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かつて魔王を倒した勇者が魔術師に転生したので世界平和のために尽力することにしました  作者: 結月 香


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8/12

漆:禁断の魔術書

 翌日、学校に戻った私は教室に入ったところでオスカー殿下に声を掛けられた。

 私が探知魔術で探し当てた屋敷を調査した結果について、聖女様から連絡があったそうだ。


 人前で話せる内容でもないので、私は仕方なく殿下の提案で昼休みに裏庭で落ち合うことにした。


 午前中最後の授業が終了し、私は殿下とは別ルートになるように、かなり遠回りして裏庭へ向かった。

 殿下が平民である私を夜会のパートナーにしたことで、ただでさえ女子生徒からの視線が痛いのに、殿下と連れ立って歩いたらまた波風を立てる羽目になってしまう。


「おお、遅かったな」


 殿下は既に、裏庭に設置されていた東屋にいた。

 石造りのテーブルセットには、ご丁寧にランチボックスが二つ置かれている。


「食べながら話そう。遠慮は無用だ」

「わかりました。失礼します」


 私が東屋へ入ると、殿下が結界魔術を発動させた。

 どうやら遮蔽の効果もあるようだ。これなら他人に話を聞かれたり私達の姿が見られることはない。


 殿下が用意してくれた昼食をありがたく頂戴しつつ、殿下の話を聞く。


「アリス殿の話では、リバティ元侯爵の屋敷の地下に、合成魔術を行っていたと思われる部屋が見つかったそうだが、魔術師は兄上とアリス殿の接近を察知したのか、屋敷には誰もいなかったそうだ」

「合成魔術を行っていたと思われる部屋っていうと、中に魔物が捕らえられていたとかですか?」

「ああ、それに加えて、父上の言っていた、紛失した魔術書の一部とみられる紙が数枚見つかったそうだ」

「魔術書の一部?」

「ああ。合成魔術に関する部分だけが破り取られた状態で見つかったそうだ」


 となると、先日皇帝陛下が仰っていた、陛下の兄君が持ち出したと思われる禁書を何者かが入手して合成魔術を行った、という仮説が、いよいよ現実味を帯びてきた。


「……一部が見つかったのなら、探知魔術でその本体が何処にあるのか探せるのでは?」

「ああ、当然、すぐに兄上と、アリス殿の眷属オロチ殿が試したそうだが、本体に遮蔽魔術が掛けられているらしく、追えなかったそうだ。ついでに、その一部を所持していた者も同様で探せなかったそうだ」

「魔術書に遮蔽魔術……?」

「ああ。そこで、お前に相談だ。お前の探知魔術の精度なら、魔術書の本体、もしくは所持していた魔術師を探せるんじゃないか?」

「それはやってみないと……この場で、『できます』なんて安易には答えられません」


 私がそう答えると、それを予想していたらしい殿下はさっと何かをテーブルに置いた。


「そう言うと思って、魔術書の一部を送ってもらった」


 差し出された古びた紙には、確かに魔術に関する術式や魔法陣が描かれている。間違いなく魔術書の一部である。


「探知魔術を試してみて欲しい。魔力が足りなくなるようなら、また俺が貸してやるから」


 夜会の時に魔力切れを起こした要因は、聖剣を呼び、それを使って攻撃したからだ。

 探知魔術程度なら、高精度で行ったところで魔力切れなど起こしはしない。


「わかりました。今なら魔力切れの心配はありませんので大丈夫です」


 丁度食事を終えた私は、ランチボックスを片付けてテーブルに紙を広げた。

 右手を翳して呪文を唱え、まずは魔術書の本体を探す。


 しかしすぐに、霧が掛かったように何も視えなくなる。魔術書に遮蔽魔術が掛けられているのは本当らしい。

 これでは、本体の現在地は掴めない。


 私は、一旦本体の行方は諦めて、魔術書に僅かに染み付いている持ち主の気配を辿ることにした。


 こちらも、辿ってすぐに何も視えなくなったが、しかし私は、この魔力の主を知っている気がした。

 思えば、あのキメラの気配から察知した魔力の気配と同じだ。あの時は、残っていた気配が薄すぎたのと、魔術師の行方を追うために焦っていたのもあって、その魔力の主が誰であるまで頭が回らなかった。


「……視えたか?」

「いいえ。遮蔽魔術が掛けられていたので、私にも追えませんでした……でも、この魔術書の一部を所持していたとみられる人物の魔力は、知っている人のものだと思うんですよね……」

「それは本当か?」


 殿下が目を瞠る。

 私はこめかみに指を当ててうーんと唸った。


「……あ」


 思い出した。


 この魔力の人物。

 昨年、魔術専科の下級生と合同授業をした時に、一人突出した才能を有していた生徒がいた。

 彼女の魔力と一致している気がする。


 魔術書の一部に残っていた魔力もとても微量なので、確信とまではいけないが、しかし、元勇者の私の勘はイエスだと言っている。

 勇者の特殊能力なのか、こういう勘はよく当たるのだ。


「……一つ下の学年の、セシルさんです」

「セシル? まさか、セシル・ステージアか?」

「ええ……家名までは把握していませんでしたが、魔術専科でセシルという名前の学生は彼女だけかと……」


 魔術専科は、平民でも入れる学科であるため、学校の計らいで基本的に生徒同士は名前で呼び合うように指導されている。在学中は家の地位は関係なく、あくまでも成績優秀者が優遇されるようになっているのだ。

 そのため、他の学年になると余程有名な生徒でない限り家名を知らないということはよくある。

 まぁ、それでなくても私は他人にあまり興味がなくて他学年の生徒の名前なんてほとんど把握していないのだけど。


「……セシル・ステージアはリバティ元侯爵の血縁だ。今は騎士団の監視下にあり、休学中のはず……」


 殿下の言葉に、はっとする。

 そうだ。失脚したリバティ元侯爵の親戚の生徒が、この学校にもいたのは私も知っている。


 魔術書の一部に残っていた魔力の主が、リバティ元侯爵の親族だとすると、途端にきな臭くなってくる。


「いくらなんでも、騎士団の監視下でキメラを生成して、召喚の魔具を城に仕掛けるなんて、流石に不可能なんじゃ……?」


 国立騎士団は優秀な人材ばかりだ。

 中には多少なりとも魔術が扱える者もいる。

 騎士団の監視下にあるという時点で、セシルはおそらく魔力封じの処置をされているはずだ。

 そんな中で、高度な合成魔術で魔物を合成して、城に魔物を召喚する魔具を仕掛けられるとは、到底思えない。


 セシルは私の一つ下の学年、つまり現在十七歳のはず。その年で、もしもそんなことを実際にやっていたとすれば、それは帝国にとってはとんでもない脅威だ。

 

「……魔力封じの魔具を装着されていても、魔具は使用することができる……例えば、転移の魔具と、幻影を映し出す魔具を隠し持っていて、騎士の隙を見て自分の幻影を見せる魔具を起動し、転移の魔具でリバティ元侯爵の屋敷へ移動、魔力封じの魔具を外す魔具をそこに置いておいたら、いくらでもキメラを生成することが可能だ」


 まさか、十七歳の少女が、そんな大胆なことをするとは流石に誰も思わない。

 騎士団の監視下にあるとはいえ、彼女自身を疑って監視している訳ではなく、あくまでも犯罪者の血縁故に、念のため裁判終了まで身柄を預かることになっただけなのだ。


 セシルの印象は覚えている。

 とても真面目で大人しく、礼儀作法も貴族マナーも弁えた淑女だった。


 だが、どの世界のいつの時代も、悪党ほど表面上はいい人を演じるのが上手かったりする。


「……殿下、セシルさんと会うことはできますか?」

「ああ、行こう」


 殿下が立ち上がって、東屋を出ると同時に結界魔術が解除される。


 と、私と殿下の前に、リリアナが鬼のような形相でやってきたのだった。

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