。


 シリュー侯爵家のダントンは、令嬢達の人気ナンバーワンだ。

 その注目の令息の妹君ということで、セイディはさっそく大歓迎を受けたのだった。


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