第二話 行先
「いったい何時になれば着くんだろうなぁ。」
湊はこれで何度目か判らない小言ぶつくさと呟く。
既に船に揺られる事、五日ほど経過しただろうか。
船は時折停止し、その都度様々な人種を乗船させ新大陸へと向かっているらしい。
「にしてもハチ、ほら見てみろ。あっちで固まって居る奴等の目つきの悪いこと。ありゃあチャイニーズマフィアの連中だな。絡まれても相手にしちゃいけねぇぜ。仲間意識の強い奴等だ。手を出そうもんなら地獄の果てまで追って来るって有名だからよぉ。」
一体何が目的なのかは判らないが、湊は彼方此方に話掛けに行ってはハチの元に来てこういった情報を伝えてくるのである。
ふいと疑問に思っていた事を聞いてみる。
「僕達は新大陸に着いて何をさせられるんでしょうか?」
湊は顎に手をやり少し考えながら、
「まあ新大陸つっても6年前までは海の底だった訳だからまだまだ開拓中でなぁ。其れこそ一から国を作ってる状態だからな。ある意味何でも仕事はあるんだが、、、やっぱり一番有名なのはアレだな。」
湊はやけに神妙な顔つきになって言うので思わず尋ねる。
「アレって?」
「門の調査だ。」
「門?」
湊は訝しげな目を此方に向けながら言った。
「何だ其れも知らねぇのかい?まあいいや教えてやろうか。」
ーーー湊曰く、6年前の新大陸が浮上したあの日、新大陸と共に巨大な門が出現し、そしてこの門こそが大災禍の原因だったと言う。
なんでも人類の約4割が死滅した正体不明の病原体はこの巨大な門から発生したらしい。
当時の世は新大陸浮上の余波の対応が優先され、新大陸自体の調査は後回しとされていた。
そして被害は拡大の一途を辿る事となる。
結局其れが原因と判明したのは、新大陸へと誰よりも先行して立ち入っていた当時は名も知名度もなかったとある新興宗教団体からの情報提供によるものだと云われている。
其れからと言うもの、その新興宗教団体は自らを『門守』と称して門の調査管理や更には新大陸開拓の主導といった所謂政府的な立ち位置を築いているという。
湊が言うところ「胡散臭い連中」である。
しかしその役目は『人類』に於いては最重要点とされているるという。
何でも年に一度程度、不定期に門が開き『アチラ側の世界』と繋がる為である。
『アチラ側の世界』とは言ったものの其れは時に正体不明の病原体蔓延る世界であったり、はたまた未知の構成物から成る世界であったりと、よもやそれが別の惑星なのかパラレルの世界なのか未だ判然としない状況にあるらしく、そのビックリ箱とも云える様な門の初期対応の為の人員として世界中から犯罪者が集められているのだという。
ーーーそれを聞いて、ついボソと言葉が口を衝いて出る。
「それじゃまるで生贄じゃないか。」
それに対して湊は苦笑しながら、
「まあそれこそ最初の2〜3年間は生贄の如しで被害は結構出たらしいな。ただ今となっちゃある程度は門を制御出来ていてな。年によっては巨万の富を築いたなんてこともあるし、毎年その様を全世界にライブ中継してるくらいなんだぜ?」
思わず言う。
「制御出来るって言うのなら、わざわざその門ってやつを開く必要はあるんですか?」
湊は困った様に顔を搔いてから、
「あぁ〜何と言うかなぁ、、、まぁ見れば理由も判るんだが、そのなんだ、門が開くのは制御不可能で原因不明なんだ。制御するってのはなぁ、物理的にそれをこう強引に覆っちまってだな。」
ハチはその釈然としない物言いに疑問符を浮かべながらも尋ねた。
「それで僕は新大陸から国に帰れるんでしょうか?」
それに対し、湊はニヤリとして言った。
「生きてたらな。」