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終:皇子の求婚

この小説は『 最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました』と同じ世界観のお話です。

 とりあえず、卒業まではまだ約一年あるので、聖女様からの申し出は一旦保留とさせてもらった。

 卒業までには結論を出す、それまでの間に何か協力できることがあれば遠慮なく言って欲しいと伝えるよう聖女様の眷属、ガリューという名の仔狐に頼むと、彼はぴょこぴょこ飛び跳ねるようにして去っていった。

 その後ろ姿まで愛らしい。あんな眷属なら私もほしい。


「……卒業までに、本気で口説くしかないか」


 殿下はそう呟いて嘆息する。


 折角特待生として入れた貴族学校を中退するのは避けたいが、いっそ逃げ出した方が良いのではと思えてしまう。


「……殿下は、私のどこがいいと仰るのですか?」


 現時点で彼の口から聞いているのは、彼の直感的な話だけだ。

 正直、彼が私の何を良いと思っているのかわからない。


「俺に媚びないところ。真面目なところ。正義感が強いところ。あと、顔も好みだ」


 臆面もなくつらつら答え、それから少し視線を落とす。


「……最初は、平民出身で特待生というお前に、純粋に興味をもっただけだった。だが、気付いたら自然と目で追っていて、いつの間にか好きになっていた。でもお前は俺に興味ない様子で、話しかけても素っ気ない。何とか繋がりを持ちたくて、夜会のパートナーを頼んでも、第一声は拒否。仕方なく報酬で釣るなんて、情けないよな」


 自嘲気味に唇を歪める殿下に、私はなんだか申し訳ない気持ちになる。


「なんか、ごめんなさい……」


 まさか殿下が私に好意を抱いているなんて微塵も想像していなかった。

 それだけ、私が殿下と関わらないようにしていたということでもあるのだけど。


「まぁ、これから興味をもってくれたらいいさ」


 肩を竦める殿下に、私はふと目を瞬いた。


「……殿下って、どれが本当の殿下なんですか?」


 学校生活で見せている顔、夜会で見せたよそ行きの顔、そして今二人きりでいる時の顔、全部違う。

 今まで、彼は本心を上手に隠しているように見えていた。

 学校での立ち振る舞いも、皇子としての威厳を保つためにあえてそうしているように思えていた。


 私の質問に、殿下は少しだけ思案する素振りを見せた。


「あまり意識したことはないが……お前相手だと、楽に息ができると思っている。だから、今が素なんだろうな」

「そうですか」

「こんな俺は嫌か?」

「いえ、今の方が人間らしくて話しやすいです」


 まぁ、よそ行きの顔の時のように、丁寧語で話されるとアリオンを想起させて落ち着かないっていうのもあるのだけど。


 そう答えると、殿下はその答えが意外だったのか、頬を紅くして「そ、そうか」とだけ呟いた。

 それから少しの沈黙の後、彼は私の手を取った。


「……お前が本気で俺のことが嫌いなら諦めるが、そうじゃないならこっちも退く気はない。外堀も埋めるし、本気で口説く。覚悟しろよ」


 そう言って、私の手の甲にそっと唇を落とす。

 筋金入りの皇子である彼がそれをすると流石に様になるし、それだけでなく、アリオンと同じ顔でそういうことをされると心臓に悪い。


 彼はぱっと手を放すと、不敵な笑みを残し、そのまま踵を返して去って行ってしまった。


 私は、熱くなる頬を両手で押さえ、思い切り天を仰ぐしかなかった。

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