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呪われた伯爵令嬢は、婚約破棄にもひるまない  作者: 櫻井金貨
第2章 婚約破棄

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第28話 呪いの告白

「あの男達は、死んだのですか?」


 オーロラの低い声が静まり返ったサロンに響いた。

 続いて口を開いたのはデルマス辺境伯ルドルフで、その声はいつもどおりにくつろいだもの。


 魔獣と呼ばれるほど大きな体をしたルドルフだったが、しかし細い目で優しげにオーロラを見下ろした。


「オーロラ嬢、それは、どういう意味だろうか? 私達は、あなたのためにできるだけのことをしようと思っている。だから、何が知りたいのか、説明してくれないだろうか?」


 オーロラはきゅっと両手を握り合わせた。

 テーブル越しにアデル、そしてアスランを見つめる。


「わたくしには呪いがかけられています」


 オーロラは静かに言った。


「わたくしが生まれて間もない頃、王都のタウンハウスにミレイユ王妃がやって来たそうです。それは激しい嵐の夜だったと、母は言っていました」


「!!」


 アデルは青ざめ、青い瞳を大きく見開いて、オーロラを見つめていた。


「『アストリッド・フォレスティの娘、オーロラ・フォレスティよ。おまえに真実の愛の呪いを与える。おまえが真実の愛以外で結ばれた時、呪われるがいい。呪いよ、その時は———相手の男を殺せ』。それがミレイユ王妃の言葉です。母は何度もその時の話をしてくれました。すべての言葉を覚えてしまうほど。わたくしは———」


 オーロラは淡々と言葉を続けた。


「わたくしが、もし『真実の愛』以外の相手と結婚したら、相手の方は死にます」


 部屋は静まり返っていた。


「わたくしがもしアレックス王子と結婚していたら、アレックス王子は死んでいたでしょう。ですから、ずっと婚約を解消したかったのです。そんな事情ですので、馬車から連れ去られた時、あの———あの男には、何もされてはおりませんが、あの男はわたくしに乱暴をしようとしていました。それで、もし呪いが発動していて、あの男を殺していたらどうしようかと」


 オーロラの声が震えた。


「わたくしにはわからないのです。いつ、どんな時に呪いが発動するのか。わたくしは———」


「オーロラ……!」


 アデルが立ち上がって、オーロラのもとに駆け寄ると、オーロラをぎゅっと抱きしめた。


「なんという」


 ルドルフがうなった。


「あなたのご懸念はわかった。オーロラ嬢、安心しなさい。アスランが王宮騎士団に連絡し、あの男達は全員、確保されたと聞いている。まあ、多少ケガをした者もいるだろうが。あなたの父君はあなたを気遣って何も言わなかったのだろう。———まさか、あなたがそんな心配をしていたとは」


 オーロラはほっとしたようにうなづいた。


「閣下、ありがとうございます」

「おいおい、閣下はやめてくれ。急に歳をとった気がする。ルドルフでかまわん」


「え、いえ。そんなわけには」


 オーロラは一瞬、微笑しそうになったが、あわててアスランに向き直った。


「アスラン様、そんな事情ですので、万が一にも、わたくしを助けるため、同情からであっても、求婚しないでくださいませ。あなた様のお命が危険になります。何度もわたくしを助けてくださったあなたを危険にさらすことはできませんわ」


「オーロラちゃん」


 アデルがそっと割って入った。


「そのことは、また後で考えましょう。辺境に戻ってからね? ただひとつ、これだけは言わせてちょうだい。わたくし達は、けして諦めませんわ」


 アデルはオーロラの肩を優しく抱きながら言った。


「呪いを解きましょう」


 アデルは力強くうなづく。


「わたくし達は予定どおり、明日、辺境に戻ります。あなたもよ、オーロラちゃん。そして呪いを解く方法を一緒に見つけるの」


「オーロラ嬢」


 アスランは静かに立ち上がると、オーロラの前に片膝をついた。

 そっとオーロラの手を取り、口づける。


「俺はあなたの騎士です。あなたに初めて会った時から。そしてこれからずっと。どうぞ俺にあなたを守らせてください。あなたの呪いは、俺が解きます」


「あ……」


 オーロラは急に喉がきゅっと苦しくなったように思った。


 幼い頃から、母と二人で戦ってきた呪い。

 母を亡くしてからは、ずっとオーロラ一人の孤独な戦いだった。


 長い時間はかかったが、ようやく、父にも真実を打ち明けることができて。


 さらに今、オーロラと一緒に戦おうと言ってくれる人と、出会うことができた。


「あ、ありがとうございます……!」


 オーロラは再び、深々と頭を下げた。

 大粒の涙がこぼれ、ドレスにぽたりと落ちる。


「オーロラちゃん」


 オーロラの体が引き寄せられた。


「大丈夫よ、大丈夫……」


 オーロラはまるで母のような、アデル・デルマス辺境伯夫人の腕に抱かれ、涙が止まるまでそうしていたのだった。


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