第14話 それぞれの決意(3)オーロラ
その日、フォレスティ伯爵は、気になる報告を受けていた。
王宮での数日間泊まり込みでの勤務を終え、夕方帰宅した時だった。
書斎でコーヒーを飲んでいると、オーロラの教育係兼身の回りの世話を任せているリンネ夫人がやってきた。
「旦那様、実は、お話ししたいことが……。旦那様がお留守中に、オーロラお嬢様が王子妃教育のためにお出かけになった王宮から、護衛騎士に伴われて帰宅されたのです」
「何だって?」
それだけで、フォレスティ伯爵はけげんそうに顔を上げた。
「……帰宅時間は? いつもより遅かったとか?」
「いいえ。お時間はいつもと同じくらいだったかと。ただ、その日、お嬢様はとてもお疲れのようなご様子だったのが気になりました。それに」
そう言うと、リンネ夫人は言葉を途切らせた。
夫人の表情は曇っている。
ミレイユの指示は徹底していて、オーロラに王宮からの護衛騎士を付けるのは王宮に行く時だけ。
学園から行く時には学園から王宮まで、フォレスティ伯爵邸から行く時には、伯爵邸まで護衛騎士が迎えに来る。
オーロラが王宮から帰宅する時には、護衛騎士はつかないことになっている。
今までオーロラが護衛騎士を伴って帰宅したことはなかった。
王宮騎士団に勤務しているフォレスティ伯爵は、その辺りのこともよく理解していた。
王族の護衛も王宮騎士団の任務のひとつ。
王子の婚約者であるオーロラを送ってきたのは、自分の同僚だったと思われた。
「……その日から学園にも行っていないと? では、王子妃教育にも行っていないのか?」
「さようでございます」
フォレスティ伯爵は困惑して首をかしげた。
「オーロラにしては、珍しいことだ。……それでは、王妃殿下が黙っておられないだろう」
「お嬢様は王宮には体調がすぐれないとお伝えするようにとおしゃって。お部屋で過ごされております」
「何かあったのか?」
フォレスティ伯爵とリンネ夫人が心配げに顔を合わせる。
その時だった。
コンコン、とドアをノックする音がした。
「お父様、お話があります。お時間をいただけませんか?」
オーロラの声に、フォレスティ伯爵は急いでドアを開ける。
そこに、白金の長い髪を背中に流し、すっきりとした紺色のドレスを着たオーロラが立っていた。
「大切な———お話です」
☆☆☆
第1章『笑わない伯爵令嬢』はこのエピソードで終わり、次話から第2章『婚約破棄』が始まります。
どうぞ引き続きお楽しみいただけましたら幸いです♡