第17話 魔獣大進行
時は遡り、トウヤ達が旅立った後の夜
晩飯を食べようとラーザとシスの2人はエオーネの店へと入ろうとしていた
取り付けられた鈴が耳障りの良い音を立てながら扉が開かれる
「こんばんはーエオーネ来たよ・・・って、どうしたのフィリア?」
「どうした・・・、何かあったのか?」
そんな2人の目に飛び込んできたのは、カウンター席で何処か重い空気を纏うフィリアの姿だった
余りにも珍しい事態に何事かと困惑する
「あら、いらっしゃい2人とも」
「大丈夫、気にしないで」
「気にしないでって・・・珍しくそんな空気出してたら、なぁ?」
ラーザとシスはお互い顔を見合わせるが、ヤケに楽しげな様子でエオーネが美しく笑う
「大丈夫よ、さっ座って」
「お、おう・・・」
「まぁエオーネがそう言うなら・・・」
促されるままに渋々と言った様子でいつものテーブル席に座る2人ではあったが、つい気になってしまい2人でメニューを見ながらも、端からチラチラとフィリアの様子を伺ってしまう
「なぁ、アイツ今日どうしたんだ? あんな負のオーラ纏う様な奴だったか?」
「ヒーローになったばかりの頃はあんな感じだったけど・・・うん、やっぱり何かおかしいわね」
必死にメニューの影へとお互いの顔を押し込み合い、小さな声でコソコソと話し合う2人
客観的に見れば挙動不審なのは火を見るよりも明らかであるが、彼らはそのことに気付かない
そんな彼らを微笑ましく思いながらも、遠回しにでも何かヒントを与えなければ彼らのお節介な性格を考えれば何かしでかさない、そう考えたエオーネは仕方ないと思うと、柑橘系の果汁をいれた水をコップに注ぎ、彼らの元へと向かう事にした
「はい、2人とも注文は決まった?」
コップを2つ、テーブルに置きながら美しい微笑みを浮かべると2人はつい先程まで自分達が隠れていたメニューへと急いで目を通し始める
「えーとそうだな、何にする?」
「ちょっと待って・・・ごめん、何も浮かばないから先決めてもらっても良い?」
明らかに動揺しているのが目に見えてわかり、エオーネはついクスリと可憐な笑みを浮かべてしまう
「2人とも」
顔を2人に近付けると小さな声で呟く
「少しの間フィリアの事、見守ってあげてね、あの子、トウヤが遠い和国に行って心配してるだけだから」
エオーネの言葉に2人は合点が行ったという様子を浮かべるが、ついで再び困惑した様子を露わにする
「あれ? トウヤって確か和国の出身よね?」
「そうだよな、心配する要素って・・・あるか?」
それは自分達が和国に旅立つ彼を心配した時に言われた言葉でもある
しかし、その言葉を発した瞬間、エオーネは可憐に楽しげな様子を露わにする
「あの子も青春真っ盛りの乙女って事よ」
そう美しく唇に人差し指を当てると、カウンターへと戻っていく
残されたラーザはエオーネの言葉に疑問符を浮かべていた
「せい・・・どういう事だ? なぁ、シス・・・? ん? おーい、シス?」
隣に座るシスに声をかけるが、彼女は頬に両手を当て紅潮させながら目を輝かせていた
「え、うそ・・・うっそぉ・・・えぇ・・・」
彼女の中で、今のフィリアへの印象がガラリと変わってしまい興奮を隠せないでいる
顔を綻ばせながらも温かい視線をフィリアの背中へ向けて投げ付ける彼女の様子に、ラーザは顔をフィリアとシスの両者の間をなん度も行きかわせながらも頭を悩ます
「わかってないの俺だけかよ・・・」
そうため息を吐くのであった
暫くは興奮冷めやらぬ様子を見せていたシスではあったが、落ち着きを取り戻して来たので2人は料理を注文した
届いたエオーネ特製の薄い専用の鉄鍋に盛り付けられた海鮮や野菜の乗ったスパイス炊き込み飯を舌鼓していると、扉が開く音と鈴の音が店内に響く
「いらっしゃい・・・あら、これはまた」
出迎えの挨拶をしたエオーネが来訪者の姿を見た瞬間、可憐な驚きの表情を浮かべる
その表情にフィリアもつられて扉へと目を向けると、そこには懐かしい人物が立っていた
「あの、トウヤさん・・・って、ここにいらっしゃいますか?」
「天華・・・」
鎧の勇者、雨宮天華が何処か緊張した面持ちをしながら立っていたのだ
なんか切りが良かったので短いですが今回は此処まで
登場人物
フィリア・リース:最近トウヤの事をよく考えがち
ラーザ:シスとは幼馴染であり、とある屋敷から連れ去った張本人、かなりのお節介焼き
シス:実はとある名家のお嬢様であり、身売りされそうな所を連れ去ってもらった。結構人の色恋沙汰には興味がある。かなりのお節介焼き
エオーネ:barエオーネの店主であり、とある国の皇子
国の代表たる超越者になるべく武者修行中
雨宮天華:今代の鎧の勇者、訓練が終わり勇者友達も出来た