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呪われた伯爵令嬢は、婚約破棄にもひるまない  作者: 櫻井金貨
第3章 ローリーお嬢様の婚活

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第48話 婚活お茶会@辺境伯領(2)

「ねえ、まだ時間はあるわよ? 城に帰る前に、何か必要なものがあったら、買っていきましょう」


 ソレトの宿屋、『白かもめ亭』のおかみさんと従業員達に見送られて馬車に乗り込んだとたん、アデルが言い出した。


「わたくし、もう十分にしていただいてますわ」


 オーロラが答えると、ルドルフへのお土産の羊のローストの包みを抱えたエマが提案した。


「評判のお菓子をいくつか買ってみてはいかがでしょうか? なんでも新商品のリンゴのお菓子が売り出されたとか」


「まあっ!」


 アデルが声を上げた。

 馬車の窓を下ろして、馬に乗って併走しているアスランに声をかける。


「ラン君、新しいお菓子があるんですって! ちょっと商店街の入り口で下ろしてくださいな」


「はい!?」


 アスランは面食らったものの、すぐ護衛騎士のマシューにも声をかけ、馬車は無事に商店街の入り口で止まった。


「さあ、新しいお菓子はどこかしら〜」


 まるで鼻歌を歌いかねない勢いでアデルがマシューの手を取って馬車から降りる。

 目星がついているのか、そのままさっさと商店街に向かっていくのを、オーロラは目を丸くして見守った。


「ローリーお嬢様、どうぞ」


 アスランがオーロラに手を差し出して、馬車から降りるのを手伝ってくれる。

 次にアスランが侍女のエマにも手を差し出すと、エマは声に出さずに『わたくしはいいから、お嬢様と一緒にお行きなさい』と身振りで示して手を振った。


「! ……お嬢様? では、まいりましょうか」

「え。ラン君、エマは?」

「エマもすぐ来ますよ」


 アスランは不思議そうに振り返るオーロラの背中にそっと手をやって誘導する。


 (やった! これはちょっとしたデートではないか!?)


 幸い、アデルとマシューはもう先に行ってしまって、その姿は見えない。

 エマの気配りに感謝しながら、アスランはオーロラをエスコートした。

 前方には、まるで城壁のような、辺境伯領特産のライムストーンで造ったアーケードの入り口が見えていた。


 オーロラはわくわくしながら、商店街に一歩、足を踏み入れた。

 その瞬間、商店街がざわついた。


「まあ、なんてきれいなお嬢様」

「どこのお嬢様かしら」

「見て、あの着こなし。背が高くていらっしゃるから、映えるわねえ」

「ステッキをあんな風にお持ちになって。王都での最新流行じゃないかしら!?」

「お付きの方も素敵ねえ」


 商店街を行き交う女性達が、オーロラとアスランを見て、感嘆の声を上げる。


(ふふ。今日のオーロラ嬢の装いを見ろ。なんて愛らしいんだ……!)


 アスランはまるで自分が誉められているかのように鼻を高くする。


 今日のオーロラは、クリームのコットン地にピンクと赤の小花模様のドレスを身につけていた。


 共布のリボンを髪に付け、四角く開いた胸もと『絶対領域』には、すっかり馴染みになった、ピンクからブルーへと色合いが変化していくオパールを彫り込んだカメオのネックレスがかけられている。


 ピンク色の日差しよけの帽子をかぶり、手には自ら宣言したとおり、アスランが贈ったステッキを握っている姿も愛らしい。


 緑色の目もと、という印象を作るために、オーロラはグリーンのアイカラーを塗っていることが多いが、帽子のリボンにも緑色を選び、調和が取れている。


 アスランにとっては、オーロラはいつだって最高なのだ。


 地味な格好をしていた時も、オーロラの素顔を知っていたアスランにとっては、不恰好な服も気にならなかったし、本来の髪色を隠した『ローリーお嬢様』の姿をしているオーロラであっても、変わらず愛らしく見える。


 アスランはオーロラをエスコートしながらも、満足げにオーロラの姿を見つめていた。

 そんな時だった。


「あ! あれは、何でしょう」


 突然、オーロラが声を上げた。

 アスランがオーロラの視線をたどると、その先には———。


「あれは、花屋ですね」

「まあ! お花屋さん! ラン君、ちょっと見てきてもいいでしょうか?」


 オーロラがそわそわして訴えてきた。


「もちろんです。お嬢様」


 アスランはオーロラをエスコートして、花屋の店先まで歩いて行った。


「わぁ……!」


 オーロラの声が弾んだ。

 それに、目がキラキラとしている。


(令嬢達はドレスショップや宝石店に目が行くと聞くが)


 アスランは明らかに何やら興奮しているオーロラを微笑ましく見つめた。


「お嬢様、中に入ってみましょう? 切り花をたくさん売っていますし、季節の鉢植えもあるようです。ブーケか何か、作ってみますか———?」


 しかし、オーロラが指さしたのは。


「いいえ、ラン君。これ。これです! 『ひまわり』って、何ですか———?」


***



 それは、小さな鉢では不足だと言わんばかりに、ぐんぐんと伸びた、ひまわりの苗だった。


 ちなみにすでに伸びすぎてしまい、下の葉っぱが枯れ始めているので、『ひまわり/半額』の札を付けられてしまっていた。


 太く、まっすぐな茎には、硬い毛のようなものが生え、大きなハート形をした黄緑色の葉っぱが左右に伸びている。


 夏の花。

 笑顔にもたとえられる花。

 辺境伯領ではごくごくなじみのある花のひとつだ。

 しかし。


「……お嬢様は、もしかして、ひまわりをご存知ないのですか?」


 アスランが尋ねると、オーロラはうなづいた。


「ええ。ひまわりは初めて見るわ。 何色のお花なのかしら?」


 アスランは半額の札の付いた苗をひとつ、持ち上げた。


「買って帰りましょうか? 中庭に植えてみましょう。そうしたら、お嬢様も『ひまわり』がどんなお花か、知ることができます」


 オーロラの目が丸くなった。


「それって、ラン君、『教えないぞ』って言っているの?」


 アスランは破顔した。


「そうですよ。教えてしまったらつまらないでしょう。せっかくだから、お嬢様自身の目で答えを見つけてください。大丈夫、夏には咲きますよ。それにお花を見ていたら、なぜ『ひまわり』という名前なのかもわかりますよ」


 アスランはポケットから硬貨を取り出すと、店に入ってひまわりの代金を払った。


「どうぞ。このひまわりは、お嬢様のものです」


 そう言って、アスランはひまわりの苗をオーロラに渡した。

 オーロラの表情が柔らかくなった。


「ふふ」


 オーロラがくすりと笑った。


「すぐわかっては楽しみがなくなりますからね。———ありがとう、ラン君。頑張って育てるわ」


 オーロラはいたずらっぽい表情になると、右手に持っていたステッキを左腕に引っ掛け、突然ひまわりを抱えて走り出した。


「ローリーお嬢様!?」


 アスランは慌てて、オーロラの後を追う。

 意外にも足が早いオーロラは、もう馬車にたどり着いていた。


「アデル伯母様! 見てください! わたくし、ひまわりをいただきましたの」


 そして、追いかけるアスランの前で、オーロラの嬉しそうな声が前方から響いたのだった。


 オーロラの声に続いて、「まああ、お嬢様、手袋が泥だらけじゃありませんかっ!!」と悲鳴を上げるエマの声が聞こえた。


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