壱:クラスメイト
この小説は『 最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました』と同じ世界観のお話です。
その日の探知魔術の小試験の結果は、リオネルとリリアナが僅かに間に合わず不合格、私とオスカー殿下、ディランの三人が合格となった。
「くっ……殿下はともかく、平民ごときにこの僕が負けるなんて……!」
悔し気に吐き捨てたのはリオネル・ランティス・アビエテアグロ。
帝国配下のアビエテアグロ公国の第一公子であり、そのことを誇りに思っているため、いちいち地位や身分を盾にしてきて正直面倒臭い男である。
「魔術専科において身分は関係ないって、レナード先生にぶちのめされて思い知らされたんじゃなかった?」
思わず強めの口調で言い返すと、彼は顔を真っ赤にして怒り出した。
「なっ! 何だとっ! 平民の分際で……!」
「だったら魔術で勝負する? ああ、別に魔術なしの体術でもいいけど」
私が微笑んで見せると、彼は途端に狼狽えた。
実は入学直後に同じようなことで口論になり、挑んで来た彼を魔術あり、魔術なしどちらの勝負でも返り討ちにしたという経緯がある。
そして平民であるレナード先生にも、身分を理由に横柄な態度を取って、魔術の授業でぶちのめされている。
それ以来、彼は私にもレナード先生にも変に絡むことはなくなった。
「リオネル、やめろ。見苦しいぞ」
しばらく成り行きを見守っていたオスカー殿下に一喝されて、彼は悔しそうにしながらも口を噤んだ。
公国の公子である彼も、公国が属する帝国の第三皇子には逆らえないのだ。
「流石です、オスカー殿下」
頬を赤らめながら彼を賞賛するのは、リリアナ・ジューク。ジューク侯爵家の長女で、彼女の父は現国立魔術師団の団長を務めている。
根っからの貴族令嬢かつ魔術師エリート一族の出身であることから、リオネルほどではないが、彼女もまた私とディランを見下している節がある。
同時に、誰がどう見てもオスカー殿下に想いを寄せており、彼が私に話しかける度に私を睨んでくるので辟易している。
「事実、お前よりもラシェルとディランの方が魔術師として優れている。魔術専科の授業の成績において、二人がお前より下だったことはない。それを、身分を理由に侮辱するなら、俺がお前の処遇を校長に進言しても良いんだぞ」
オスカー殿下がそう言うと、リオネルは悔しそうな顔のまま、身を翻して教室を出て行ってしまった。
「……ったく。何のために魔術専科に特待生制度があると思っているんだか……」
やれやれ、と嘆息して、殿下は私を振り返った。
「気にするなよ、ラシェル」
「大丈夫です。最初から微塵も気にしてないので」
きっぱりと答えると、オスカー殿下は一瞬虚を突かれたような顔をして、それから面白そうにクスクスと笑った。
「そうか。お前、大物だな」
「褒め言葉として受け取っておきます。ありがとうございます」
なるべく素っ気なく、リリアナを刺激しないように答えると、私も教室を出ようと踵を返す。
今日の授業はこれで終了だ。
「ああ、ちょっと待ってくれ」
教室を出る直前、追いかけて来た殿下に呼び止められて、仕方なく足を止めて振り返る。
リリアナの前で殿下と話すのは避けたいが、皇子である彼を無視することはできない。
「何でしょうか?」
「お前、十日後の夜は暇か?」
「暇ではないですね」
実際は全寮制の学生であるため夜の予定など基本的に無いが、暇かと問われて暇だと答えるのは癪なので、そのように即答する。
実際、特待生は魔術の成績が悪いと退学になってしまうため、毎日授業以外でも魔術の勉強をする必要がある。
私はそれほど熱心に毎日勉強している訳ではないが、勉強する予定というのは言い訳として使える。
「まぁ、暇ではないと言われたら第三皇子の名を使って呼び出すだけなんだが……城で開催される夜会に俺のパートナーとして参加してほしい」
「……え、嫌です」
この時の私は、心底嫌な顔をしていたと思う。
オスカー殿下も、ここまできっぱり嫌だと言われるとは予想していなかったのか、一瞬言葉を詰まらせていた。
「殿下には、もっと相応しい貴族令嬢がいらっしゃると思いますよ。何も平民の私を選ばなくても」
「俺にも色々事情があってな。強い魔力を持った相手でないと、今回俺のパートナーは務まらないんだ」
「それなら尚更、リリアナさんの方がよろしいのでは?」
私が小声で、まだ教室に残っていて私達の会話に聞き耳を立てている彼女を指すと、殿下はぶんぶんと首を横に振った。
「アイツを指名したら、そのまま結婚まで引き摺り込まれかねないだろうが。今回のお前にパートナーを頼んでるのは、それを防ぐためでもあるんだよ!」
ああ、彼は彼女の好意に気付いていたのか。まぁ、あれだけわかりやすければ当然か。
「ええ、でもぉ……」
なんとか断る方法はないかと思考をフル回転させていると、彼は不敵な笑みを浮かべた。
「受けてくれるなら、報酬は弾むぞ」
「ほ、報酬?」
「金貨百枚でどうだ?」
それは破格過ぎる額だ。一般的な平民男性の平均年収が金貨二十枚程度なのだから、単純にその五倍。
思わず言葉を呑み込むと、殿下は勝ち誇った笑みを浮かべて私の肩を叩いた。
「交渉成立だな。ドレスはこちらで用意する。報酬は夜会が無事に済んだら支払うから、頼んだぞ」
私の耳元で囁いて、彼は教室を出て行ってしまった。
当然、残された私を、リリアナが物凄い怖い顔で睨んでいて、それをディランが心配そうに見比べている。
私は溜め息を吐いて、彼女とは目を合わせないようにして教室を出るのだった。
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