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飛んで東国 9

登場人物

浅間灯夜:主人公、得意料理は幼少期から母に教えてもらった唐揚げ、最近ソース作りに凝っている

後ろから聞こえる戦闘音に振り返る事なくトウヤはただ1人廊下を走り続ける


目指すは御所の最奥にある謁見の間、2枚目の松の木の様なものが描かれた襖を開ければ、目の前には広々として空間が現れた


よく見れば部屋の欄間が天井から突き出ていることから、幾つかの部屋の襖を外しひとつの大部屋にしたと言うことが窺い知れる


「よくここまで来たな、浅間灯夜」


「・・・! 誰だ!」


薄く闇が掛かる部屋の最奥から声が聞こえる

どこか威圧的で恐ろしい声、ゆっくりと声へと近付き目を細めよく見れば、何やら巨大な影が見えた


影が立ち上がりゆっくりと近付いてくると、影の正体が顕になる


それは正しく鬼だった

額から伸びる魔力ではなく実体を持つ黒く変色した血のように澱んだ赤い2本角。捲れ上がった様な口からは真っ赤な口内と鋭い牙が見える。

身体全体はどんな鬼よりも引き締まっており、極限まで引っ張られて千切れかけている白い体皮と比して、その隙間から溢れんばかりの真っ赤な筋肉が隆起し、非生物的にも見える生々しい赤と白のコントラストを実現していた


目の前の存在を生き物として認識したくない

こんな生物が居てたまるか、トウヤの胸中に湧き出た感情は一変の狂いもない純粋な恐怖


ビヨロコやクーラなどの比ではない、生物どころか存在としての格の違いをひしひしと感じられてしまう


「お前がデアテラのお気に入り・・・いや、忌み子か?」


先ほどの鬼達とさして変わらない身長の存在が、いつの間にかトウヤの目の前までくると覗き込んでくる


スンスンと匂いを嗅ぎながら、黒い目に浮かぶ赤い瞳孔を丸い形から縦に細長い形へと変えながらトウヤを見つめてきた


それを彼は見ていることしかできない


「なるほど、確かにデアテラの匂いがするな、だがまだ薄いか・・・」


「お、お前は・・・い、いったい・・・」


小刻みに震える身体を抑え、上がる息をなんとか整えて声を発すると、鬼は部屋の奥へと戻りながら話してきた


「俺の名は・・・そうだな、鬼神とでも言っておこうか、我らが父の悲願成就の為、原初の魔王を叩き起こしにきたのだ」


軽く発された言葉ひとつひとつがトウヤに重圧を与え、まるで話が入ってこない。ここにいるのはまずいと、そう本能が警鈴を鳴らし続けていた


ドカリと座布団へと腰掛けながら気だるげに鬼神は問いかけてくる


「して、貴様は何故ここに来た?」


答えてはいけない、それを答えれば確実に死ぬ


そうわかっていながらもトウヤは勇気を振り絞って言った


「お前を・・・お前を倒す為だ」


「俺を? 超越者でもないただのお前がか? 笑わせるな人間」


ーー無理だ


鬼神の顔が僅かな苛立ちを宿し声を発した瞬間に心がガリガリと削れる

絶対に勝てないのが戦う前からもわかってしまう


「幾ら下界に降りようとも俺は神だぞ? 何故人に倒せると思った?」


不思議そうに言い放つ、それは鬼神の驕りではない。重厚な鋼鉄の塊を素手で割れるかと問われた様な至極当たり前の事実であり、本気で疑問に思っているのだ


「俺は忙しいのだ、ただでさえこの国にはゴミが多い、そのゴミ掃除ですら貴様らが俺の部下を殺した事で手が足りないというのに・・・」


「ゴ・・・ミ・・・?」


「あぁ貴様ら人間種の事だ、ただでさえ数が多いのにその上黒だ白だ緑だ黄色だ、毛だらけや翼があったりと種類まで豊富ときた。これでは駆除にも時間が掛かる・・・」


その言葉を皮切りにトウヤの中でひとつの感情が強くなる。それは際限のない恐怖という心の負荷への抵抗として生まれ出た感情ではあったが、鬼神の言葉を聞きさらに強くなっていく


色付いた感情のままにトウヤは口を開く


「人間は・・・ゴミじゃない」


「いいやゴミだ! この世界にヘドロの様にへばり付くゴミだ! 人間が何をした。特に発展すら出来ずにただ無作為に数を増やす事しか出来ないゴミだ!」


「お前が何を根拠に発展してないなんて言うのか知らないが、心も技術も人は常に進化し続けている。お前なんかに何がわかる!」


「貴様・・・何がわかるだと」


言い返された内容に腹を立てたのか、空気がひりつきだし鬼神が怒っているのがトウヤにはよくわかった。しかし、トウヤはもう怯まない

例え勝てないと本能で理解すれど、外法で生まれ人の血肉を喰らいゴミと罵る悪鬼に恐怖を抱くことはない


心の底から燃え上がる怒りを足に込め、己が立つための礎とし、トウヤはただ前を向き仮面の内から悪鬼を睨み付けた


勝てぬ確信が無ければ挑まぬ理由にはならない、成さねばならぬ理由があるから挑むのだ


「お前みたいなやつ、俺が絶対許さねぇ!」


腕を振るい円盤を取り出すと、トウヤは腰の突起へと円盤をはめ込む


『パワード!!』


装着物を確認するかの様に発された機械音声に呼応する様に、ブレスレットを円盤へと擦り合わせる


「変身!!」


『モードエボリューション!パ・パ・パ・パワード!!』


包み込む光を振り払うとガラスが砕ける様な音と共に、パワードへと姿を変えたフレアレッドの姿が現れる


「お前の行い、俺が止める!」


「やって見せろ、人間!!」


怒号と共に鬼神は、トウヤとの間合いを一気に詰め、握り込んだ拳を打ち込んでくる


今までトウヤが戦って来たどの怪人よりも早い拳だが、パワードになり強化されたバロン式身体強化術式により強化された動体視力は拳を捉え紙一重で飛び躱わすと、天井スレスレで鬼神の頭上を飛び越えながら射撃形態のフィーベル・アローから魔力の矢を作り出し、鬼神の背中目掛けて3連射する


「小癪な!」


魔力の矢を撃ち込まれても微動だにせず、鬱陶しげに振り下ろした拳を唸らせながら横に薙ぎ、落下中のトウヤの腹へと拳を当てる


「グゥッ!」


腹に当たりめり込んだ拳は、スーツの結界魔法と防御力を超え内蔵に響き渡る痛みを与えると、トウヤを轟音と共に部屋の奥へと吹き飛ばした


奥の襖に当たり破片を撒き散らし畳の上を転がりながら、トウヤは痛みに呻く


「どうした人間、まさかこの程度で終わりではなかろうな?」


「この野郎・・・!」


挑発してくる鬼神に対して、トウヤは腹部の痛みを堪え立ち上がる


「誰か・・・おるのか?」


そんなトウヤに背後から弱々しい声が掛けられた


思わず振り返ってみれば、部屋の奥には水墨画の描かれた壁の前に1人の男が倒れ伏しているのが目に入る


「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!」


すぐさま近寄り声をかけるとーー声の主が紫の着物に身を包む男がまだ年若い青年である事がわかるーーグッタリと力無く倒れる彼は、弱々しく震わせた腕をトウヤへと伸ばしてくる


「頼む・・・あやつを、あやつを、止めてくれ・・・」


縋るように腕を伸ばし、哀しげな表情を浮かべ懇願する青年の手を、トウヤはギュッと優しく包み込むように両手で握った


「大丈夫、俺がなんとかするからちょっと待っててくれ」


仮面の下でそう笑顔を取り繕い言うと、青年は安心した様に気を失う


それを見届けたトウヤはそっと青年の手を畳の上に置くと、ゆっくりと立ち上がり鬼神に問いかける


「お前・・・この人に何をした」


溢れんばかりの怒気を纏いながらトウヤが問い掛けると、鬼神は平然と答えた


「そやつは俺の依代だ、ただ人間の体など俺には不要だから魔力を吸ったままほったらかしにしてたのだが、まだ息があったんだな」


「お前・・・」


まるで人を携行食糧の様に扱う鬼神に、トウヤは益々怒りを覚え、彼の湧き上がる感情に呼応する様に身体の底から魔力が湧き上がりスーツの表面で結晶化していく


そうして再び宣言するのだ

この悪鬼を討つと


「絶対に許さねぇ!」

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