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第四話 住処


なんとなく手首に着けたバングルを触りながら建物の戸を潜ると、強烈な磯の香りと共に赤茶けた大地と均一に区画整理された建造物が建ち並んでいた。


「なんだってんだ!アイツら。人の事小馬鹿にしやがって!」


疎らに行き交う人々の喧騒の中につい知った声がしてそちらに目をやると、頬を腫らして何やら怒った様子の湊の姿があった。


「湊さん。どうされたんですか?」


駆け寄り声を掛けると、湊は腫れた頬を擦りながら少しバツが悪そうに、

「いやなぁ、担当した奴がネチネチ人の事小馬鹿にした態度でよぉ。むかっ腹立ってつい強く言い返したら警備が飛んできて問答無用にぶん殴ってきやがってよぉ、、、」


ハチは若干引いた顔で、

「それはまぁなんと言うか、大変でしたね」

と返答に困った相槌を打ちながらふと湊の頬を擦る手に気付いて言う。


「あれ?湊さんも橙色だ。」


湊はそれを聞いて更に機嫌悪そうに、

「あのクソアマ、人がぶん殴られてんのみてゲラゲラ笑いやがってよお。それに逆上して少し暴れたら、、、まぁこうなった。」


それには流石に言葉無く気不味く沈黙するしかなかった。


対して湊はというと、バツ悪そうに頭を掻きながら、

「ま、まあしゃーねえヤっちまった事はな。それより何の縁かまた一緒って訳だ。割当てられた居住地もどうせ近いんだろ?引き続きヨロシクな。」


と、何処か誤魔化す様に嘯きながら無機質に並んだアパートメント群の中を居住地に向かって歩き始めた。


どうやらこの地域は東アジアの海域を巡航して来た船舶が停泊する港となっているようで、自ずと一帯に住む居住者も東アジア系統の人種が多くの割合を占めていた。


言語的に東南アジアの国の人同士だろうか?が何か言い争いをしている様子を横目にしていると湊が口を開いた。


「まあ俺達が住む橙の区域にゃ同郷日本人なんて滅多に居ねえ筈だ。なんせそもそも犯罪の少ないお国柄な上に、そこそこ重めの犯罪した奴さんしか来ねえ訳だからな。どうだ相棒?俺が居て良かったんじゃねえかい?」


毎度のフランクな物言いで、なにやら何時の間にか相棒呼びに成っていた。


まあハチとしても、多種多様な民族と文化の入り乱れるこの異国で上手くやって行ける気も無かった為、有難い申し出であった。



そうして歩いて行く内に陽も傾き徐々に人も少なくなって来て、また擦れ違う人の目付きも鋭くジロリとこちらを睨め回す様子が感じ取れる。



居心地悪く少し伏しながら歩いて居ると声を潜めて湊が言う。


「もう此処らから橙の奴等の区域みたいだな。あんまり目を合わせるなよ?もう直ぐ住処に到着するし、初日からトラブルなんて真っ平御免だからな。」


その声に頷き緊張しながらも歩いて居ると、遠くから拍子木を打った様な乾いた音が疎らに聞こえて来た。

だんだんと近付いて来て居る様子なので、堪らず湊に疑問を問う。


「近くで火事でもあったんですかね?拍子木みたいな音が段々と近くに来ている様な気が、、、」


湊は顔を強張らせ、

「ちょっとマズいな。少し急ぐぞ。」


と声早に喋り、肩掛けの重そうな荷物を深く掛け直して走り始めた。

ハチは慌ててその後を追う。


拍子木の様な炸裂音とさらに喧騒も向かう先の方から此方に向かって近付いて来ている様子であり、ハチもこれは只ならぬ事態だと感じ疑問を閉まって湊に追従した。


ふと、先程まで聞こえていた拍子木の音と喧騒が静かになった。

それに反応して湊達も小走りになって進むと、不意に真横からタッタッタと足音が聞こえる。


ドンッ!ドサッ!!


唐突に横路地からハチにぶつかってきた人物は勢いそのままに道の方を転がると慌てて立ち上がり勢いよく文句を言った。


「テメエ!クソっ!この野郎ォ!」


余りの事に目を白黒させて尻餅を付いた状態で静止して居ると、


パンッ!ピシュッ


乾いた炸裂音と頭上直ぐ近くを風を裂く音


「ぎゃあっ!」


思わず反射的に首を窄め声をあげた男の方に目をやると転がった状態で片足を抱えて痛がっている。

抱えた掌の隙間から血が流れた。



「ほらぁ当たった当たった。幾ら私が射撃下手って言ってもこの位余裕よ!余裕!」


「いやいや、今獲物が転んで動いて無かったからだろ?最初っから俺に任せとけば余計な弾使わないで済んだのに。」


「何よ!あんたは面倒くさいからって直ぐ急所に撃って殺すじゃないの。それじゃあクライアントからの評価下るんだからね!」



この緊張した場所に場違いな声を掛け合う男女が飛び出して来た通路から現れる。


「チクショウが。」


転がった男が恨みがましくそちらを睨む。

男女ペアの男が冷酷に見下しながら倒れてる男に近付いた。


「ッんと面倒くせえ、大人しくしてろよ。テメエが何やったか知ったこっちゃねぇが此方も仕事でね。何の抵抗も無駄なの判るだろ?」


言いながら倒れた男を蹴飛ばした。

何時の間にか持っていたナイフが路地の端の方へ飛んで行った。

ウグと呻く倒れた男を物凄い手際で縛っていく。


ハチは尻餅を付いたまま唖然としながらその様子を眺めるしか無かった。

未だハチの後方に立っていた女がハチに向いて言う。


「あら、まだガキじゃない。こんな所で珍しいのね。」



ハチは口をパクパクさせながら「あ、あ、あの、、、」としか声が出せなかったのに対し女が反応する。


「しかも日本人?ホント珍しいわねぇ。坊や、こんな時間にこんな所居ちゃ危ないわよ。ま、御蔭でこっちの手間は省けたけれどね。」


言葉無く見つめて居ると、数歩先に佇んで居た湊がおずおずと声を掛けた。


「自分達、この国とこのエリアに今日初めて来たもので、あの、コレってあの、ハンターって奴でしょ?」


と、女の後方上空に何時の間にかあった飛行ドローンを指差して問うた。

女は胡乱げに湊に目をやる。


「それ以外無いじゃない。なに?今日初日なの?日本人コンビでオレンジエリア配属って一体全体何をやったのやら、、、まあいいわ、助かったのは事実だし。仕事も成功したしコレは餞別よ取っときなさい。」


とバングルから空間投影したディスプレイに触れた。

ハチと湊のバングルが同時に光る。

女は続けて、


「余計な詮索は無しよ。お互いの為にもね。じゃ私達はコレの処理があるから。」


と片割れの男の方に近付いて行った。

何が何だか置いてけぼりだったハチはとかく金銭を受け取ったのは理解して、


「あ、あの!僕はハチって言います。何だか判りませんが有り難う御座います。良ければお名前を伺っても良いでしょうか?」


女は呆れ笑い半分の珍獣を見る目で振り返って、


「はあ、まあいいわ。私の名前はキサ、あっちのはシュウって呼んだちょうだい。東アジアのグリーン地区に住んでるハンターよ。ブッ殺したい人が居るなら依頼しなさい。お金次第で受けてあげるわ。」


「あ、え、あハイ!キサさんシュウさん有り難う御座いました!」


と頭を下げた。

二人は何でも無いとばかりに軽く手を振り、未だ抵抗する男を引き摺りながら日の暮れ始めた街を歩いて行った。




暫く見送った後、ハチと湊は同時に顔を見合わせタメ息を付いて足早に住処へ向かって行った。


そうしてようやくの思いで住処に到着したのはもう日も更け切った頃であった。


其処は良くある2階建て計8部屋のアパートメントで周囲も同じ見た目をした真新し気な建物ばかりで探すのにはほとほと苦労を要した。


やはりと言うか受付をした日付も時間も近かったハチと湊は同じアパートメントであり、ハチが1階一部屋目で湊は2階の一部屋目、つまり上下の部屋であった。



自室のドア上部のセキュリティにバングルを当て解錠し部屋の中に入ってようやくと息を付く。


室内は何も無い1Kの寒さすら感じる部屋であったが、初日から色々あり疲れ切ったハチは頭に浮かぶ疑問の数々もそのままに倒れる様に眠りに落ちた。






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